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第2部 消えた志求磨
71 楊永順(伊能九十朗視点)
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「おいおいおい……嘘だろ」
俺の剣……華叉丸から借りた志求磨の剣はシエラ=イデアルに届いていなかった。
素手で剣身を掴まれている。しかも片手で。
あり得ない。この駄女神はやかましいだけの役立たず。戦闘能力は皆無だというのはこれまでの覚醒時に何度も確認している。
「ちいっ」
こっちは両手で柄を掴み、ぐうっと押し込むが──動かない。なんて力だ。
うつむいたままの《女神》シエラはこちらを見てすらいない。いや、ぼそぼそと何かをしゃべりだした。しかし……これは……男の声!?
「ずいぶんとご機嫌っスねぇ~、伊能。てっきり死んだモンと思ってたっスよ」
顔を上げたシエラの顔は少女のままだが……この目。寒気がして思わず剣を放し、飛び退いた。
「カンがいいっスね……あとちょっと離れるのが遅かったらその胴体に風穴空けられたのに」
シエラは剣を放り投げ、自分の右手を確認するように何度も握ったり開いたりしている。
「お前……葉桜溢忌なのか?」
この声、目つき、そして願望の力……。
だがヤツは死んだはずだ。深淵でこっぱみじんになって吹っ飛んだと聞いた。
いや、この《女神》に吸収されたとも……。
「いやあ、どうなんスかね。ちょっとシエラの身体を借りられたっつーか。ああ、また眠くなってきたっスよ。残念っス、まだ話したい事とか人とかいたのに……よりによって最初が伊能だなんて。ツイてないっス……」
そう言ってシエラはだらんと手を下げ、うつむく。そしてゆっくりとその場に座り込んだ。
「俺で悪かったな……ビビらせやがって。だが一時的にしろ、もう甦ることはねぇぜ」
落ちている志求磨の剣を拾いに走る。
華叉丸と魔王はエサだ。ジャマしそうなヤツら全員の目をそちらに向けさせるための。
カーラがここに残っていたことと、さっきの一撃でシエラを貫けなかったのは予想外だったが問題ない。
あの剣、願望の力を打ち消す力を持つあの剣さえ再び手にすれば……。
だが俺の目の前で剣は浮遊し、カーラのもとへ。ヤバいと思った時には全身に衝撃。地面を転がった。
「伊能……この剣で何をするつもりだったの? シエラを殺すのが目的ならこの剣じゃなくても可能なはず。まさか葉桜溢忌がシエラを助けるとは思わなかったけど」
カーラの両目が紅く光る。
《青の魔女》じゃねえ。《紅玉の殲滅者》と呼ばれていたときの目だ。
こいつはマジでヤバい。作戦は失敗だ。この場はなんとか逃げ切って次の機会を狙うしかない。
「答えなさい」
「ぐあっ!」
また衝撃。俺はさらに吹っ飛ばされた。
地面を転がりながら考える。どうする。どうやって切り抜ける。俺なら逃げ切れるはずだ。今までもうまくやれてきた。生き延びてこれた。俺の真の目的を果たすまでは──。
「隠形も擬死もわたしには通じないわ。逃げられるとは思わないほうがいいわね」
「まてまて、荒っぽいことはよせよ……。アンタの過去……葉桜溢忌よりもさらに昔の事を知っているのは俺だけなんだぜ。そこの《女神》すら忘れてる過去を……」
バチイッ、と電撃。カーラの杖から発せられたものだ。
俺は苦痛に呻き、のたうちまわる。
「わたしの過去なんてどうでもいい事なの。言ったでしょう。あなたはなぜこの志求磨君の剣でシエラを貫こうとしたのか。それが知りたいの」
「ハ……ハハ。だからよ、アンタの過去と関係あることなんだよ。その《女神》の中にあるもうひとつの世界を解放するには《解放の騎士》天塚志求磨の力が必要ってことさ」
「もうひとつの世界……? どういう意味? なぜわたしの過去と関係があるの?」
「知りたきゃあ、その剣をこっちに返しな。そうすれば教えてやるよ、《青の魔神》」
ここでカーラの杖が下がり、フッ、と目の光が消えた。動揺している──。
隠形を使い、姿を消す。そして接近。
カーラの側で浮いている志求磨の剣に手を伸ばす。
剣の柄に触れた。だがその瞬間、指先からボゴボゴボゴォッと手が膨れ上がり、右腕が爆発したように弾け飛んだ。
「──があっ!? ちくしょうっ!」
罠だった。右ヒジから下が吹っ飛ばされた。
倒れる俺の隠形は解除され、冷たく見下ろすカーラの視線。その目が再び紅く光りだす。
「……やっぱりいいわ。あなたの口は信用ならない。死んだあとに脳に直接聞いたほうが確実だから」
やべェ。やべェやべェ、やべェ! 死ぬ! カーラの杖の先から閃光が放たれて──。
ドンッ、と俺は突き飛ばされた。
カーラの攻撃を避けることができた。だが、俺を突き飛ばしたのは……楊だ。
楊の身体は閃光に貫かれて人形のように崩れ落ちる。
「楊っ、どうして──!」
カーラがすぐに治癒魔法をかけるが……ダメだ。一目で分かる。もう手遅れだ。
《斉天大聖》楊永順は血をゴホゴホ吐きながら俺に向かって言う。
「伊能さん……逃げて……ください……今のうちに」
……分かってる。お前の犠牲はムダにはしねえ。お前はいつか……こんな真似をするんじゃねえかって思っていた。お前はそんなヤツだ。分かっててここまで連れてきた。
「楊……あなたは利用されていたのよ。伊能にも華叉丸にも。あなたの純真さを知っていて……」
カーラが抱きかかえながら必死に呼びかけている。俺のことは眼中にない。
「伊能さんは……命の恩人なんです。少しでも恩返しができたんなら……それよりカーラ……さん。最期に会えてよかった……。以前、ギルドを黙って離れたことを……謝れなくて……ごめんなさい」
「そんなことはいいの。そんなこと、わたしは気にしてなんていなかった……」
今のうちだ。俺は隠形を使い、スウッと消えながら楊の最期の表情を見届ける。
頭巾も布も取れ、猫耳と琥珀色の瞳が露になっている。
少し笑い、涙がこぼれ落ちたように見えた。
あばよ……楊。
俺の剣……華叉丸から借りた志求磨の剣はシエラ=イデアルに届いていなかった。
素手で剣身を掴まれている。しかも片手で。
あり得ない。この駄女神はやかましいだけの役立たず。戦闘能力は皆無だというのはこれまでの覚醒時に何度も確認している。
「ちいっ」
こっちは両手で柄を掴み、ぐうっと押し込むが──動かない。なんて力だ。
うつむいたままの《女神》シエラはこちらを見てすらいない。いや、ぼそぼそと何かをしゃべりだした。しかし……これは……男の声!?
「ずいぶんとご機嫌っスねぇ~、伊能。てっきり死んだモンと思ってたっスよ」
顔を上げたシエラの顔は少女のままだが……この目。寒気がして思わず剣を放し、飛び退いた。
「カンがいいっスね……あとちょっと離れるのが遅かったらその胴体に風穴空けられたのに」
シエラは剣を放り投げ、自分の右手を確認するように何度も握ったり開いたりしている。
「お前……葉桜溢忌なのか?」
この声、目つき、そして願望の力……。
だがヤツは死んだはずだ。深淵でこっぱみじんになって吹っ飛んだと聞いた。
いや、この《女神》に吸収されたとも……。
「いやあ、どうなんスかね。ちょっとシエラの身体を借りられたっつーか。ああ、また眠くなってきたっスよ。残念っス、まだ話したい事とか人とかいたのに……よりによって最初が伊能だなんて。ツイてないっス……」
そう言ってシエラはだらんと手を下げ、うつむく。そしてゆっくりとその場に座り込んだ。
「俺で悪かったな……ビビらせやがって。だが一時的にしろ、もう甦ることはねぇぜ」
落ちている志求磨の剣を拾いに走る。
華叉丸と魔王はエサだ。ジャマしそうなヤツら全員の目をそちらに向けさせるための。
カーラがここに残っていたことと、さっきの一撃でシエラを貫けなかったのは予想外だったが問題ない。
あの剣、願望の力を打ち消す力を持つあの剣さえ再び手にすれば……。
だが俺の目の前で剣は浮遊し、カーラのもとへ。ヤバいと思った時には全身に衝撃。地面を転がった。
「伊能……この剣で何をするつもりだったの? シエラを殺すのが目的ならこの剣じゃなくても可能なはず。まさか葉桜溢忌がシエラを助けるとは思わなかったけど」
カーラの両目が紅く光る。
《青の魔女》じゃねえ。《紅玉の殲滅者》と呼ばれていたときの目だ。
こいつはマジでヤバい。作戦は失敗だ。この場はなんとか逃げ切って次の機会を狙うしかない。
「答えなさい」
「ぐあっ!」
また衝撃。俺はさらに吹っ飛ばされた。
地面を転がりながら考える。どうする。どうやって切り抜ける。俺なら逃げ切れるはずだ。今までもうまくやれてきた。生き延びてこれた。俺の真の目的を果たすまでは──。
「隠形も擬死もわたしには通じないわ。逃げられるとは思わないほうがいいわね」
「まてまて、荒っぽいことはよせよ……。アンタの過去……葉桜溢忌よりもさらに昔の事を知っているのは俺だけなんだぜ。そこの《女神》すら忘れてる過去を……」
バチイッ、と電撃。カーラの杖から発せられたものだ。
俺は苦痛に呻き、のたうちまわる。
「わたしの過去なんてどうでもいい事なの。言ったでしょう。あなたはなぜこの志求磨君の剣でシエラを貫こうとしたのか。それが知りたいの」
「ハ……ハハ。だからよ、アンタの過去と関係あることなんだよ。その《女神》の中にあるもうひとつの世界を解放するには《解放の騎士》天塚志求磨の力が必要ってことさ」
「もうひとつの世界……? どういう意味? なぜわたしの過去と関係があるの?」
「知りたきゃあ、その剣をこっちに返しな。そうすれば教えてやるよ、《青の魔神》」
ここでカーラの杖が下がり、フッ、と目の光が消えた。動揺している──。
隠形を使い、姿を消す。そして接近。
カーラの側で浮いている志求磨の剣に手を伸ばす。
剣の柄に触れた。だがその瞬間、指先からボゴボゴボゴォッと手が膨れ上がり、右腕が爆発したように弾け飛んだ。
「──があっ!? ちくしょうっ!」
罠だった。右ヒジから下が吹っ飛ばされた。
倒れる俺の隠形は解除され、冷たく見下ろすカーラの視線。その目が再び紅く光りだす。
「……やっぱりいいわ。あなたの口は信用ならない。死んだあとに脳に直接聞いたほうが確実だから」
やべェ。やべェやべェ、やべェ! 死ぬ! カーラの杖の先から閃光が放たれて──。
ドンッ、と俺は突き飛ばされた。
カーラの攻撃を避けることができた。だが、俺を突き飛ばしたのは……楊だ。
楊の身体は閃光に貫かれて人形のように崩れ落ちる。
「楊っ、どうして──!」
カーラがすぐに治癒魔法をかけるが……ダメだ。一目で分かる。もう手遅れだ。
《斉天大聖》楊永順は血をゴホゴホ吐きながら俺に向かって言う。
「伊能さん……逃げて……ください……今のうちに」
……分かってる。お前の犠牲はムダにはしねえ。お前はいつか……こんな真似をするんじゃねえかって思っていた。お前はそんなヤツだ。分かっててここまで連れてきた。
「楊……あなたは利用されていたのよ。伊能にも華叉丸にも。あなたの純真さを知っていて……」
カーラが抱きかかえながら必死に呼びかけている。俺のことは眼中にない。
「伊能さんは……命の恩人なんです。少しでも恩返しができたんなら……それよりカーラ……さん。最期に会えてよかった……。以前、ギルドを黙って離れたことを……謝れなくて……ごめんなさい」
「そんなことはいいの。そんなこと、わたしは気にしてなんていなかった……」
今のうちだ。俺は隠形を使い、スウッと消えながら楊の最期の表情を見届ける。
頭巾も布も取れ、猫耳と琥珀色の瞳が露になっている。
少し笑い、涙がこぼれ落ちたように見えた。
あばよ……楊。
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