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第2部 消えた志求磨
72 不死鳥
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アルマによって炎属性を付与された刀。
居合いの構えから抜刀──。おお、飛ぶ斬撃、太刀風も炎をまとっている。
炎の衝撃波を華叉丸はアイスブランドで斬り落とす。
だがアルマがそのスキに接近していた。
赤く光る二刀ダガーで斬りつける。
華叉丸は下がりながら防御。そしてふいに床へ剣を突き立てる。
いかん、あの技は──。
ゴッ、と氷柱が飛び出てアルマが……いや、一瞬で氷柱が溶け落ちた。
驚く華叉丸に向け、アルマがダガーを振り下ろす。
アイスブランドに防がれたが、アルマの蹴りが炸裂。しかもゴアッ、とヤツの身体が燃え上がった。
武器だけじゃなく、身体全体に炎属性をまとわせているのか。
華叉丸が怒りの声をあげながら回転。炎は消え、辺りに凄まじい吹雪が巻き起こる。
「あっ!」
アルマの声。吹雪によって飛ばされ、わたしの近くまで戻ってきた。
炎属性が解除されている。ヤツの……アイスブランドの力によるものか。
「なんて剣……あたしの新しい力が通用しないなんて」
華叉丸は吹雪を巻き起こしながらさらに剣を振り上げる。
「驚いたぞ……この剣の力をここまで引き出さねばならんとはな。だが……ここまでだ」
くそっ、この吹雪で目を開けているのもやっとだ。身体のあちこちが凍りついてきている。
アルマも願望の力を高めようとしているが……ダメだ。まずこの吹雪をどうにかしないと。
「もうその娘のような助けはこないぞ。由佳殿──覚悟っ」
アイスブランドを一閃。
白い凍気の衝撃波がこちらへ向かって放たれた。
もう、本当にダメだっ! アルマも動けない。助けもこない! わたし達はあの剣の少女──イルネージュみたいに氷漬けになってしまうのか。
目の前で爆発音。シュウウウ、と辺りは白い蒸気に包まれて何も見えない。
なんだ……? アルマも見えない。わたしは無事だ。凍りはじめていた身体も元通り。いったい何が起きたんだ……。
蒸気の立ち込める中で人影が見えた。アルマか? いや、違う。
黒髪のポニーテール、黒い瞳、わたしと同じ顔……。まさか……なんで……どうしてここに。
「お姉さま、ちっとはウチを信用してよー。死んじゃったら元も子もないじゃん。今度は暴走なんかしないから……ね? ウチの力使わないと勝てないよ~、多分」
黒由佳だ。これは夢か。わたしはフラフラと立ち上がり手を伸ばす。
黒由佳はフフッ、と笑ってわたしの手に合わせるように触れた。そして──消えた。
辺りには蒸気のみ。次第に晴れてきた。アルマの姿も見えてきた。そして華叉丸も。
「黒由佳……お前が助けてくれたのか。そしてわたしになれっていうのか、《断ち斬る者に》」
「由佳……?」
アルマは呆然としている。さっきの黒由佳の姿はわたしにしか見えていなかったようだ。
「なんだと……バカな! あの攻撃を防ぐ余裕など無かったはず! こんなことが起こるなど信じられぬ……」
華叉丸も目の前の光景が信じられないようだ。明らかにうろたえている。
「わかったよ、黒由佳……お前を信じる。力を貸してくれ。お前は……わたしなんだから」
静かに集中──。
腹の底からゴッ、と熱い願望の力が沸き上がる。
喉を突き抜け、脳天へ激突。わたしの頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれる。
《剣聖》《断ち斬る者》羽鳴由佳。
左目が熱くなり、左の手足に黒い紋様がゾゾゾと浮き出てくる。
「今さら《断ち斬る者》など……笑止っ!」
華叉丸が向かってくる。わたしは……冷静だ。暴走する気配なんて少しも感じない。
「アルマ」
「うん、分かってる」
静かに呼びかけると、アルマから再び属性付与の力が届く。
炎属性の刀。鞘を握りしめる。
華叉丸が下からの斬り上げるような一撃。
ズアッ、と氷塊が這うようにこちらに伸びてくる。
「はっっ!」
踏み込む──。まだ刀は抜いていない。
気合いだけで氷塊が砕け散った。
「こけおどしがっ」
跳躍した華叉丸。上から叩きつけるような斬撃。
わたしはそれを半身になって避けつつ、抜刀──。
「ぬぐうっっ!」
華叉丸の腹に刀身がめり込む。
わたしはそのまま振り抜いてヤツを宙へ吹っ飛ばす。
華叉丸の神主のような衣装とその下に着込んでいた甲冑が砕けた。
納刀。夜空に舞うヤツに向けて、再び抜刀。
「シッ!」
ゴバババッ、と炎の太刀風が飛ぶ。
しかもその数、100以上。
ボッ、ボボボボッ、ボンッ、と花火のような音と光を放ちながら衝撃で上昇していく。
「おっ、のっ、れええぇーー!」
空中でぐりんと回転する華叉丸。まだ動けるのか。ボロボロになりながらアイスブランドの先をこちらに向ける。
何か様子がおかしい。アイスブランドが生き物のようにぐにぐに動いている。華叉丸の右腕を這い上がり、一体化したように見えた。
そして剣先がギパァッ、と獣の口のように変化。そこから飛び出したのは氷塊。
ぐるぐる回転しながら飛んでくるそれは次第にデカくなっている。周りの冷気を吸収しているのか。
氷山ほどの大きさに成長した塊が城ごと押し潰そうと迫ってくる。
「はあああっっ!」
納刀──練気で攻撃力を高め、さらにアルマから炎の属性を強化してもらう。
「いけえっ!」
抜刀。わたしの刀から放たれたのは、真・太刀風による三日月状の剣閃ではなかった。
まるで鳥のような……巨大な火の鳥、いや不死鳥か。わたしとアルマ、そして黒由佳の力が合わさったせいか。
落下する氷山にぶつかった不死鳥。そのまま燃え盛りながら空中の華叉丸まで押し返そうとするが──華叉丸もさらに異様な変化を見せていた。
アイスブランドから伸びた触手が身体中に突き刺さっている。
髪も、瞳も銀色に。ウオオオ、と叫びながら氷山にさらなる力を加えている。
剣の力を制御できていない。もうあれは華叉丸じゃない。凍獄魔剣アイスブランドそのものだ。
居合いの構えから抜刀──。おお、飛ぶ斬撃、太刀風も炎をまとっている。
炎の衝撃波を華叉丸はアイスブランドで斬り落とす。
だがアルマがそのスキに接近していた。
赤く光る二刀ダガーで斬りつける。
華叉丸は下がりながら防御。そしてふいに床へ剣を突き立てる。
いかん、あの技は──。
ゴッ、と氷柱が飛び出てアルマが……いや、一瞬で氷柱が溶け落ちた。
驚く華叉丸に向け、アルマがダガーを振り下ろす。
アイスブランドに防がれたが、アルマの蹴りが炸裂。しかもゴアッ、とヤツの身体が燃え上がった。
武器だけじゃなく、身体全体に炎属性をまとわせているのか。
華叉丸が怒りの声をあげながら回転。炎は消え、辺りに凄まじい吹雪が巻き起こる。
「あっ!」
アルマの声。吹雪によって飛ばされ、わたしの近くまで戻ってきた。
炎属性が解除されている。ヤツの……アイスブランドの力によるものか。
「なんて剣……あたしの新しい力が通用しないなんて」
華叉丸は吹雪を巻き起こしながらさらに剣を振り上げる。
「驚いたぞ……この剣の力をここまで引き出さねばならんとはな。だが……ここまでだ」
くそっ、この吹雪で目を開けているのもやっとだ。身体のあちこちが凍りついてきている。
アルマも願望の力を高めようとしているが……ダメだ。まずこの吹雪をどうにかしないと。
「もうその娘のような助けはこないぞ。由佳殿──覚悟っ」
アイスブランドを一閃。
白い凍気の衝撃波がこちらへ向かって放たれた。
もう、本当にダメだっ! アルマも動けない。助けもこない! わたし達はあの剣の少女──イルネージュみたいに氷漬けになってしまうのか。
目の前で爆発音。シュウウウ、と辺りは白い蒸気に包まれて何も見えない。
なんだ……? アルマも見えない。わたしは無事だ。凍りはじめていた身体も元通り。いったい何が起きたんだ……。
蒸気の立ち込める中で人影が見えた。アルマか? いや、違う。
黒髪のポニーテール、黒い瞳、わたしと同じ顔……。まさか……なんで……どうしてここに。
「お姉さま、ちっとはウチを信用してよー。死んじゃったら元も子もないじゃん。今度は暴走なんかしないから……ね? ウチの力使わないと勝てないよ~、多分」
黒由佳だ。これは夢か。わたしはフラフラと立ち上がり手を伸ばす。
黒由佳はフフッ、と笑ってわたしの手に合わせるように触れた。そして──消えた。
辺りには蒸気のみ。次第に晴れてきた。アルマの姿も見えてきた。そして華叉丸も。
「黒由佳……お前が助けてくれたのか。そしてわたしになれっていうのか、《断ち斬る者に》」
「由佳……?」
アルマは呆然としている。さっきの黒由佳の姿はわたしにしか見えていなかったようだ。
「なんだと……バカな! あの攻撃を防ぐ余裕など無かったはず! こんなことが起こるなど信じられぬ……」
華叉丸も目の前の光景が信じられないようだ。明らかにうろたえている。
「わかったよ、黒由佳……お前を信じる。力を貸してくれ。お前は……わたしなんだから」
静かに集中──。
腹の底からゴッ、と熱い願望の力が沸き上がる。
喉を突き抜け、脳天へ激突。わたしの頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれる。
《剣聖》《断ち斬る者》羽鳴由佳。
左目が熱くなり、左の手足に黒い紋様がゾゾゾと浮き出てくる。
「今さら《断ち斬る者》など……笑止っ!」
華叉丸が向かってくる。わたしは……冷静だ。暴走する気配なんて少しも感じない。
「アルマ」
「うん、分かってる」
静かに呼びかけると、アルマから再び属性付与の力が届く。
炎属性の刀。鞘を握りしめる。
華叉丸が下からの斬り上げるような一撃。
ズアッ、と氷塊が這うようにこちらに伸びてくる。
「はっっ!」
踏み込む──。まだ刀は抜いていない。
気合いだけで氷塊が砕け散った。
「こけおどしがっ」
跳躍した華叉丸。上から叩きつけるような斬撃。
わたしはそれを半身になって避けつつ、抜刀──。
「ぬぐうっっ!」
華叉丸の腹に刀身がめり込む。
わたしはそのまま振り抜いてヤツを宙へ吹っ飛ばす。
華叉丸の神主のような衣装とその下に着込んでいた甲冑が砕けた。
納刀。夜空に舞うヤツに向けて、再び抜刀。
「シッ!」
ゴバババッ、と炎の太刀風が飛ぶ。
しかもその数、100以上。
ボッ、ボボボボッ、ボンッ、と花火のような音と光を放ちながら衝撃で上昇していく。
「おっ、のっ、れええぇーー!」
空中でぐりんと回転する華叉丸。まだ動けるのか。ボロボロになりながらアイスブランドの先をこちらに向ける。
何か様子がおかしい。アイスブランドが生き物のようにぐにぐに動いている。華叉丸の右腕を這い上がり、一体化したように見えた。
そして剣先がギパァッ、と獣の口のように変化。そこから飛び出したのは氷塊。
ぐるぐる回転しながら飛んでくるそれは次第にデカくなっている。周りの冷気を吸収しているのか。
氷山ほどの大きさに成長した塊が城ごと押し潰そうと迫ってくる。
「はあああっっ!」
納刀──練気で攻撃力を高め、さらにアルマから炎の属性を強化してもらう。
「いけえっ!」
抜刀。わたしの刀から放たれたのは、真・太刀風による三日月状の剣閃ではなかった。
まるで鳥のような……巨大な火の鳥、いや不死鳥か。わたしとアルマ、そして黒由佳の力が合わさったせいか。
落下する氷山にぶつかった不死鳥。そのまま燃え盛りながら空中の華叉丸まで押し返そうとするが──華叉丸もさらに異様な変化を見せていた。
アイスブランドから伸びた触手が身体中に突き刺さっている。
髪も、瞳も銀色に。ウオオオ、と叫びながら氷山にさらなる力を加えている。
剣の力を制御できていない。もうあれは華叉丸じゃない。凍獄魔剣アイスブランドそのものだ。
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