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第2部 消えた志求磨
73 アイスブランドを封じろ
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氷山はギュルルルと回転しながらまだ大きくなっていく。
わたしが放った不死鳥がなんとか押さえこんでいるが、このままでは押し潰されてしまう。
再び真・太刀風を使うには時間が必要だ。どうする……。
その時ゴアッ、と隅のほうから願望の力が高まるのを感じた。
この力は……短髪にボロい武道着の男。《拳聖》ショウだ。
剣から人の姿に戻っている。またわたし達のジャマをするつもりか。こんな時に──。
ショウの妙な身体の動き。前後、下、また前……あれは──ヤツの隠し超必殺技!
「獄炎鬼砲拳!」
ショウの背後からゴワッ、と願望の力が炎となり集まる。それが渦を巻いて突き出した両掌から放たれた。
「うわっ」
どでかい炎の気弾はわたし達に向けられたものではない。
上空の不死鳥にぶつかり、その炎の勢いを増す形になった。
「ショウ、お前……」
正気に戻っている。華叉丸に剣に変えられた者はヤツの言いなりのはずだったが……。
「華叉丸の剣化能力が突然弱まった。ヤツはすでに願望者としての力を維持できない状態だ」
ショウが気弾を放出しながら言った。
それで《剣人一如》の能力から解放されたのか。もしかしたら他の人も……志求磨も。
「《剣聖》、今のうちに力を溜めろ。俺も長くは耐えられん」
ショウの気の放出により不死鳥はさらに燃え上がっているが、それでもまだ氷山はグググと落下してきている。
「わかった! 持ちこたえてくれ、ショウ」
練気。願望の力を刀へ一点集中。
さっき真・太刀風を撃ったばかりだ。間に合うか──。
「あたしの力も全部使って、由佳」
そう言ってアルマがわたしの手に触れ、ガクッとヒザをついた。炎の属性付与とともに願望の力がはね上がる。
「アルマ……限界までわたしに力を分けてくれたのか。大丈夫。これなら……この一撃で決める」
天まで貫きそうな願望の力。
ギイイイイ、ガタガタガタ、と鍔が震え、鞘との隙間から眩しいほどの光を放つ。
「──フウッッ!」
抜刀。同時にわたしはうしろへ吹っ飛ばされた。
刀から放たれた剣閃は先程よりも巨大な火の鳥と化して飛ぶ。
最初に放った不死鳥を、そして氷山をも包み込むほどに。
カッ、と夜空に光。そして轟音。
わたしが目を開けたときにはキラキラと夜空に白い氷の粒が舞っていた。
願望の力を使いすぎた……。わたしの姿は《断ち斬る者》から元の姿に戻っている。
上空から煙を出しながら落下してくるのは華叉丸だ。
城の上でショウが受け止めた。
わたしとアルマが近付く。
華叉丸はショウの腕の中でゆっくりと目を開けた。
髪も瞳の色も元に戻っている。右腕と一体化していた剣はいつの間にか外れて、かたわらに落ちている。
「これは……」
「ヒドイ……」
わたしもアルマも息をのむ。
華叉丸の身体……アイスブランドの触手に傷つけられてズタズタだ。
華叉丸はブルブルと震える手をこちらに伸ばしてきた。思わずその手を両手で握る。
「由佳……殿。途中より我はあの剣に支配されていた。どうやら伊能に騙されていたようだ。我が能力なら、あの剣を制御できるなどと……。とんでもなかった。アレは人の手でどうにかできるモノではない」
床に落ちているアイスブランドがカタカタと動きだした。なにかヤバい──。
「……我にはすでにあの剣を封じる力は無い。だが由佳殿、そなたは物体を剣に変える能力。我は人を剣に変える能力。似ているとは思わぬか」
「? たしかに。でもそれが一体……」
「よいか。この剣を再び世に放ってはならぬ。我が最後の力をもって……一度限りだが、《剣人一如》の能力を由佳殿に託す。その力でアイスブランドを封じるのだ」
なんだと……そんなことが可能なのか。一時的に華叉丸の能力が使えるというわけか。しかし、そんな無茶をすれば……。
わたしがためらっていると、アイスブランドから複数の触手がギュルンッ、と伸びてきた。
ショウとアルマが弾き飛ばされ、触手の先端はわたしを狙って──。
ドドドッ、と触手に貫かれたのは華叉丸だ。わたしをかばった──?
血を吐きながら、まだ握っている手から願望の力を放出している。
わたしの中に流れ込んでくる。華叉丸の力。
ああ……最期の力だ。命が消える前の。黒由佳の時と似ている。
華叉丸の記憶だろうか。それも頭に流れ込んできた。
願望者になる前……。宝剣男子……華叉丸の姿と同じキャラのグッズを買い込んでいる大学生ぐらいの女性が見えた。これが……華叉丸の元の世界での姿。
背が高くてスタイル良くて、スゴくキレイな人だ。どうしてこの世界に来たのだろう……。
願望者になってからの記憶。まっさきに《覇王》黄武迅の顔が出てきた。
本当に《覇王》のことを尊敬していたようだ。いや、それだけじゃない。この感情……これは……。
「由佳殿っ。あとは……頼んだぞ。志求磨《しぐま》の剣は伊能が持っていった。今頃は剣化も解けていよう。伊能を……止めるのだ。あの者の狙いは、世界の安定などではない。もっと別の──」
さらに触手が貫き、華叉丸は前のめりに倒れる。
アイスブランドは宙に浮き、姿を変化させようとしている。これは……あの氷漬けにされていた少女、イルネージュに戻ろうとしているのか。
「させるかっ」
触手を斬り落とし、わたしは刀を捨てた。そして無我夢中でアイスブランドへ飛びつく。
その柄のあたりを握り、願望の力を……華叉丸からもらった力を手に集中させる。
わたしの頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれた。
《剣聖》《剣人一如》羽鳴由佳。
ぐぐぐ、とアイスブランドが剣の形へ戻っていく。
触手はもう伸びてこない。完全に剣の形として封じた。確信できる。なんとか……間に合った。
わたしはアイスブランドを握ったまま、その場に座りこむ。
もうわたしの二つ名から《剣人一如》は消えていた。
わたしが放った不死鳥がなんとか押さえこんでいるが、このままでは押し潰されてしまう。
再び真・太刀風を使うには時間が必要だ。どうする……。
その時ゴアッ、と隅のほうから願望の力が高まるのを感じた。
この力は……短髪にボロい武道着の男。《拳聖》ショウだ。
剣から人の姿に戻っている。またわたし達のジャマをするつもりか。こんな時に──。
ショウの妙な身体の動き。前後、下、また前……あれは──ヤツの隠し超必殺技!
「獄炎鬼砲拳!」
ショウの背後からゴワッ、と願望の力が炎となり集まる。それが渦を巻いて突き出した両掌から放たれた。
「うわっ」
どでかい炎の気弾はわたし達に向けられたものではない。
上空の不死鳥にぶつかり、その炎の勢いを増す形になった。
「ショウ、お前……」
正気に戻っている。華叉丸に剣に変えられた者はヤツの言いなりのはずだったが……。
「華叉丸の剣化能力が突然弱まった。ヤツはすでに願望者としての力を維持できない状態だ」
ショウが気弾を放出しながら言った。
それで《剣人一如》の能力から解放されたのか。もしかしたら他の人も……志求磨も。
「《剣聖》、今のうちに力を溜めろ。俺も長くは耐えられん」
ショウの気の放出により不死鳥はさらに燃え上がっているが、それでもまだ氷山はグググと落下してきている。
「わかった! 持ちこたえてくれ、ショウ」
練気。願望の力を刀へ一点集中。
さっき真・太刀風を撃ったばかりだ。間に合うか──。
「あたしの力も全部使って、由佳」
そう言ってアルマがわたしの手に触れ、ガクッとヒザをついた。炎の属性付与とともに願望の力がはね上がる。
「アルマ……限界までわたしに力を分けてくれたのか。大丈夫。これなら……この一撃で決める」
天まで貫きそうな願望の力。
ギイイイイ、ガタガタガタ、と鍔が震え、鞘との隙間から眩しいほどの光を放つ。
「──フウッッ!」
抜刀。同時にわたしはうしろへ吹っ飛ばされた。
刀から放たれた剣閃は先程よりも巨大な火の鳥と化して飛ぶ。
最初に放った不死鳥を、そして氷山をも包み込むほどに。
カッ、と夜空に光。そして轟音。
わたしが目を開けたときにはキラキラと夜空に白い氷の粒が舞っていた。
願望の力を使いすぎた……。わたしの姿は《断ち斬る者》から元の姿に戻っている。
上空から煙を出しながら落下してくるのは華叉丸だ。
城の上でショウが受け止めた。
わたしとアルマが近付く。
華叉丸はショウの腕の中でゆっくりと目を開けた。
髪も瞳の色も元に戻っている。右腕と一体化していた剣はいつの間にか外れて、かたわらに落ちている。
「これは……」
「ヒドイ……」
わたしもアルマも息をのむ。
華叉丸の身体……アイスブランドの触手に傷つけられてズタズタだ。
華叉丸はブルブルと震える手をこちらに伸ばしてきた。思わずその手を両手で握る。
「由佳……殿。途中より我はあの剣に支配されていた。どうやら伊能に騙されていたようだ。我が能力なら、あの剣を制御できるなどと……。とんでもなかった。アレは人の手でどうにかできるモノではない」
床に落ちているアイスブランドがカタカタと動きだした。なにかヤバい──。
「……我にはすでにあの剣を封じる力は無い。だが由佳殿、そなたは物体を剣に変える能力。我は人を剣に変える能力。似ているとは思わぬか」
「? たしかに。でもそれが一体……」
「よいか。この剣を再び世に放ってはならぬ。我が最後の力をもって……一度限りだが、《剣人一如》の能力を由佳殿に託す。その力でアイスブランドを封じるのだ」
なんだと……そんなことが可能なのか。一時的に華叉丸の能力が使えるというわけか。しかし、そんな無茶をすれば……。
わたしがためらっていると、アイスブランドから複数の触手がギュルンッ、と伸びてきた。
ショウとアルマが弾き飛ばされ、触手の先端はわたしを狙って──。
ドドドッ、と触手に貫かれたのは華叉丸だ。わたしをかばった──?
血を吐きながら、まだ握っている手から願望の力を放出している。
わたしの中に流れ込んでくる。華叉丸の力。
ああ……最期の力だ。命が消える前の。黒由佳の時と似ている。
華叉丸の記憶だろうか。それも頭に流れ込んできた。
願望者になる前……。宝剣男子……華叉丸の姿と同じキャラのグッズを買い込んでいる大学生ぐらいの女性が見えた。これが……華叉丸の元の世界での姿。
背が高くてスタイル良くて、スゴくキレイな人だ。どうしてこの世界に来たのだろう……。
願望者になってからの記憶。まっさきに《覇王》黄武迅の顔が出てきた。
本当に《覇王》のことを尊敬していたようだ。いや、それだけじゃない。この感情……これは……。
「由佳殿っ。あとは……頼んだぞ。志求磨《しぐま》の剣は伊能が持っていった。今頃は剣化も解けていよう。伊能を……止めるのだ。あの者の狙いは、世界の安定などではない。もっと別の──」
さらに触手が貫き、華叉丸は前のめりに倒れる。
アイスブランドは宙に浮き、姿を変化させようとしている。これは……あの氷漬けにされていた少女、イルネージュに戻ろうとしているのか。
「させるかっ」
触手を斬り落とし、わたしは刀を捨てた。そして無我夢中でアイスブランドへ飛びつく。
その柄のあたりを握り、願望の力を……華叉丸からもらった力を手に集中させる。
わたしの頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれた。
《剣聖》《剣人一如》羽鳴由佳。
ぐぐぐ、とアイスブランドが剣の形へ戻っていく。
触手はもう伸びてこない。完全に剣の形として封じた。確信できる。なんとか……間に合った。
わたしはアイスブランドを握ったまま、その場に座りこむ。
もうわたしの二つ名から《剣人一如》は消えていた。
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