孤毒の解毒薬

紫月ゆえ

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回り始めた歯車

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 今日もらった新作は、並木が試行錯誤して生み出したオムライスである。働き始めて数日がたったとき、初めて客として訪れた際に食べたビーフシチューの感想を並木に伝えたのだが、それがあまりに的確すぎたため、彼女は新作を作るたびに雪に感想を求めるようになった。雪にとってビーフシチューは特別なもので、雪の大切な人がよく振舞ってくれる料理だった。それでも、並木の作ったものが美味しかったため、自己分析をしながらその結果を伝えたのだ。すると、並木は驚きつつも、嬉しそうにさらに改善をしていった。そうして、見事に改良されたビーフシチューが定番メニューとなり、一躍昼の人気メニューとなったのだ。

 そのため、今日も感想とアドバイスをということで、雪含め出勤している従業員に新作を振舞った。いつも美味しそうにバクバクと食べ進める雪を、他の従業員や並木は微笑ましそうに眺めてる。もはやこれは一つのイベントと化していた。新作を振舞うにあたり、美味しそうに食べる雪を観察するという。

 「ふふふっ。すごい食べっぷり。どうかな、雪くん?」

「並木さん、これすげー美味しいです……卵もふわふわでケチャップの味付けのバランスも調度よくて。ご飯も無駄にべちゃべちゃしてなくて、それがまた卵とよく合っていて……」

 感想をつらつらと話し続ける雪の言葉を取りこぼさないように、並木はメモを取っていく。その様子を微笑ましく見守っている従業員たちも雪の感想が終わると、次々に感想を述べていく。

 「ありがとうみんな!これをもとにもっと改良していこうと思う!雪くんの初評が良いから今回はメニュー化も期待できるかな!」

 そう自信をもって語る並木に謙遜してしまう。
 「いやいや、そんな。並木さんの腕が素晴らしいんですよ。一つ一つの作業がすごく丁寧で、その気持ちが伝わってくるからさらに美味しく感じられるんです。」

 「えへへ。すっごく嬉しい。ありがとう。みんなもありがとう。残ったの今食べてもいいし、タッパーあるから持って帰ってレンチンして食べてもいいからね!できれば、レンチンして食べた時の感想も聞きたいかも、なんて。」
 
「並木さん、いつもありがとうございます。持って帰って食べたいと思います。感想も次の出勤のときに伝えます。」
 
 そうして、今日も今日とていつも通り唯の作った料理を持ち帰って家で食べる。家族がリビングで食卓をにぎわせているにもかかわらずなぜ雪は一人で食べるのか。それは、雪の料理はそこには用意されていないからだ。さらに不幸なことに、雪の席はそこにはないのだ。
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