孤毒の解毒薬

紫月ゆえ

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熟成

2-1

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 奏斗と連絡先を交換し、メッセージのやり取りをするようになった。そこでお互いのことを知っていったのだが、その過程で以外にも大学に行く日が重なっていることが分かった。他学部ではあるが、いくつか取っている授業が同じなのがあることも分かった。そして、大学にいる時はお昼を一緒に食べたり、授業を一緒に受けるようになった。
 雪には初めてともいえる友達で、お昼を一緒に食べたり、授業を一緒に受けたりなどということは今まで考えもしなかった。人と一緒にいるということが苦でしかなかったが、奏斗といると時間があっという間に過ぎていくようで、ただひたすらに楽しかった。終わってしまうのが惜しいようで、しかし、話が途中で終わると、またこの楽しい至福の時間が次の機会に延長されることが確約されるので、それも嬉しかった。
 
 1か月も経つと、お互いに何気ない話もできるような気軽な関係性を築くことができ、あれほどためらっていた自分から話しかける行為も当たり前のようになっていた。

 この日は大学ではなく、出かける約束をした。雪はずっと行ってみたいと思っていたところがあったのだが、一人では行こうと思えず諦めていた。しかし、今は奏斗という友人がいる。意を決して誘ってみたところ、嬉しそうに頷いてくれた。

 準備万端で家の扉を開けると、そこには奏斗が立っていた。ラフな格好で、Tシャツにジーンズ、日よけのサングラスという出で立ちだが、見慣れていないせいかキラキラして見える。雪の服装も同じような感じなのだが、奏斗のにじみ出るオーラは異次元だ。
 
 奏斗はなにせ顔が良い。今までは気にならなかったのだが、奏斗と親しくなってから、他の学生が奏斗の話題で盛り上がっているのが耳に入る。雪と奏斗が知り合ったきっかけである授業は色々な学部生が受講しているため、どの学部の人かは分からないが、少なくともその授業を取っている人たちの間では奏斗が話題の的なのだ。世にいうイケメンというワードを具現化したそのものだからだろう。

 雪は中学時代に、その端正な顔によって周囲の人間の僻みを買い、人への信頼を失くしたが、奏斗の人柄にはとても惹かれた。そして、彼は顔だけでなく、周りを惹きつける何かがあるのだと気づいた。自分は歪んでしまったが、彼は多くの人から好かれている。なぜ自分と親しくしてくれているかは分からない。なぜ自分を気に入ってくれているのかも分からない。自分の周りにはいないという単純な興味からかもしれない。自分とは違う道を歩んだ奏斗という存在を前に、雪は自分の中の何かが訴えているような気がした。今まで考えもしなかったことが思い浮かんでくる。とにかく雪は、奏斗に心惹かれていた。その感情が何なのかはよく分かっていないのだが。ただ親しくなりたいのか、友達という名前のある関係性になりたいのか、それとも別の何かなのか。
 今はそれが不確かでもいい。それよりも一緒に同じ時間を共有していたかった。
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