孤毒の解毒薬

紫月ゆえ

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熟成

2-3

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 「奏斗って運転できるんだ。ってかうまいな、全然酔わない。」

 「高校卒業したあとの春休みですぐに取ったんだ。弟と妹の送り迎えとかできるから。酔わない運転は俺の代名詞だから自信あるよ。雪ってもしかして酔いやすい?」

 「うーん。前に家族に車に乗せてもらったときはちょっとだけ酔った。遊園地とかって酔う乗り物多い?」

 「車は運転する人によっては酔うことあるからね。遊園地の乗り物は大丈夫じゃないかな、雪の乗りたがってる絶叫系のは多分平気だと思うよ。」

 「よかった。楽しみだ。」

 何気ない会話をしながら目的地へと車で向かう。いつもと違う非日常に雪の心は踊っていた。行ったことのない場所、美味しいご飯、綺麗な風景と澄んだ空気、そんな環境に心をゆるせる友人と共に行けるということがこのうえない幸せだった。

 家族とは滅多に話をしない雪だが、奏斗相手となるとたくさん話したい、自分のことも知ってほしいし相手のことも知りたいという気持ちになった。旅行はそれを実現できる最適の機会であり、24時間二人で同じ時を過ごせるため、至福の時間であった。

 軽く観光をして、美味しいごはんを食べ、旅館に到着した。部屋も落ち着いた雰囲気で、外の景色ものどかで雪が気に入りそうな場所であった。

 「ここはね、温泉が気持ちいいんだよ。どう?」

 「温泉……入ったことない。行きたい!」

 「じゃあ浴衣に着替えて行こうか。雪のお気に入りの一つになると思うよ。」

 奏斗は雪の好きなことや気に入りそうなことがだいぶ分かるようになってきていた。風情がある場所や静かな場所、気持ちが安らぐ場所が好きだということ。それは奏斗の嗜好とも合っている。こういった場所だと、一緒にいる人によっては気遣いが必要な場合がある。静かすぎるからだ。しかし、雪と一緒にいる時はそんなくだらないことに意識をむける必要がなくなる。同じ時を共有し、同じ思いを感じている、そんな気がするからだ。気遣う必要も、装う必要もない、ただ自分がいたい自分でいることができる。ゆえに奏斗は雪と一緒に過ごす時間が好きだった。

 「なぁ、浴衣ってどうやって着んの?」

 「ここをこうやって、こうして……」

 丁寧に着方を教えてくれているときに、ちょうど後ろから包まれている感覚を感じた。雪はドキリとした。奏斗の息のかかった場所が熱をもつように、そこから熱が広がっていくように、身体中に熱さが駆け巡っていった。

 「できたよ。似合うね。」

 訳が分からないまま奏斗を見ると、まだ着替え途中だったのか着崩れている。それが何とも言えず色っぽくみえて、さらに熱が高まる。何が起こっているのか分からなかったが、とにかく冷やさねばと考え洗面台にかけこみ水を浴びる。ふと顔をあげ鏡をみると、自分の顔が赤く染まっていることに気づいた。

 「え、雪、大丈夫?どうした?」

 「何でもない!暑いから水で冷やしただけ」

 奏斗と顔を合わすのが恥ずかしいと思った。今まで見てきた、触れ合ってきた奏斗のはずなのに、なぜこんな感情になってしまったのか、不思議で仕方なかった。これが何なのかは雪には分からず、なぜ奏斗に心臓が反応してしまったのかも分からなかった。とりあえず、落ち着かせることに集中した。

 「準備終わったけど……大丈夫?温泉行ける?」

 「落ち着いたから平気。早く行こ。」

 少し心配そうな顔を見せたが、雪の変わりない返事に安心したのか、二人で温泉に向かうことにした。雪は奏斗と一緒に温泉に入ることにドキドキしていた。なにせ、さきほど後ろからハグをされているように感じただけでドキリとしてしまったのだ。それにそのときの奏斗は浴衣を着崩すしていた状態とはいえど、服は着ていた。しかし、温泉は裸になるのだ。なぜ友人にこんな感情を抱いているのか分からないが、雪の心臓はあらぶっていた。

 しかし、心配は杞憂に終わった。というよりは、寸前のところで保ったという言い方が適しているだろう。奏斗の裸体、鍛えられた身体を見たときは卒倒しそうになったが、温泉の扉を開いたときのワクワク感、体験したことのない場所に雪の心はくぎ付けだった。

 奏斗は目を輝かせている雪を嬉しそうに見ていた。雪の心臓がどんな状態になっているかも知らずに。
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