初恋の人が親衛隊になるなんて聞いてない!

tomoe97

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初恋を、今だに引きずって生きている。

現在高校二年生。交際経験はゼロ。
初恋の思い出に縋ったまま、今まで誰とも付き合ったりすることがなかった。

忘れもしない小学六年生の4月。図書委員会で一緒の当番になった一個下の男の子に一目惚れをした。

彼は、一個下とは思えないくらい、大人びていてモデルのようなスタイルで他の子とはオーラが違って見えた。

当時、なんとなく自分の恋愛対象が同性だろうことには気がついていたから、それを受け入れるのには時間がかからなかった。

とはいっても、特にアプローチをすることもせず。
当番の日に淡々と委員の仕事をこなすのみで、事務連絡以外で話すことは出来なかったけれど。

彼が図書室に居る日には人が集まり、彼の友達や彼のファンの子達が沢山居ることをいつも思い知らされていた。
それに、キラキラしてる人が多く、住む世界すら違うのかな、なんて思ったりもして。

それでも、好きだった。

完全に外見で好きになったけれど、重い物を運ぶ時にさりげなく変わってくれたり、図書室が騒がしくなってきた時には優しく注意して回ったりと、気遣いが出来るところにも惹かれた。


そうして、一年間もなかったけれど図書委員会の任期も終わり、冬休み前には当番をすることもなくなった。

彼とも、当然のように会うことはなくなった。







小学校の卒業式、友達が居なかった僕は終わった後にすぐ帰ろうとした。



「待って!!!!」

呼び止められて振り返ると、そこには彼が居た。
息を切らし肩を上下させ、相当走ってきたことが伺えた。

「え……真柴くん?ど、どうしたの……?」

彼は少し時間を開けてから息を大きく吸うと、僕の手を握り何か紙を渡してきた。

「ずっと……あなたのことが好きでした!!!もし良かったら連絡下さい!!!」

それだけ言い残して颯爽と走り去っていった。

「行っちゃった……」

僕の手の中には、電話番号が書かれた紙。
相当握りしめていたのかぐしゃぐしゃになってしまっていて、彼の手汗のせいなのか所々滲んでいてまるで読めなかった。
あと、そもそも字が下手で元の数字も何か解読不能だった。


「……連絡出来ないよ」


そうして、僕の初恋は両思いになりかけたのにもかかわらず実らなかったという思い出になったのだった。




それから時は流れ、早五年強。

今の僕はというと、誰かと付き合ったりもせず、生徒会長親衛隊隊長というなんとも有り難くない肩書きになってしまっていた。



またまた遡ること一年前。
高校の入学式で彼に良く似た人を見つけて、心の底から驚いた。

彼にそっくり。だけど金髪だし良く見ればキツそうな目元、終始だるそうに欠伸を堪えている姿に、別人なことを確信した。
そうは言っても、モデル並な容姿。一際目立つ整った顔面に、悔しいけれど目を奪われてしまった。

そもそも、彼は僕の一つ下だからこの場に居るはずがないのに、どこかで探してしまっている自分がいた。

新入生代表挨拶は、その彼にそっくりな金髪君がした。
用意された紙を読んでいるだけなのに、やたら様になっていて、会場全体がうっとりと聞き惚れているのを感じた。

かく言う僕も、そのうちの一人だったけれど。

入学式が終わり、教室に戻るまでにその男のファンクラブは出来上がった。

この学校は、中高一貫の全寮制男子校で、容姿が整った人はアイドルと化し、男が男のファンクラブを作ることはよくあることらしい。

しかし、中等部の生徒は高等部の生徒のファンクラブへの入会のみしか認められず、設立も出来ない。
虎視眈々と金髪君が高等部に上がる日まで待っていた人が大勢居たとのことだった。

これらはすべて、隣の席になった田中君から聞いたことで、僕は途中から面倒くさくなりひたすら頷いていたらあれよあれよという間にファンクラブに入ることになっていた。


ファンクラブに入ったからといって、何かが大きく変わることはないと思っていたが、僕の予想に反して田中君は行動派で、金髪君を一目拝もうと食堂で待ち伏せたり、放課後には金髪君の最新情報を報告する会が開かれたりした。

その行動が身を結んだのかのかは分からなかったけれど、一年生の後期にはファンクラブの幹部になり、二年生に上がる時に金髪君が生徒会長に就任することが決まったのと同時に親衛隊へと名称が変わり、何故か金髪君からの指名で親衛隊隊長になってしまった。




ここまでが、僕が親衛隊隊長になった経緯であり、この時の僕は想像もしていなかった。

まさかこの金髪君、もとい生徒会長がとんでもない男だったとは。


「……会長、起きて下さい」

まず、僕の仕事は会長を叩き起こすことから始まる。

「……あと五時間」

渡されたスペアのルームキーで勝手に部屋に入ると、よくもまあ1日足らずでここまで散らかせるなと思うくらい散らかった部屋にげんなりしながら、大人しく片付けをする。

寝相が悪すぎてベッドの下に無様に落ちてる会長を踏みつつ、整理整頓をこなして同時進行で学校に行く持ち物の準備を進める。

「痛っ……嶺、踏んでる……」

「はい。踏んでます。」

何とか叩き起こし朝食を口に突っ込み、急いで着替えと歯磨きをしてもらう。

「会長、あと20分しかないですよ!はやくシャツ着る!ネクタイ締める!」

「嶺~~!ネクタイ締められない!」

会長は、大層な金持ちのご子息だそうなので、それはそれは良くない方向で甘やかされ執事やメイドが居なければ何も出来ない甘ったれ坊やに育ちきっていた。

これまではファンクラブのメンバーが変わる変わる、喜々としてお世話をしていたが、そのお礼として殆どセフレになってしまっていた。
生徒会長たるもの、学園の厳格なイメージが崩れてはならない、ということで今期からは僕だけがお世話係をしている。

正直、めちゃくちゃ面倒くさい。

できれば辞退したいが、僕が辞退すればまた以前のような乱れた生活に戻ると思うと、そうもいかない。

「嶺、いつもありがとう。よし、行こう」

「……はい」

そして、なんだかんだで顔面の良さに絆されかけている僕も大概甘いのであった。

準備も出来たし、いざ登校しようという時にドアが叩かれた。誰かが来たようだった。

「会長、誰か呼んでました?」

「ん?どうだったっけ?分かんない」

「はぁ……とりあえず出てきますね」

ドアを開けると、見覚えのある整った顔面と、スタイルの良い高身長の男が立っていた。

「嶺くん……!?なんでここに……」


僕が忘れられない、初恋の彼がそこに居た。


「真柴、くん……」


ここから、僕の学園生活が大きく変わることになるだなんて、思っても見なかった。
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