【完結】我が兄は生徒会長である!

tomoe97

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文化祭当日、僕は朝早くから寮を出て、校門をくぐりました。
兄は昨日、文化祭での風紀委員長との遭遇計画を夜遅くまで練っていたのでまだ部屋で寝ています。

校舎の周囲にはすでに生徒たちが集まり、普段の静けさとは違うざわめきが広がっていました。
笑い声、足音、準備の音、屋台の飾り付けの音……全てが混ざり合い、校舎全体が活気に満ちています。

僕は生徒会補佐として、今日まで兄の横で資料や進行表を確認しながら、文化祭のスケジュールを頭に入れていました。準備は万全です。

生徒会では、見回りや受付などの運営の他に少しだけ展示も行います。これまでの活動報告も兼ねて生徒会室を一般開放するので、主に生徒会の、いや生徒会長のファンが集います。

登校時間になり、やってきた兄は、いつも通り冷徹で無表情に見えます。
しかし、僕にはわかります――その思考は、常に風紀委員長のほうに向けられていることを。

 朝の準備の段階から、兄は自然に風紀委員長の動線を意識していました。
僕は横で見守りながら、兄の一挙手一投足に目を凝らします。
風紀委員長が書類を運ぶ際、ほんのわずかにバランスを崩しそうになった瞬間、兄は反射的に駆け寄り、片手で書類を支えます。
その動作は無理がなく自然で、まるで計算されているかのようでした。風紀委員長は驚きつつも「ありがとう」と笑顔で返しました。
これは幸先が良いです。
兄は耳まで赤くなって視線を逸らされます。
僕はその様子に苦笑し、内心で「推しの前でだけ動揺しすぎです」と思わず呟きました。

 午前中の直前準備では、兄は資料や掲示物の配置を細かく指示されます。
その一方で、風紀委員長が近くにいると、肩がわずかに震え、呼吸が浅くなるのがわかります。
僕は横で静かに見守り、指示を受けつつも、兄が風紀委員長のそばに立つタイミングを意識して見守りました。
屋台や展示の作業をしている生徒たちは、ちらちらと二人の距離を見て小さく囁いているようでしたが、僕には全く届きません。
僕の視界はあくまで、兄と風紀委員長の微妙な距離感と動揺に集中しています。

 昼近く、屋台巡回の時間になると、兄は偶然を装いながら風紀委員長の近くを通り、資料や装飾の手伝いを続けます。僕は横でその様子を観察し、兄の心の動きを逐一把握しました。
兄がわずかに目を細め、呼吸を整えながら近づく様子には、微かな緊張と期待が混ざっているのがわかります。
風紀委員長に気付かれないように距離を調整し、手渡す資料のタイミングや角度まで計算されているのです。
僕はその丁寧な所作に、思わず心の中で「完璧だ」と呟きました。

 午後、受付を行う中で再びトラブルが発生しました。
強風が吹き、受付近くの看板が倒れかけた時、兄が手を伸ばす前に、風紀委員長がさっと駆け寄り、軽く支えられます。普段の冷静さをなんとか保ちながらも、肩の震えや目のわずかな動きから、内心の動揺が伝わってきます。

兄は微笑みつつ「ありがとう」とお礼を言い、耳まで赤くなっていました。
風紀委員長は軽く会釈しその場を退散されました。

暫くその後ろ姿を呆けたように見つけ続ける兄を、心の中で苦笑しながら「推しの前では駄目だな」と思いました。

 午後の入場が一段落すると、文化祭のメインイベントが始まります。
全校生徒の展示や模擬店から投票を行い、一位の団体を決めるのです。

体育館に続々と生徒や一般客が集います。
生徒会と風紀はその警護や見回りをしながら投票を促し、最後に集計して発表します。

兄は風紀委員長の近くに立ち、偶然を装って距離を縮めました。
僕は横でその微妙なやり取りを観察し、兄が一歩踏み出すたびに内心で「よし」と思いました。
兄の手が触れそうな距離で資料を渡したり、話かけられたのかわずかな呼吸の乱れや赤面が見えます。
その瞬間、僕は弟として、補佐として、兄の行く末をひたすら見守ることに集中しました。

一位は三年生有志のバンドでした。
滞りなく終わることが出来、文化祭は無事大成功で幕を閉じました。

 夕方、撤収作業が始まると、会長は再び風紀委員長のそばに立ち、偶然を装いながらも話しかけようと伺っています。
しかし、風紀委員長の方から声を掛けられると途端に耳まで赤くなり、肩を震わせながら走って去ってしまいました。
僕はその様子を見逃さず、心の中で静かに微笑みました。周囲の生徒たちが流石の様子のおかしさに小さく噂いるようですが、僕にはその声は届きません。あくまで兄の気持ちはまだ、推し活なのです。
 作業がすべて終わり、兄は部屋に戻られました。
今日の文化祭の出来を振り返りながら写真を確認される横顔には、風紀委員長への想いが揺れる様子が見て取れます。
僕は静かにノートを広げ、補佐として反省点や改善点を記録しました。

 「絋、今年の文化祭は概ね良好だったと思う。しかし、肝心なところで風紀委員長に話しかけられなかった点は反省だろうか」

 僕は微笑みながら答えました。

「兄さん、風紀委員長の反応は見ておられましたよね。あの表情だけでも十分伝わったと思います」

 兄は床に目を落としつつ、微かに笑みを浮かべられました。

「……確かにな。次回はより自然に、さりげなく会話できるよう努めたい」

僕はベッドに入り、一日の出来事を振り返りました。
兄は着実に気が付きつつあります。
これは明らかに推しの範疇を超えていると。
僕はとっくに分かりきってはいますが、その感情について指摘するのでは面白くありません。



「……また俺のベッド占領してる。絋、ちょっと詰めて」



本当は気弱で、ストーカー気質で、だけどとても優しい兄がなんとか自分の手で幸せを掴んで欲しい、と心から願うばかりでした。
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