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冬休み明けの学園は、雪の名残を僅かに残しつつ、春の気配が差し込む風とざわめきで満たされていました。
僕はいつものように、兄の後ろ姿をそっと追いながら廊下を歩いていました。
僕の兄は冷徹で無表情、誰もが一目置く生徒会長。
しかし、僕にはその内面の微細な揺れが手に取るようにわかるのです。
普段は堂々として見える彼ですが、ほんの些細なことで心が大きく揺れることも少なくありません。
その日の登校時間、学園の正門付近に、普段見慣れない顔が現れました。
まぶしい日差しの中、軽やかに歩みを進めるその人物に、僕はすぐに気づきました。
「……あの人は……」
小声で僕が呟くと、兄もちらりと視線を向け、眉間に皺を寄せました。
その人物――奥沢悠里。
風紀委員長の幼馴染であり、明るく柔らかい笑顔を浮かべ、周囲に自然な存在感を放つ転校生です。風紀委員長と並んでも同じくらいの高身長で、学園でも中々大きい方になるでしょう。
親の転勤に伴ってこの中途半端な時期に転校してきた、資料には書いてありました。
余談ですが生徒会には事前に転校生の情報は周知されています。
彼は初めて会うはずなのに、風紀委員長と並ぶと違和感なく溶け込むように見えました。
「修哉、久しぶり!」 「………悠里…?」 「いや、まさかここで会えるなんて思わなかったよ」
二人は、とても仲が良い様子で笑顔で抱き合い挨拶を交わしました。
僕は遠目にその光景を見つめ、胸がざわつくのを感じました。
兄もまた、普段の冷静さを取り繕えないほどの動揺を見せています。
顔はわずかに青ざめ、唇は薄く開き、肩に力が入ったまま。
眼には涙がみるみるうちに溜まっていき、心拍数が跳ね上がっているのがわかりました。
転校生は風紀委員長の横に立ち、自然な仕草で談笑します。
肩に軽く触れたり、笑いながら話しかけたり、さりげないボディタッチ。
兄はその距離感をまっすぐに見つめることしかできません。
無表情を保とうと必死に努めながら、内心は大混乱です。
僕はすぐに察しました。
このままでは兄の動揺が周囲に漏れてしまう、と。
冷静を装いながら、目で「兄さん、落ち着いて」と伝えます。
兄は僕の視線に気づき、深く息を吐いて肩の力を少しだけ抜きました。
ですが、転校生が手を風紀委員長の肩にかけたり、ふいに笑いかけたりするたび、兄の心拍数は再び上昇します。
耳まで赤くなり、無意識に握りしめる手が震えるのがわかります。
昼休み、兄は食堂に向かうため廊下を歩いていました。
偶然、風紀委員長と転校生がすれ違い、談笑しています。
兄は自然を装いながらも、わざと同じ方向へ歩を進めました。
「俺もここにいる」と示したい衝動が抑えきれず、歩幅もわずかに速くなります。
僕は後ろから息を殺しながら見守ります。
兄の挙動はいつも以上に不自然で、手の震え、泣きそうな顔、目線を泳がせる様子がすべて心理状態を物語っています。
そのとき、兄が何かに躓いて転んでしまいました。
無意識のうちに風紀委員長に気を取られ、よろめく姿に、僕は思わず胸を締めつけられます。
風紀委員長は転校生と談笑しているので全く気が付かず、手を差し伸べてはくれません。
兄は悔しそうに唇を噛みしめ、背筋を伸ばしてその場を立ち去るしかありませんでした。
放課後、兄は倉庫で備品整理をしていました。
僕は後ろからそっと近づき、耳元で囁きます。
「兄さん、少し落ち着いてください」
兄は肩を震わせ、小さく嗚咽を漏らします。
「……あんな明るい奴が幼馴染だなんて……あいつら……あんなに仲良くて……」
言葉にならず、顔を伏せる兄。僕はそっと手を握り、優しく背中を叩きました。
「大丈夫です。兄さんの方がまだ付き合いが短い分、仲の良さは仕方ありません」
兄は小さく頷き、僕の肩に顔を埋めました。普段の冷徹さからは想像もつかないほど脆い姿です。
僕には愛おしくも、切なくも感じられました。
翌日、廊下や教室での兄の挙動はさらに微妙に変化します。
風紀委員長と転校生が談笑していると、無意識に目線を追い、眉間に皺を寄せ、そして目を伏せることが増えました。
風紀委員長と転校生は耳打ちして何かを話していることも多く、周囲の生徒には、「あの二人は付き合っているのでは」とささやかれるほどの距離感を作り出しています。
ただ、風紀委員長と転校生も二人でじっとこちらを見てることが増えたような気もしました。
僕は噂話など気にせず、常に冷静にフォローを続けました。
昼休みには、兄が風紀委員長に近づくときの歩幅や角度まで計算していることに、僕は気づいていました。
まるで相手の視線を意識しすぎて、普段の自分を出せなくなっているのです。
兄の風紀委員長への意識はさらに複雑化しました。
転校生という幼馴染のライバル的存在が引き金となり、嫉妬と戸惑い、焦りが混ざった心理状態になってしまったのです。
僕は冷静に見守りつつ、必要に応じてフォローを続けるしかありません。
夜、寮の自室で僕はベッドに入り、ここ最近の出来事を思い返しました。
転校生と風紀委員長の距離の近さ、廊下での事件、そして幼馴染という兄には勝てない要素。
すべてが兄の心に複雑な影を落としているのです。しかし、風紀委員長への熱量は増すばかり。
僕はその様子をそっと観察し、必要なときには支える。
そう、僕の役目はいつでも変わらないのです。
僕はいつものように、兄の後ろ姿をそっと追いながら廊下を歩いていました。
僕の兄は冷徹で無表情、誰もが一目置く生徒会長。
しかし、僕にはその内面の微細な揺れが手に取るようにわかるのです。
普段は堂々として見える彼ですが、ほんの些細なことで心が大きく揺れることも少なくありません。
その日の登校時間、学園の正門付近に、普段見慣れない顔が現れました。
まぶしい日差しの中、軽やかに歩みを進めるその人物に、僕はすぐに気づきました。
「……あの人は……」
小声で僕が呟くと、兄もちらりと視線を向け、眉間に皺を寄せました。
その人物――奥沢悠里。
風紀委員長の幼馴染であり、明るく柔らかい笑顔を浮かべ、周囲に自然な存在感を放つ転校生です。風紀委員長と並んでも同じくらいの高身長で、学園でも中々大きい方になるでしょう。
親の転勤に伴ってこの中途半端な時期に転校してきた、資料には書いてありました。
余談ですが生徒会には事前に転校生の情報は周知されています。
彼は初めて会うはずなのに、風紀委員長と並ぶと違和感なく溶け込むように見えました。
「修哉、久しぶり!」 「………悠里…?」 「いや、まさかここで会えるなんて思わなかったよ」
二人は、とても仲が良い様子で笑顔で抱き合い挨拶を交わしました。
僕は遠目にその光景を見つめ、胸がざわつくのを感じました。
兄もまた、普段の冷静さを取り繕えないほどの動揺を見せています。
顔はわずかに青ざめ、唇は薄く開き、肩に力が入ったまま。
眼には涙がみるみるうちに溜まっていき、心拍数が跳ね上がっているのがわかりました。
転校生は風紀委員長の横に立ち、自然な仕草で談笑します。
肩に軽く触れたり、笑いながら話しかけたり、さりげないボディタッチ。
兄はその距離感をまっすぐに見つめることしかできません。
無表情を保とうと必死に努めながら、内心は大混乱です。
僕はすぐに察しました。
このままでは兄の動揺が周囲に漏れてしまう、と。
冷静を装いながら、目で「兄さん、落ち着いて」と伝えます。
兄は僕の視線に気づき、深く息を吐いて肩の力を少しだけ抜きました。
ですが、転校生が手を風紀委員長の肩にかけたり、ふいに笑いかけたりするたび、兄の心拍数は再び上昇します。
耳まで赤くなり、無意識に握りしめる手が震えるのがわかります。
昼休み、兄は食堂に向かうため廊下を歩いていました。
偶然、風紀委員長と転校生がすれ違い、談笑しています。
兄は自然を装いながらも、わざと同じ方向へ歩を進めました。
「俺もここにいる」と示したい衝動が抑えきれず、歩幅もわずかに速くなります。
僕は後ろから息を殺しながら見守ります。
兄の挙動はいつも以上に不自然で、手の震え、泣きそうな顔、目線を泳がせる様子がすべて心理状態を物語っています。
そのとき、兄が何かに躓いて転んでしまいました。
無意識のうちに風紀委員長に気を取られ、よろめく姿に、僕は思わず胸を締めつけられます。
風紀委員長は転校生と談笑しているので全く気が付かず、手を差し伸べてはくれません。
兄は悔しそうに唇を噛みしめ、背筋を伸ばしてその場を立ち去るしかありませんでした。
放課後、兄は倉庫で備品整理をしていました。
僕は後ろからそっと近づき、耳元で囁きます。
「兄さん、少し落ち着いてください」
兄は肩を震わせ、小さく嗚咽を漏らします。
「……あんな明るい奴が幼馴染だなんて……あいつら……あんなに仲良くて……」
言葉にならず、顔を伏せる兄。僕はそっと手を握り、優しく背中を叩きました。
「大丈夫です。兄さんの方がまだ付き合いが短い分、仲の良さは仕方ありません」
兄は小さく頷き、僕の肩に顔を埋めました。普段の冷徹さからは想像もつかないほど脆い姿です。
僕には愛おしくも、切なくも感じられました。
翌日、廊下や教室での兄の挙動はさらに微妙に変化します。
風紀委員長と転校生が談笑していると、無意識に目線を追い、眉間に皺を寄せ、そして目を伏せることが増えました。
風紀委員長と転校生は耳打ちして何かを話していることも多く、周囲の生徒には、「あの二人は付き合っているのでは」とささやかれるほどの距離感を作り出しています。
ただ、風紀委員長と転校生も二人でじっとこちらを見てることが増えたような気もしました。
僕は噂話など気にせず、常に冷静にフォローを続けました。
昼休みには、兄が風紀委員長に近づくときの歩幅や角度まで計算していることに、僕は気づいていました。
まるで相手の視線を意識しすぎて、普段の自分を出せなくなっているのです。
兄の風紀委員長への意識はさらに複雑化しました。
転校生という幼馴染のライバル的存在が引き金となり、嫉妬と戸惑い、焦りが混ざった心理状態になってしまったのです。
僕は冷静に見守りつつ、必要に応じてフォローを続けるしかありません。
夜、寮の自室で僕はベッドに入り、ここ最近の出来事を思い返しました。
転校生と風紀委員長の距離の近さ、廊下での事件、そして幼馴染という兄には勝てない要素。
すべてが兄の心に複雑な影を落としているのです。しかし、風紀委員長への熱量は増すばかり。
僕はその様子をそっと観察し、必要なときには支える。
そう、僕の役目はいつでも変わらないのです。
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