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after story 未来編 結婚式
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「兄さん!あと十五分で皆さん集まってきます!まだかかりそうですか!?」
僕――葉山絋は、控室で焦燥を隠せない声を張り上げていました。 時計の針はすでに、パーティーの入場開始時刻へと迫っています。
豪奢なシャンデリアの下をスタッフたちが慌ただしく走り回り、花嫁(いや、今回は花婿です)の入場を待ちわびる空気に包まれていました。
けれど当の主役――兄は、控室のトイレにこもったまま、出てこようとしません
「……兄さん?」
ドアに耳を当てると、かすかに水の音と、深い深い溜め息が聞こえてきます。 僕は思わず眉間を押さえました。
「緊張してる場合ですか! 今日は葉山グループの創立記念パーティーを兼ねた、結婚披露宴なんですよ!?来賓も社員も、もう全員が会場で待ってるんです!」
「……わかってる。わかってるけど……」
返ってきた声は、いつもよりずっと弱々しいものでした。
学生時代、あれほど人前でなんとか生徒会長という職務を果たした兄が、今になってここまで緊張するとは。 十年という時を経ても、人間の本質は変わらないのかもしれません。
「兄さん……逃げるなんて、絶対に許しませんからね」
ぐっと言葉に力を込めたそのとき。
コン、コン、と控室のもう一方の扉が叩かれました。
現れたのは修哉さん――今日、兄と共に誓いを交わすもう一人の主役でした。
漆黒のタキシードを纏い、背筋を伸ばして立つその姿は、十年前よりもさらに威厳を帯びています。 だが瞳の奥には、僕のよく知る優しさと穏やかさがそのまま宿っていました。
「凌。まだ籠ってるのか?」
「し、修哉……」
「大丈夫だ。君一人じゃない。僕が隣にいる。いつも通りだ」
その一言で、兄の声の震えが少しだけ和らいだのがわかりました。
やっぱり……兄にとって修哉さんは、ただのパートナーじゃないのです。 唯一無二の支えであり、心を安定させる存在なのです。
ようやく兄を控室から引っ張り出したあとも、僕の仕事は終わりません。 今日は秘書として、弟として、両方の立場を背負っているのですから。
「絋さん、急ぎで! 来賓のお席で一部変更が!」
「わかりました、すぐ確認します!」
「映像の最終チェックをお願いします!」
「はい、こちらで確認してきます!」
走る。走る。とにかく走ります。 結婚披露宴といえば華やかな表舞台に目を奪われがちですが、裏側では数え切れない調整が同時進行で進んでいました。
控室に戻ると、兄のタキシードの袖口が少し緩んでいるのに気づきました。
「兄さん、動いてるうちに崩れてきましたね。直します」
「……悪い」
「今日は格好良くしてないと困りますから」
さっと手直ししながら、ふと兄の手が震えているのが見えました。 けれどその隣で修哉さんが、何気ない仕草で兄の手を握っています、 その瞬間、兄の震えはすっと収まりました。
……僕がいくら必死に言葉を尽くしても、きっと届かない部分があります。 けれど修哉さんは、それを一瞬で支えてしまうのです。
「……いいですね、兄さん」
「え?」
「いえ、なんでもありません」
心の中で小さく笑いながら、僕は会場へと足を向けました。
音楽が流れ、会場の照明が一斉に落ちた。 ざわめいていた空気が、ぴたりと静まり返る。
「――ご来賓の皆さま、まもなく新郎のお二人がご入場いたします」
司会者の声がマイクを通して響き渡った瞬間、僕の背筋はぞくりとしました。 この十年間、兄を間近で見守ってきたけれど……今日ほど誇らしく思えた日はありません。
スポットライトに照らされ、扉が開きます。 そこに立っていたのは、タキシードに身を包んだ兄と修哉さんです。
兄は緊張の色を残しながらも、きちんと前を見据えていました。 隣の修哉さんが軽く腕を添えると、その足取りはすっと安定します。 会場から大きな拍手と歓声が湧き起こり、二人はゆっくりと歩みを進めていきます。
天井には大輪のシャンデリア。 テーブルには純白の薔薇と胡蝶蘭が飾られ、シャンパンゴールドのクロスが光を反射しています。 壁際にはプロジェクターが設置され、二人の思い出を映し出す映像の準備も万端です。
……まるで夢のような光景でした。 兄と修哉さんが、これほどの祝福に包まれる日が来るなんて、十年前の僕には想像できなかったのです。
「絋」
振り向くと、悠里が立っていました。 淡いグレーのスーツにシンプルなネクタイ。大人の落ち着きを纏いながらも、今日の特別な場に合わせて少し華やかに見えます。
「悠里、休み取れて良かったね」
「もちろん取るに決まってるよ。それより、絋が秘書として動いてる姿、初めて見た。ずいぶん忙しそうだね」
「まぁ……今日は特別だから」
悠里が小さく笑います。 相変わらず、どんな場でも自然体でいられるところが彼の強さだと僕は思います、
「さっき、花道を歩く二人を見て……泣きそうになった」
「悠里が?うそだ」
「だって、あの修哉と凌くんがとうとう……だよ?」
からかうような調子に、思わず笑みが零れます。
確かに、学生時代の兄を知る人間からすれば、今日の姿は驚きかもしれません。
「……でも、いいよね」
「?」
「お互いが隣にいるから、あんなに堂々と歩けるんだよ」
悠里の言葉に、僕ははっとしました。 まるで先程考えていたことを読まれたようで、照れくさくなって視線を逸らします。
「……そうだね」
披露宴は進行し、来賓の挨拶が続きました。 政財界の重鎮、三島先輩や鮎川先輩など学生時代からの友人たち、そして社員代表の人。
「凌様と修哉様の出会いは、決して偶然ではなく……」
「お二人の新しい事業が、これからの社会を変えていくことを、我々は確信しております」
次々に述べられる祝辞に、会場は拍手で包まれます。 そのたびに兄と修哉さんは深く頭を下げ、互いの視線を交わしていました。
僕はその様子を見つめながら、心の中で呟くきます。
――どうか、ずっとそのままで。 互いを信じ、支え合い、未来を築いていってほしい、と。
やがて照明が落ち、映像が流れ始めました。 スクリーンに映し出されたのは、二人の学生時代の写真でした。
文化祭で並んで笑う姿。 プライベートピーチで準備に追われながらもふざけあう様子。 卒業式で肩を並べる背中。
そして――社会人になり、新規事業を立ち上げる苦悩の日々。 会議室で真剣に語り合い、夜遅くまで残業する姿。 支え合うように笑い合う瞬間。
会場からは感嘆の声と涙ぐむ気配が広がった。 スクリーンの最後に映し出されたのは、今日の日付と「祝福を、永遠に」という文字。
――ああ、本当にここまで来たんだな。
胸の奥が熱くなり、僕はそっとハンカチを握りしめました。
映像の後、兄がマイクを手に取りました。 最初は少し声が震えていたけれど、修哉さんが隣で頷くのを見て、安心したように笑います。
「……ここまで来られたのは、僕一人の力ではありません。修哉が隣にいてくれたから、そして支えてくれる家族や仲間がいたからです。これからも、僕たちは共に歩んでいきます」
会場から大きな拍手が湧き起こりました。 その拍手に包まれながら、僕はふと悠里の方を見ました。 彼は優しく目を細め、手を叩いていました。
その横顔を見て、僕は自然と微笑みます。
――僕も、隣にいる人を信じて未来を歩きたい。
そう強く思いました。
披露宴は祝辞や映像の後、和やかな余興の時間に移りました。 まず登場したのは、兄と修哉さんの大学時代からの友人たち。そう、生徒会役員メンバーと、風紀委員の方々です。 楽器を手に取り、二人が学生時代によく口ずさんでいたという曲を演奏し始めます。
「懐かしいな……」
兄が口元に笑みを浮かべます。 修哉さんが横目で見て、小さく頷きました。
続いて社員代表による余興。 新規事業部の若手たちが寸劇を披露し、二人の「社長同士の奮闘」をコミカルに描いてみせます。 会場は大爆笑の渦に包まれ、兄も修哉さんも頭を抱えて笑っていました。
「……あんなに笑う修哉、久しぶりに見たね」
悠里が隣で微笑みながら呟く。
「そうだね。僕も、少し安心した」
「きっと、心から幸せなんだよ」
その言葉に、僕の胸も自然と温かくなります。
やがて、会場が静まり返りました。 司会者が高らかに告げます。
「それではここで、恒例のブーケパスを行います!」
白い薔薇で編まれた大きなブーケが、兄の手に渡されました。 花婿から次に幸せを掴む人へと託される象徴です。
「兄さん……」
僕は心の中で呟きます。 その花束は、きっと誰かの未来をも照らします。
兄が笑みを浮かべ、軽やかにブーケを僕の方へ向かって放ちました。
――ふわり。
光を反射して花びらが舞い、ゆっくりと落ちてきます。
そして――
「……っ!」
気づけば、僕と悠里の腕の中に収まっていました。
一瞬、会場が驚きにざわめきます。 けれどすぐに、盛大な拍手と歓声が沸き起こりました。
「絋!」
「僕に……?」
花束を抱えたまま立ち尽くす僕を見て、兄は優しく笑っていました。 その隣で修哉さんも頷き、静かに祝福の視線を向けてくれます。
「……受け取っちゃったね」
悠里が小さく囁いた。
「うん……でも、嬉しいね」
「俺も」
互いに目を合わせ、微笑み合います。 花束の重みは、不思議と未来の約束のように感じられました。
披露宴はフィナーレを迎えましま。 兄と修哉さんが最後に並んで深く一礼すると、会場はひときわ大きな拍手に包まれました。
その光景を、僕は隣にいる悠里と一緒に見つめていました。
――十年前、卒業式のあの日。
二人は互いの未来を選び取り、そして今日、堂々と誓いを交わしました。
「兄さん……本当に幸せそう」
「うん。俺たちも……負けていられないね」
悠里の言葉に、僕は小さく笑いました。 未来のことはまだわかりません。 けれど、こうして隣に立っている人となら――きっと、どんな未来も描ける気がします。
拍手と歓声に包まれる会場の真ん中で、兄と修哉さんは互いの手を取り合い、揺るぎない絆を示していましま。 その姿を見届けながら、僕は静かに願います。
――どうか、この幸せが永遠に続きますように。
そして僕自身も。 いつか必ず、この花束に込められた約束を叶えられるように。
白い薔薇の香りに包まれながら、僕はそっと目を閉じました。
完
僕――葉山絋は、控室で焦燥を隠せない声を張り上げていました。 時計の針はすでに、パーティーの入場開始時刻へと迫っています。
豪奢なシャンデリアの下をスタッフたちが慌ただしく走り回り、花嫁(いや、今回は花婿です)の入場を待ちわびる空気に包まれていました。
けれど当の主役――兄は、控室のトイレにこもったまま、出てこようとしません
「……兄さん?」
ドアに耳を当てると、かすかに水の音と、深い深い溜め息が聞こえてきます。 僕は思わず眉間を押さえました。
「緊張してる場合ですか! 今日は葉山グループの創立記念パーティーを兼ねた、結婚披露宴なんですよ!?来賓も社員も、もう全員が会場で待ってるんです!」
「……わかってる。わかってるけど……」
返ってきた声は、いつもよりずっと弱々しいものでした。
学生時代、あれほど人前でなんとか生徒会長という職務を果たした兄が、今になってここまで緊張するとは。 十年という時を経ても、人間の本質は変わらないのかもしれません。
「兄さん……逃げるなんて、絶対に許しませんからね」
ぐっと言葉に力を込めたそのとき。
コン、コン、と控室のもう一方の扉が叩かれました。
現れたのは修哉さん――今日、兄と共に誓いを交わすもう一人の主役でした。
漆黒のタキシードを纏い、背筋を伸ばして立つその姿は、十年前よりもさらに威厳を帯びています。 だが瞳の奥には、僕のよく知る優しさと穏やかさがそのまま宿っていました。
「凌。まだ籠ってるのか?」
「し、修哉……」
「大丈夫だ。君一人じゃない。僕が隣にいる。いつも通りだ」
その一言で、兄の声の震えが少しだけ和らいだのがわかりました。
やっぱり……兄にとって修哉さんは、ただのパートナーじゃないのです。 唯一無二の支えであり、心を安定させる存在なのです。
ようやく兄を控室から引っ張り出したあとも、僕の仕事は終わりません。 今日は秘書として、弟として、両方の立場を背負っているのですから。
「絋さん、急ぎで! 来賓のお席で一部変更が!」
「わかりました、すぐ確認します!」
「映像の最終チェックをお願いします!」
「はい、こちらで確認してきます!」
走る。走る。とにかく走ります。 結婚披露宴といえば華やかな表舞台に目を奪われがちですが、裏側では数え切れない調整が同時進行で進んでいました。
控室に戻ると、兄のタキシードの袖口が少し緩んでいるのに気づきました。
「兄さん、動いてるうちに崩れてきましたね。直します」
「……悪い」
「今日は格好良くしてないと困りますから」
さっと手直ししながら、ふと兄の手が震えているのが見えました。 けれどその隣で修哉さんが、何気ない仕草で兄の手を握っています、 その瞬間、兄の震えはすっと収まりました。
……僕がいくら必死に言葉を尽くしても、きっと届かない部分があります。 けれど修哉さんは、それを一瞬で支えてしまうのです。
「……いいですね、兄さん」
「え?」
「いえ、なんでもありません」
心の中で小さく笑いながら、僕は会場へと足を向けました。
音楽が流れ、会場の照明が一斉に落ちた。 ざわめいていた空気が、ぴたりと静まり返る。
「――ご来賓の皆さま、まもなく新郎のお二人がご入場いたします」
司会者の声がマイクを通して響き渡った瞬間、僕の背筋はぞくりとしました。 この十年間、兄を間近で見守ってきたけれど……今日ほど誇らしく思えた日はありません。
スポットライトに照らされ、扉が開きます。 そこに立っていたのは、タキシードに身を包んだ兄と修哉さんです。
兄は緊張の色を残しながらも、きちんと前を見据えていました。 隣の修哉さんが軽く腕を添えると、その足取りはすっと安定します。 会場から大きな拍手と歓声が湧き起こり、二人はゆっくりと歩みを進めていきます。
天井には大輪のシャンデリア。 テーブルには純白の薔薇と胡蝶蘭が飾られ、シャンパンゴールドのクロスが光を反射しています。 壁際にはプロジェクターが設置され、二人の思い出を映し出す映像の準備も万端です。
……まるで夢のような光景でした。 兄と修哉さんが、これほどの祝福に包まれる日が来るなんて、十年前の僕には想像できなかったのです。
「絋」
振り向くと、悠里が立っていました。 淡いグレーのスーツにシンプルなネクタイ。大人の落ち着きを纏いながらも、今日の特別な場に合わせて少し華やかに見えます。
「悠里、休み取れて良かったね」
「もちろん取るに決まってるよ。それより、絋が秘書として動いてる姿、初めて見た。ずいぶん忙しそうだね」
「まぁ……今日は特別だから」
悠里が小さく笑います。 相変わらず、どんな場でも自然体でいられるところが彼の強さだと僕は思います、
「さっき、花道を歩く二人を見て……泣きそうになった」
「悠里が?うそだ」
「だって、あの修哉と凌くんがとうとう……だよ?」
からかうような調子に、思わず笑みが零れます。
確かに、学生時代の兄を知る人間からすれば、今日の姿は驚きかもしれません。
「……でも、いいよね」
「?」
「お互いが隣にいるから、あんなに堂々と歩けるんだよ」
悠里の言葉に、僕ははっとしました。 まるで先程考えていたことを読まれたようで、照れくさくなって視線を逸らします。
「……そうだね」
披露宴は進行し、来賓の挨拶が続きました。 政財界の重鎮、三島先輩や鮎川先輩など学生時代からの友人たち、そして社員代表の人。
「凌様と修哉様の出会いは、決して偶然ではなく……」
「お二人の新しい事業が、これからの社会を変えていくことを、我々は確信しております」
次々に述べられる祝辞に、会場は拍手で包まれます。 そのたびに兄と修哉さんは深く頭を下げ、互いの視線を交わしていました。
僕はその様子を見つめながら、心の中で呟くきます。
――どうか、ずっとそのままで。 互いを信じ、支え合い、未来を築いていってほしい、と。
やがて照明が落ち、映像が流れ始めました。 スクリーンに映し出されたのは、二人の学生時代の写真でした。
文化祭で並んで笑う姿。 プライベートピーチで準備に追われながらもふざけあう様子。 卒業式で肩を並べる背中。
そして――社会人になり、新規事業を立ち上げる苦悩の日々。 会議室で真剣に語り合い、夜遅くまで残業する姿。 支え合うように笑い合う瞬間。
会場からは感嘆の声と涙ぐむ気配が広がった。 スクリーンの最後に映し出されたのは、今日の日付と「祝福を、永遠に」という文字。
――ああ、本当にここまで来たんだな。
胸の奥が熱くなり、僕はそっとハンカチを握りしめました。
映像の後、兄がマイクを手に取りました。 最初は少し声が震えていたけれど、修哉さんが隣で頷くのを見て、安心したように笑います。
「……ここまで来られたのは、僕一人の力ではありません。修哉が隣にいてくれたから、そして支えてくれる家族や仲間がいたからです。これからも、僕たちは共に歩んでいきます」
会場から大きな拍手が湧き起こりました。 その拍手に包まれながら、僕はふと悠里の方を見ました。 彼は優しく目を細め、手を叩いていました。
その横顔を見て、僕は自然と微笑みます。
――僕も、隣にいる人を信じて未来を歩きたい。
そう強く思いました。
披露宴は祝辞や映像の後、和やかな余興の時間に移りました。 まず登場したのは、兄と修哉さんの大学時代からの友人たち。そう、生徒会役員メンバーと、風紀委員の方々です。 楽器を手に取り、二人が学生時代によく口ずさんでいたという曲を演奏し始めます。
「懐かしいな……」
兄が口元に笑みを浮かべます。 修哉さんが横目で見て、小さく頷きました。
続いて社員代表による余興。 新規事業部の若手たちが寸劇を披露し、二人の「社長同士の奮闘」をコミカルに描いてみせます。 会場は大爆笑の渦に包まれ、兄も修哉さんも頭を抱えて笑っていました。
「……あんなに笑う修哉、久しぶりに見たね」
悠里が隣で微笑みながら呟く。
「そうだね。僕も、少し安心した」
「きっと、心から幸せなんだよ」
その言葉に、僕の胸も自然と温かくなります。
やがて、会場が静まり返りました。 司会者が高らかに告げます。
「それではここで、恒例のブーケパスを行います!」
白い薔薇で編まれた大きなブーケが、兄の手に渡されました。 花婿から次に幸せを掴む人へと託される象徴です。
「兄さん……」
僕は心の中で呟きます。 その花束は、きっと誰かの未来をも照らします。
兄が笑みを浮かべ、軽やかにブーケを僕の方へ向かって放ちました。
――ふわり。
光を反射して花びらが舞い、ゆっくりと落ちてきます。
そして――
「……っ!」
気づけば、僕と悠里の腕の中に収まっていました。
一瞬、会場が驚きにざわめきます。 けれどすぐに、盛大な拍手と歓声が沸き起こりました。
「絋!」
「僕に……?」
花束を抱えたまま立ち尽くす僕を見て、兄は優しく笑っていました。 その隣で修哉さんも頷き、静かに祝福の視線を向けてくれます。
「……受け取っちゃったね」
悠里が小さく囁いた。
「うん……でも、嬉しいね」
「俺も」
互いに目を合わせ、微笑み合います。 花束の重みは、不思議と未来の約束のように感じられました。
披露宴はフィナーレを迎えましま。 兄と修哉さんが最後に並んで深く一礼すると、会場はひときわ大きな拍手に包まれました。
その光景を、僕は隣にいる悠里と一緒に見つめていました。
――十年前、卒業式のあの日。
二人は互いの未来を選び取り、そして今日、堂々と誓いを交わしました。
「兄さん……本当に幸せそう」
「うん。俺たちも……負けていられないね」
悠里の言葉に、僕は小さく笑いました。 未来のことはまだわかりません。 けれど、こうして隣に立っている人となら――きっと、どんな未来も描ける気がします。
拍手と歓声に包まれる会場の真ん中で、兄と修哉さんは互いの手を取り合い、揺るぎない絆を示していましま。 その姿を見届けながら、僕は静かに願います。
――どうか、この幸せが永遠に続きますように。
そして僕自身も。 いつか必ず、この花束に込められた約束を叶えられるように。
白い薔薇の香りに包まれながら、僕はそっと目を閉じました。
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