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ペペロンチーノ、ソッリーソ抜き
しおりを挟む半ば強引ではあったがバイト先が決まった。里奈さんとも同じ職場だし結果オーライだろう。いや、結果オーライどころではなく儲けだ。
里奈さんの手の感触が忘れられない。自転車のハンドルを握るのが勿体ないとすら思った。
白くて、柔らかい手だった。
余韻に浸りながらボロアパートの家に帰ると、テーブルの上に母親からの置き手紙があった。どうやら仕事に出ているようだ。
「帰り遅くなる テキトーに食べて」
置き手紙の重り代わりに500円玉が置いてあった。母親は近所で小さなスナックを経営している。帰りが遅いのは日常茶飯事だ。
俺は制服のまま畳に大の字で横たわり、少しの間ボーッとした。口の中にはかすかにニンニクの香りが溶け出したオリーブオイルと唐辛子の淡い刺激が残っていた。
健人「あのペペロンチーノ、美味かったな。」
小さな天井を見つめながら余韻に浸っている内にどうやらうたた寝をしてしまったらしい。
健人「・・・んっ・・・。」
時刻は21時。畳で寝ると身体がだるくなる。
健人「はぁ・・・。少し腹減ったな。」
小腹が空いた俺は500円を握りしめて、いつも食べるカップラーメンと肉まんを買いに行く事にした。
適当にサンダルを履き、今にも崩れ落ちそうなアパートの錆びた階段を下る。春とはいえ夜になると流石に冷える。寒さを堪えて肩に力を入れながら歩いた。
コンビニに着くといつも食べるカップラーメンを手に取り、肉まんの在庫を確認しつつ、レジに並ぶ客の後ろで順番を待った。しかし俺の前の人がレジ対応を受けているタイミングで、昼の出来事が頭をよぎった。
「カップラーメン?!だめ!いい若いのがカップラーメンなんてだめだめ!!舌がバカになーる!」
女店長、薫さんの言葉だ。
なんだか薫さんに見られてる様な気がした。俺は手に取ったカップラーメンを棚に戻し、少し店内を見回した。
そしてふと目に入ったのがパスタの棚だ。ここから先は衝動的だった。気付けば買い物かごにパスタ、唐辛子、チューブのおろしニンニク、オリーブオイルを入れてレジに並んでいた。500円で足りない分は自分のお金を出してまで。
肉まんには目もくれず、俺は早歩きで店を出た。行きは寒さでカクカクと震えていた俺の肩も帰りは震える事なく、昼の味を求めて俺は無意識に走っていた。
こんなに走ったのはいつぶりだろう。なぜかワクワクが止まらなかった。
家に着くと使いかけのオリーブオイルとパスタがあった。普段料理をしないから無い物と思って買ってしまったが、今日はあるものから使おう。
スペペロンチーノの作り方を調べ、スマホとにらめっこをしながらなんとか作ったが、昼に食べた物とは全然別物だ。
味も見た目も何もかもが違う。
複雑な行程は一切ないのに、何でこんなに味が違うのだろう。俺は珍しく悔しいと感じた。
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