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プロローグ
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プロローグ
その人を見かけたのは、雑踏の中だった。
明後日にクリスマスを控えた街は、光と音で溢れている。綺麗に飾り付けられた街路樹、電飾の揺れる影、すれ違う人々の笑い声。
そんな道を駅に向かって歩きながら、ふと、懐かしいものを見た気がして、爽真は足を止めて振り返った。
濡羽色の髪、華奢な背中。
「あ、れ……?」
まさか。そんなはずはない。けれど、目が離せない。
「すみません! 通してください!」
爽真は慌てて、その背中を追った。
8年だ。あの日から、もう、8年。
鼓動が耳元でやかましく響く。追いつきたい。追いついて、名前を呼んで、それから──。
「……凛」
口にした途端、胸が熱くなった。目の奥が熱くなってくるのを、ぐっと奥歯を噛んで耐える。
もうずいぶん遠くなってしまった背中を追いかけて、交差点の向こう側に足を踏み出す。途端。
「あ……っ!」
人々の影が揺れて、その姿がふいに消えた。慌てて視線を巡らせても、濡羽色の髪も、華奢な背中も、どこにも見当たらない。
「凛……」
答える人のない呼びかけだけが、冬の冷たい空気に溶けて消えていった。
※※※※※
「ふーん。で、それが飛行機乗り遅れた言い訳?」
「……約束には間に合ったんだから、いいじゃん」
言いながら、爽真は冷たい風の吹く都会の街を思い出す。けれど、ここにはもう冬の寒さもなく、波の音と暖かな潮風が耳をくすぐるだけだ。
久遠は呆れた顔をしつつも、波打ち際のテラス席に腰を下ろして、爽真のために空けておいた席をポンポンと叩いた。
「今年も、凛はいないんだね」
座りながらそう言うと、久遠がチラリと爽真の顔を見る。
「いっつも言ってるけど、やめたいならやめていいんだぞ」
「まさか。やめるわけないじゃん」
「相変わらず、即答なんだな」
呆れたようにそう言う久遠に、爽真は「当然!」と笑ってみせた。
「ねえ。凛の話しようよ」
「……飽きないね」
「飽きないよ」
そうして爽真は歌うように話し出す。
子供の頃に出会った、綺麗な綺麗なサンタクロースのことを。
その人を見かけたのは、雑踏の中だった。
明後日にクリスマスを控えた街は、光と音で溢れている。綺麗に飾り付けられた街路樹、電飾の揺れる影、すれ違う人々の笑い声。
そんな道を駅に向かって歩きながら、ふと、懐かしいものを見た気がして、爽真は足を止めて振り返った。
濡羽色の髪、華奢な背中。
「あ、れ……?」
まさか。そんなはずはない。けれど、目が離せない。
「すみません! 通してください!」
爽真は慌てて、その背中を追った。
8年だ。あの日から、もう、8年。
鼓動が耳元でやかましく響く。追いつきたい。追いついて、名前を呼んで、それから──。
「……凛」
口にした途端、胸が熱くなった。目の奥が熱くなってくるのを、ぐっと奥歯を噛んで耐える。
もうずいぶん遠くなってしまった背中を追いかけて、交差点の向こう側に足を踏み出す。途端。
「あ……っ!」
人々の影が揺れて、その姿がふいに消えた。慌てて視線を巡らせても、濡羽色の髪も、華奢な背中も、どこにも見当たらない。
「凛……」
答える人のない呼びかけだけが、冬の冷たい空気に溶けて消えていった。
※※※※※
「ふーん。で、それが飛行機乗り遅れた言い訳?」
「……約束には間に合ったんだから、いいじゃん」
言いながら、爽真は冷たい風の吹く都会の街を思い出す。けれど、ここにはもう冬の寒さもなく、波の音と暖かな潮風が耳をくすぐるだけだ。
久遠は呆れた顔をしつつも、波打ち際のテラス席に腰を下ろして、爽真のために空けておいた席をポンポンと叩いた。
「今年も、凛はいないんだね」
座りながらそう言うと、久遠がチラリと爽真の顔を見る。
「いっつも言ってるけど、やめたいならやめていいんだぞ」
「まさか。やめるわけないじゃん」
「相変わらず、即答なんだな」
呆れたようにそう言う久遠に、爽真は「当然!」と笑ってみせた。
「ねえ。凛の話しようよ」
「……飽きないね」
「飽きないよ」
そうして爽真は歌うように話し出す。
子供の頃に出会った、綺麗な綺麗なサンタクロースのことを。
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