朝が来てもそばにいて〜聖夜の約束〜

文字の大きさ
1 / 14

プロローグ

しおりを挟む
プロローグ
 その人を見かけたのは、雑踏の中だった。

 明後日にクリスマスを控えた街は、光と音で溢れている。綺麗に飾り付けられた街路樹、電飾の揺れる影、すれ違う人々の笑い声。
 そんな道を駅に向かって歩きながら、ふと、懐かしいものを見た気がして、爽真そうまは足を止めて振り返った。

 濡羽色の髪、華奢な背中。

「あ、れ……?」

 まさか。そんなはずはない。けれど、目が離せない。

「すみません! 通してください!」

 爽真は慌てて、その背中を追った。

 8年だ。あの日から、もう、8年。

 鼓動が耳元でやかましく響く。追いつきたい。追いついて、名前を呼んで、それから──。

「……りん

 口にした途端、胸が熱くなった。目の奥が熱くなってくるのを、ぐっと奥歯を噛んで耐える。
 もうずいぶん遠くなってしまった背中を追いかけて、交差点の向こう側に足を踏み出す。途端。

「あ……っ!」

 人々の影が揺れて、その姿がふいに消えた。慌てて視線を巡らせても、濡羽色の髪も、華奢な背中も、どこにも見当たらない。

「凛……」

 答える人のない呼びかけだけが、冬の冷たい空気に溶けて消えていった。


※※※※※


「ふーん。で、それが飛行機乗り遅れた言い訳?」
「……約束には間に合ったんだから、いいじゃん」

 言いながら、爽真は冷たい風の吹く都会の街を思い出す。けれど、ここにはもう冬の寒さもなく、波の音と暖かな潮風が耳をくすぐるだけだ。

 久遠くおんは呆れた顔をしつつも、波打ち際のテラス席に腰を下ろして、爽真のために空けておいた席をポンポンと叩いた。

「今年も、凛はいないんだね」

 座りながらそう言うと、久遠がチラリと爽真の顔を見る。

「いっつも言ってるけど、やめたいならやめていいんだぞ」
「まさか。やめるわけないじゃん」
「相変わらず、即答なんだな」

 呆れたようにそう言う久遠に、爽真は「当然!」と笑ってみせた。

「ねえ。凛の話しようよ」
「……飽きないね」
「飽きないよ」

 そうして爽真は歌うように話し出す。
 子供の頃に出会った、綺麗な綺麗なサンタクロースのことを。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

処理中です...