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第一章
ユーゴの願い
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「疲れた…」
タフィーに送られ、今日泊まる予定の宿に着いたころには、日はもうすっかり傾いていた。
チェックインを済ませて部屋の中に入った途端、ドッと疲労感が押し寄せてきて、ユーゴはパタンとベッドの上にその身を投げ出す。
「こんなんで、大丈夫なんかな…」
好意的な同種に会えたのは素直に嬉しかったし、眼鏡が手に入ったのもありがたい。こんなものが出回っているのなら、なおのこと。
ユーゴはポケットに手を突っ込んでタフィーから貰った例の紙を取り出すと、開いて目の前にかざしてみた。
レイもそろそろここに来る頃だ。このことを話した方がいいだろうかと考えて、でも、心配をかけるのも嫌だなと思う。
この手配書はどのくらいの範囲で出回っているのだろうか。この国の中だけなら、まだ、何とか。という感じだけれど、本部の方にまで知れ渡っていたら…?
「んー…」
じたばたとベッドの上を転がって、やっぱりレイには内緒にしておくべきなんじゃないかと考える。
タフィーたちのことだってそうだ。話すとなると何処から?という話になってくるし、それならタフィーに口止めだけして、いっそ全て黙っていた方がいい気がする。
レイにはあの町を逃げ出した詳しい経緯は話していない。だからいざという時はユーゴだけが捕まって、レイを騙していたのだと言えばいい。レイは素直で嘘をつくのも誤魔化すのも下手くそだ。それにきっとどんなに言い含めても、知っていて知らなかったなんて、最終的には言わずにいられないだろう。
「どうしよう…」
もちろんユーゴだって何の考えもなしにここまで来たわけじゃない。レイに懐柔されはしたけど、危ない橋を渡る決断をしたのは他でもない、自分だ。
レイは人間だ。どうしたって悪魔の自分より先に死ぬ。もしもユーゴが強力な魔力を持っていたとしても、その自然の摂理は変えられない。だから一分一秒でも長く一緒にいるために、出来ることがあるならやろうと思ったのだ。
確かにレイは強い。でも、十年後二十年後は? 人間はどうやっても老いていくし、その力も衰える。そうなった時のための選択だ。傍にいれば、レイを守れる。もし彼に何かあったときに離れていたら、なくならない後悔をずっとしなければいけなくなる。
それは嫌だな。と思ったのだ。
天寿を迎えたレイが最期に見るものが、自分の顔だったらいいな。と思ったのだ。
そんな自分の願いを叶えるために選んだこと。
……まかさかこんな初手で、躓きそうになるとは思わなかったけれど。
そこまで考えたところで部屋の外に人の気配を感じて、ユーゴは飛び起きた。慌てて手配書を備え付けの机の引き出しにしまう。それから、かけたままだった眼鏡を外し机の天板に置いたところでノックの音がして、ゆーちゃん? と自分を呼ぶ声が聞こえた。
泣きたい気分だった。今すぐにドアを開けてレイにしがみついて、その温かさと匂いを嗅いで少しでもいいから安心したい。そんな気分だったけれど。
ふるふると首を振って、気持ちを立て直す。はい。と短く返事を返しながら、ゆっくりとドアに近づいて、鍵を開けた。
「遅くなってごめんね」
「ううん。大丈夫」
「チケット、取ってこれた?」
「うん。トランクの中にしまってあるよ」
そんな会話をしながらレイを中に招き入れて、ついでのようにトランクを開ける。まだ、レイの顔を正面から見る勇気がない。もう少し、気持ちの整理がしたかった。
「はい。これ」
チケットが入った封筒を取り出して渡すと、ありがとうと返事が返ってきて、レイが中身を確かめる。
「明日、朝、早いから、先にお風呂入るね」
その隙にそう言って荷物を纏め、ユーゴはレイの返事も聞かず、さっさとバスルームの中へ逃げ込んだ。
タフィーに送られ、今日泊まる予定の宿に着いたころには、日はもうすっかり傾いていた。
チェックインを済ませて部屋の中に入った途端、ドッと疲労感が押し寄せてきて、ユーゴはパタンとベッドの上にその身を投げ出す。
「こんなんで、大丈夫なんかな…」
好意的な同種に会えたのは素直に嬉しかったし、眼鏡が手に入ったのもありがたい。こんなものが出回っているのなら、なおのこと。
ユーゴはポケットに手を突っ込んでタフィーから貰った例の紙を取り出すと、開いて目の前にかざしてみた。
レイもそろそろここに来る頃だ。このことを話した方がいいだろうかと考えて、でも、心配をかけるのも嫌だなと思う。
この手配書はどのくらいの範囲で出回っているのだろうか。この国の中だけなら、まだ、何とか。という感じだけれど、本部の方にまで知れ渡っていたら…?
「んー…」
じたばたとベッドの上を転がって、やっぱりレイには内緒にしておくべきなんじゃないかと考える。
タフィーたちのことだってそうだ。話すとなると何処から?という話になってくるし、それならタフィーに口止めだけして、いっそ全て黙っていた方がいい気がする。
レイにはあの町を逃げ出した詳しい経緯は話していない。だからいざという時はユーゴだけが捕まって、レイを騙していたのだと言えばいい。レイは素直で嘘をつくのも誤魔化すのも下手くそだ。それにきっとどんなに言い含めても、知っていて知らなかったなんて、最終的には言わずにいられないだろう。
「どうしよう…」
もちろんユーゴだって何の考えもなしにここまで来たわけじゃない。レイに懐柔されはしたけど、危ない橋を渡る決断をしたのは他でもない、自分だ。
レイは人間だ。どうしたって悪魔の自分より先に死ぬ。もしもユーゴが強力な魔力を持っていたとしても、その自然の摂理は変えられない。だから一分一秒でも長く一緒にいるために、出来ることがあるならやろうと思ったのだ。
確かにレイは強い。でも、十年後二十年後は? 人間はどうやっても老いていくし、その力も衰える。そうなった時のための選択だ。傍にいれば、レイを守れる。もし彼に何かあったときに離れていたら、なくならない後悔をずっとしなければいけなくなる。
それは嫌だな。と思ったのだ。
天寿を迎えたレイが最期に見るものが、自分の顔だったらいいな。と思ったのだ。
そんな自分の願いを叶えるために選んだこと。
……まかさかこんな初手で、躓きそうになるとは思わなかったけれど。
そこまで考えたところで部屋の外に人の気配を感じて、ユーゴは飛び起きた。慌てて手配書を備え付けの机の引き出しにしまう。それから、かけたままだった眼鏡を外し机の天板に置いたところでノックの音がして、ゆーちゃん? と自分を呼ぶ声が聞こえた。
泣きたい気分だった。今すぐにドアを開けてレイにしがみついて、その温かさと匂いを嗅いで少しでもいいから安心したい。そんな気分だったけれど。
ふるふると首を振って、気持ちを立て直す。はい。と短く返事を返しながら、ゆっくりとドアに近づいて、鍵を開けた。
「遅くなってごめんね」
「ううん。大丈夫」
「チケット、取ってこれた?」
「うん。トランクの中にしまってあるよ」
そんな会話をしながらレイを中に招き入れて、ついでのようにトランクを開ける。まだ、レイの顔を正面から見る勇気がない。もう少し、気持ちの整理がしたかった。
「はい。これ」
チケットが入った封筒を取り出して渡すと、ありがとうと返事が返ってきて、レイが中身を確かめる。
「明日、朝、早いから、先にお風呂入るね」
その隙にそう言って荷物を纏め、ユーゴはレイの返事も聞かず、さっさとバスルームの中へ逃げ込んだ。
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