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第二章 魔法学園へ行こう
13 大切なもの
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ようやく動けるようになり、アスラに抗議するもじろりと非常に冷たい目で見られる。
「放っておいた方が良かったか?」
「いえ、タスカリマシタ……」
あの場で何が起きたか分かった者はいなかっただろう……魔力の反応もなくアーサーに危害を加えたという疑いを受ける心配もなさそうだ。
「にしても、この印どうなってるんだ?」
俺は服をめくり上げると、まじまじと紋様を眺める。あれ?何か濃くなってないか?これ……。
「俺の魔力を流し込みお前に根付かせている。その内、お前の脈拍を上げたり、感度を上げたりすることも出来るようになる」
「か、かんど?」
あれ? 何かだいぶ怖いこと言われてないか……それ……まあ……俺の魔力もどんどん強くなっていくし、どこかで上書き出来るだろう! と深く考えないようにする。
何日も学園での日常が過ぎていく。日中は授業を受け、放課後は生徒会で雑用をこなした。アーサーは生徒会長だった。特にあれ以来、アーサーも懲りたのか変な絡まれ方はする事もなく、また、契約者となれるような素養を持つ者も見つけられなかった。
そんなある日、異界の生物の授業で契約の項目を学ぶこととなった。事前に大事な引き換えにできる物を用意するようにと言われ、前日の夜、俺は頭を悩ませていた。引き換えにできるなら、それは大事な物じゃないんじゃないか。
俺の持ち物は数少ない。聖剣に、赤龍からもらった腕輪、それから数枚の衣服類だ。宝物は、孤児院で子供たちにもらった花で作った押し花の付箋くらいだろうか。この宝物は絶対に引き換えにできない!
ちなみに、孤児院には、学園に入る前に伝言を頼んでおり、気を遣ったグランから寄附金を送ってもらえた。
うーん、もうざっくり指を切って血を流すで良くないか?と思ったが、だいぶ後ろ髪が長くなっていたことに気付く。小刀で、適当に髪をざっくりと切り落とした。隣のアスラは目を見開く。
「何をしている!?」
「うーん? 明日の授業で使う大事な物が何もないから髪を切った。ちょうど長くなっていたし……」
「……。それは大事な物ではないのではないか。それは俺に寄越せ」
アスラに握っていた髪の毛と小刀を奪われた。アスラは、自らの後ろ髪を掴んで小刀を当てると切り落とした。
「……あっ!」
すごく綺麗な髪なのに……と残念になる。長く伸ばしてもきっと艶々と綺麗で似合っていただろう。
「これをお前にやる」
アスラは切り落とした自身の髪を俺にくれた。ぽかーんと口を開いた俺に、アスラは問う。
「俺の髪は大事ではないか?」
「えっ……それは俺のよりは大事だぜ。すごく綺麗だし……伸ばしたら鬘にもなるし、売れるだろ!」
慌ててしまって、変な事を言ってしまう。その後、意外と器用なアスラに簡単に髪の毛を整えてもらった。
俺はこっそり寝る前に明日の授業で使う分とは別に一部アスラの髪を取り分け、組紐で結び小箱にしまった。だって、すごく綺麗な髪だったし、全て授業で使ってしまうのはもったいないと思ったんだ。やっぱり、大切な物っていうのは、引き換えに出来ないものだ。
異界の生き物の授業担当のコンラッド先生は、ふわふわの髪に変な眼鏡をかけた大男だ。境界の魔生物好きが高じて、異界の生物にもはまってしまったらしい。だが、ほぼ異界の生き物を呼び出せるような素養がある人間は居らず、各学年で行っているこの契約の授業でも、未だ誰一人として呼び出せたものはいないようだ。
「異界と魔界には大きな違いはない、と私は考えている。異界の一つが魔界だと。私たちの一番近くにある異界が魔界なのだ。この異界の生き物との契約は、契約を交わすことが非常に重要となる。どんな、危険な生き物も、契約者の意思に反したことはできない、と言われている。私は異界の生き物を呼び出すことができなかった。だが、この学園の生徒であれば、きっとできる者がいることを信じている。さあ、みんな、捧げ物は持ってきたか? 捧げ物は二つの界を安定させるための触媒だと言われている」
爛々と不気味な熱意に輝く瞳に、グランと同じ匂いを感じ取る。グランも珍しく期待に目を輝かせ真剣に授業を聞いている。授業で使う大切な物として、その握りしめた手に持っている羽毛はきっとぴーちゃんのものだろう。……ばれるぞ、過去の違法飼育が……。
「それでは、一人ずつ前に出てきてくれ」
一人ずつ、おずおずと進み出ながら台の上に捧げる大切な物を置き、契約陣の上に立つ。契約陣は先生が過去の古文書から発見した陣で研究に研究を重ね改良したものらしい……。
何人かの初めの生徒たちは異界の生き物を呼び出すことは出来なかったが、俺は子供たちが捧げる大事な物に興味を抱いた。それは犬の首輪だったり、高価な宝石であったり、毛布であったりした者もいた。何だかその者の心の内を覗いているような不思議な気分になる。そこで、はた、と俺は我に返った。俺の捧げる大切な物はアスラの髪の毛である。アスラもまた俺の髪の毛を捧げる。どちらか一人であれば家族のものかな? となるが、それぞれが捧げると何だかそういう風に見えてしまうんじゃないだろうか!?
動揺していると、グランの番だった。グランは緊張の面持ちで恭しく、ぴーちゃんの羽毛を台に載せ、陣の上で祈る。するとグランの強い魔力に反応したのか、台が揺れ陣が輝いた……が、何も現れず逆にぴーちゃんの羽毛は消えていた。
先生とグランはこの世の終わりかというほど落胆する。
次に俺の番となった。心を無にして、アスラの髪の毛を台の上に載せ祈る。変なモノが現れませんように、と。ごそっと大量の魔力が抜け落ち、目の前のアスラの髪の毛がふっと消え、陣が大きく光輝いた。
目の前に何か蠢うごめく黒い靄がある。
「名前をつけるんだ! それで契約は成される!!」
先生の叫ぶ声に俺は焦る。呼び出せるなんて思ってなかったから名前なんて考えちゃいない。黒い靄を見て、俺は貧民街に住んでいた時に、ほんの短い間一緒だった友だちを思い出した。
「ノア!!」
叫ぶと、黒い靄はゆっくりと一塊に収縮していき、小さな手脚、細長い尻尾、黄金色の瞳、艶々と夜のように輝く毛並の一匹の黒猫になった。
狂喜乱舞する先生に、目が血走り触れたそうにぐるぐる猫の周りを回るグランに、教室は騒然となった。
「五月蠅にゃー」
可愛いーと叫ぶ子供たちの声からは、普通の猫の鳴き声に聞こえているようである。
「また、煩しい者を引き寄せたな。何か特殊な物質でも分泌しているんじゃないか」
アスラが面倒そうに吐き捨てた。
「放っておいた方が良かったか?」
「いえ、タスカリマシタ……」
あの場で何が起きたか分かった者はいなかっただろう……魔力の反応もなくアーサーに危害を加えたという疑いを受ける心配もなさそうだ。
「にしても、この印どうなってるんだ?」
俺は服をめくり上げると、まじまじと紋様を眺める。あれ?何か濃くなってないか?これ……。
「俺の魔力を流し込みお前に根付かせている。その内、お前の脈拍を上げたり、感度を上げたりすることも出来るようになる」
「か、かんど?」
あれ? 何かだいぶ怖いこと言われてないか……それ……まあ……俺の魔力もどんどん強くなっていくし、どこかで上書き出来るだろう! と深く考えないようにする。
何日も学園での日常が過ぎていく。日中は授業を受け、放課後は生徒会で雑用をこなした。アーサーは生徒会長だった。特にあれ以来、アーサーも懲りたのか変な絡まれ方はする事もなく、また、契約者となれるような素養を持つ者も見つけられなかった。
そんなある日、異界の生物の授業で契約の項目を学ぶこととなった。事前に大事な引き換えにできる物を用意するようにと言われ、前日の夜、俺は頭を悩ませていた。引き換えにできるなら、それは大事な物じゃないんじゃないか。
俺の持ち物は数少ない。聖剣に、赤龍からもらった腕輪、それから数枚の衣服類だ。宝物は、孤児院で子供たちにもらった花で作った押し花の付箋くらいだろうか。この宝物は絶対に引き換えにできない!
ちなみに、孤児院には、学園に入る前に伝言を頼んでおり、気を遣ったグランから寄附金を送ってもらえた。
うーん、もうざっくり指を切って血を流すで良くないか?と思ったが、だいぶ後ろ髪が長くなっていたことに気付く。小刀で、適当に髪をざっくりと切り落とした。隣のアスラは目を見開く。
「何をしている!?」
「うーん? 明日の授業で使う大事な物が何もないから髪を切った。ちょうど長くなっていたし……」
「……。それは大事な物ではないのではないか。それは俺に寄越せ」
アスラに握っていた髪の毛と小刀を奪われた。アスラは、自らの後ろ髪を掴んで小刀を当てると切り落とした。
「……あっ!」
すごく綺麗な髪なのに……と残念になる。長く伸ばしてもきっと艶々と綺麗で似合っていただろう。
「これをお前にやる」
アスラは切り落とした自身の髪を俺にくれた。ぽかーんと口を開いた俺に、アスラは問う。
「俺の髪は大事ではないか?」
「えっ……それは俺のよりは大事だぜ。すごく綺麗だし……伸ばしたら鬘にもなるし、売れるだろ!」
慌ててしまって、変な事を言ってしまう。その後、意外と器用なアスラに簡単に髪の毛を整えてもらった。
俺はこっそり寝る前に明日の授業で使う分とは別に一部アスラの髪を取り分け、組紐で結び小箱にしまった。だって、すごく綺麗な髪だったし、全て授業で使ってしまうのはもったいないと思ったんだ。やっぱり、大切な物っていうのは、引き換えに出来ないものだ。
異界の生き物の授業担当のコンラッド先生は、ふわふわの髪に変な眼鏡をかけた大男だ。境界の魔生物好きが高じて、異界の生物にもはまってしまったらしい。だが、ほぼ異界の生き物を呼び出せるような素養がある人間は居らず、各学年で行っているこの契約の授業でも、未だ誰一人として呼び出せたものはいないようだ。
「異界と魔界には大きな違いはない、と私は考えている。異界の一つが魔界だと。私たちの一番近くにある異界が魔界なのだ。この異界の生き物との契約は、契約を交わすことが非常に重要となる。どんな、危険な生き物も、契約者の意思に反したことはできない、と言われている。私は異界の生き物を呼び出すことができなかった。だが、この学園の生徒であれば、きっとできる者がいることを信じている。さあ、みんな、捧げ物は持ってきたか? 捧げ物は二つの界を安定させるための触媒だと言われている」
爛々と不気味な熱意に輝く瞳に、グランと同じ匂いを感じ取る。グランも珍しく期待に目を輝かせ真剣に授業を聞いている。授業で使う大切な物として、その握りしめた手に持っている羽毛はきっとぴーちゃんのものだろう。……ばれるぞ、過去の違法飼育が……。
「それでは、一人ずつ前に出てきてくれ」
一人ずつ、おずおずと進み出ながら台の上に捧げる大切な物を置き、契約陣の上に立つ。契約陣は先生が過去の古文書から発見した陣で研究に研究を重ね改良したものらしい……。
何人かの初めの生徒たちは異界の生き物を呼び出すことは出来なかったが、俺は子供たちが捧げる大事な物に興味を抱いた。それは犬の首輪だったり、高価な宝石であったり、毛布であったりした者もいた。何だかその者の心の内を覗いているような不思議な気分になる。そこで、はた、と俺は我に返った。俺の捧げる大切な物はアスラの髪の毛である。アスラもまた俺の髪の毛を捧げる。どちらか一人であれば家族のものかな? となるが、それぞれが捧げると何だかそういう風に見えてしまうんじゃないだろうか!?
動揺していると、グランの番だった。グランは緊張の面持ちで恭しく、ぴーちゃんの羽毛を台に載せ、陣の上で祈る。するとグランの強い魔力に反応したのか、台が揺れ陣が輝いた……が、何も現れず逆にぴーちゃんの羽毛は消えていた。
先生とグランはこの世の終わりかというほど落胆する。
次に俺の番となった。心を無にして、アスラの髪の毛を台の上に載せ祈る。変なモノが現れませんように、と。ごそっと大量の魔力が抜け落ち、目の前のアスラの髪の毛がふっと消え、陣が大きく光輝いた。
目の前に何か蠢うごめく黒い靄がある。
「名前をつけるんだ! それで契約は成される!!」
先生の叫ぶ声に俺は焦る。呼び出せるなんて思ってなかったから名前なんて考えちゃいない。黒い靄を見て、俺は貧民街に住んでいた時に、ほんの短い間一緒だった友だちを思い出した。
「ノア!!」
叫ぶと、黒い靄はゆっくりと一塊に収縮していき、小さな手脚、細長い尻尾、黄金色の瞳、艶々と夜のように輝く毛並の一匹の黒猫になった。
狂喜乱舞する先生に、目が血走り触れたそうにぐるぐる猫の周りを回るグランに、教室は騒然となった。
「五月蠅にゃー」
可愛いーと叫ぶ子供たちの声からは、普通の猫の鳴き声に聞こえているようである。
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