勇者だった俺は時をかけて魔王の最愛となる

ちるちる

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第二章 魔法学園へ行こう

12 王子は危険

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 王都の学園は全国民の憧れの的である。魔力の強い子供たちは身分を問わず学園に通うことができる。その中でも王都の学園は並々ならぬ魔力を保有している者でないと通うことの出来ない更に選ばれし者の通う学び舎なのだ。

 俺とアスラは時期外れの転入生として、教室に案内された。初等部の五年目の学期半ばでの入学となる。初等部は六年制、中等部三年制、高等部も三年制になっている。教師より紹介され席につく。一学年に一学級の百名程度で、過去に見知った顔ばかりだ。

 俺は過去では中等部の一年目に入学していた。ナニカに気づいたのは中等部の三年目の頃のことなので、今から約四年後のことだ。その頃には第一王子は卒業しており、公務をこなしていた。いつ、ナニカに成り代わられたのかは分からないが、少なくとも現時点では無事なのだ。早く契約者となる者を見つける方法を考えないと。

 俺はグランにも学園に入りたい理由を説明すべくナニカについても相談していて、グランは半信半疑ではあったものの魔生物への興味から異界の生物に対する知識も相応にあり、そのような生物がいる可能性もあるだろうと協力を取り付けることができていた。ちなみに聖剣から未来の危険を告げられたという設定にしている。グランも今日は教室の後ろのほうの席についている。過去はほとんど授業に出席することはなかったので、俺たちに会うためだろう。


 魔術の簡単な理論基礎を学ぶ授業の後、休み時間に入ると、俺は同じ学級の子供たちに囲まれていた。皆、隣のアスラに興味津々だが、氷のような無表情に怖いほどの美貌で話しかけるなという圧を放っているため、ちらちらと気にしながらも俺に話しかけてくる。

当たり障りのない対応をしていると、グランが声を掛けてきた。

「君たち二人とも少しいいかい? この学園を案内するよ」
「ああ。ありがとう、グラン。よろしく」

 グランが声を掛けてきたことで周りはざわざわと驚く声でざわめく。グランは学ぶべきことはないと授業を免除されている世界一の魔術師であり、学園に現れることも滅多になく、人間嫌いで誰かと話をするところも見かけないので、驚かれているのだ。

 昼休みだったので、食堂に案内される。この食堂は一階が初等部、二階が中等部、三階が高等部と分かれている。王族も通う食堂なので料理の水準は高く、初めて食べた時に俺は涙を流して喜んだものだ。

ちなみに、学園の学費や寮費、食事代は卒業後にこの国で就職することを条件に無料となっている。逆に国外で生活しようと思うと莫大な費用を国に払う必要があるので、有望な魔術師を囲い込むための仕組みとなっているのだ。

俺は、懐かしいトトの焙り肉を頼んだ。トトは学園で改良し飼育している非常に脂ののった家畜であり、舌の上で蕩ける肉の味は旅の間夢に見るほどだった。

まさか、また食べることができるとは、と口に入れ噛み締めると滲み出てくる脂と肉汁の旨さに涙ぐむ。アスラも淡々と同じものを食べている。

「……君は苦労したんだな。いくらでも食べると良い」

 孤児院出身ということは伝えていたので、グランに憐れまれたようだ。孤児院でも美味しい物は食べてたんだぜ。この世で一番まずかった物はグランの作った不可思議な物だぜ、と心の中で呟く。グランは俺達の周囲に簡単な結界を張ったようだった。目立たず何を話しているのか聞こえないように。

「ところで、君のいうナニカについて魔術師の塔で調べてみたんだ。異界の生物については魔生物以上に情報が少ない。だが、伝説という分類で君のいうナニカに似た生物の記述があった。過去、アトランティスという栄えた帝国があった。だが、ある時何を原因としたのかはっきりとは分からず滅びてしまったんだ。魔術師の塔で禁書とされている書籍には、その原因は異界の生き物だったと書かれている。異界からその生物を呼び出すには、契約者が最も愛する者を捧げることが必要だと」
「何だって!?」

 そうだというなら、契約者は第一王子を最も愛している者、身近な者ということになるではないか……。

「どういう関連があるのか分からないが、今年から異界の生き物という授業が追加された。そして、その中には契約についても学ぶ事になる」
「何だってそんな危険な授業を……」
「異界の生き物についてはよく分かっていない。それにそもそも異界の生き物と契約できるほどの素養を持つ者はこの学園でもほんの僅かだろう。危険だと認識されていないんだ」

 俺がいた頃にはそんな授業はなかったはずだ。あの頃は既に魔界と繋がってしまっていたので、異界についても危険視されたのかもしれない……。

何だかざわめきが大きくなり近付いてくるようだ。

「ああ……見当たらないと思ったら、隠れていたのか」

 第一王子アーサーが結界を破り、何人かの供を引き連れて声を掛け、俺の隣の席に座ってくる。

近くの席に座っていた者たちは緊張のあまり固まってしまっている。

「こんにちは。王子様」
「アーサーと呼んでくれ。俺の命の恩人だからな。レイは」
「いや、そんな大したことは。何かご用ですか? 」
「お前を生徒会に推薦しようと思ってな。初等部の生徒会ではなく、高等部の生徒会だ。お前を俺の指導生に任じよう」

 ピリリとひりつくような苛立ちが俺の右隣のアスラから伝わってくる。指導生とは生徒会に所属する上級生に一対一で指導される弟子のような者で、上級生が所属する生徒会に所属し、指導力を学び後に自身の属する学年の生徒会に入ることが多かった。そんな面倒なこと何も無ければ断るが、第一王子の近くで見張れるのは、契約者を探す絶好の機会である。

「俺で良ければよろしくお願いします。ただ、アスラも一緒じゃなきゃ断ります」

「うん?」

 俺の一番の目的はアスラを魔王としないことだ。アスラから目を離していたら本末転倒である。アーサーはアスラを眺め、その美貌に驚いたようである。

「断られるかと思っていたがな。良かろう。その者と共に指導生としてやろう。俺はレイが気に入った。言葉遣いも以前のままでも良いのだぞ?」

 とんでもない。この学園は貴族も多く王族に生意気な態度を取っていると顰蹙ひんしゅくを買うだろう。俺は身分などに全く重きを置いていないが、無駄に敵を作るつもりはない。

「とんでもない。ありがとうございます。身に余る光栄です」

 俺の型通りの口調に面白くなかったのか、白けた顔をしたアーサーはにやっと人の悪い笑みを浮かべると、俺の顔を掴み、軽く耳もとを撫でると口づけようとしてきた。こんな公衆の面前で正気か!? それに俺は子供だぜ!?

思わず、足で蹴り上げそうになるが相手は王子という言葉が脳裏によぎり身体が止まる。

その瞬間、俺の胸もとからピリリとする痛みが走り、俺と王子は雷に打たれたように硬直する。

「早速、役に立ったな」

 アスラは、感電して固まっている俺をひょいと抱き上げると何が起きたか理解していない周囲を無視してすたすたと歩いていく。

俺まで感電させる必要はないんじゃないかと、抗議しようとするも未だ声を上げることは出来なかった……。

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