勇者だった俺は時をかけて魔王の最愛となる

ちるちる

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第一章 友だちになろう

11 襲撃

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 目が覚めたとき俺は一人だった。先ほどのことを思い出し、幾分ほっとするものの胸にチリリとしたかすかな焦げつくような違和感を覚え、服をまくって鏡台の鏡に映す。俺のちょうど心臓の上あたりに丸や四角が組み合わさった陣のような幾何学模様が浮かび上がっていることに気づく。

 俺は自分自身の魔力で上書きし、打ち消そうとするものの、今の俺の力では難しいようだ……。俺は、アスラと話をしないといけないと考える。俺の意思を無視して勝手に印を付けられたことに腹も立つが、俺自身も彼に話していないことが多すぎるのかもしれない。

 俺は、過去に戻ったことで未来を知っている。だが、その未来は過去に起きた一つの結果に過ぎないと思っている。既に魔界と繋がっていたはずの出来事も変わっている。俺には、何が起きるのか可能性の高い出来事を知っているが、出会う人たちがどういう選択をするのか決めつけず、今の彼らを尊重したいと思っている。過去の旅の仲間たちも、グランのようにこれから出会うこともあるかもしれないが、俺が知っている彼らと同じだとは思わない。そんな戒めを心の中に持っていたが、アスラからすると俺の態度は何も大切なことは話さないと見えたのだろうか……。


 外に出てアスラを探しに行く。今は騎士の見張りもなくなり、明日からは学園の寮に移る予定である。俺は、アスラが居そうな王都の市場や広場、建ち並ぶ店を探す。どこにもおらず、俺のいる場所を向こうからは分かるのだから避けられているのか……。

 うろうろしていると、ある通りで何だか不審な人間が多いことに気づく。隠してはいるが、服の下に武器を持ち、殺気を放っている。身動きには隙がなく、足音もたてず戦うことを訓練している人間だと分かる。どうやら一人の男をつけているようだ……。俺も彼らの後を追いかけていく。目抜き通りを離れ、しばらく進むと人通りも少なくなっていく。先を行く男は走り出した。つけている男たちも追いかける。

 先頭を走っていた男が、突然止まり振り返ると剣を抜き放って構える。金色の髪に碧眼。俺はその顔を見て驚いた。最後まで共にいた旅の仲間の第二王子アレクによく似た顔。第一王子アーサーだった。

「お前たち何者か?」

 アーサーの問いに追手は答えず、武器を抜き放つと向かっていく。アーサーの剣の腕は並々ならぬようで、次々と追手を斬り伏せていくが、相手の数が多く次第に劣勢になっていく。俺は聖剣を抜き放ち、眠りの魔法を込めると追手たちに剣で触れていく。次々と崩れ落ちていく男たちにアーサーは目をみはって俺を見た。

「助かった。お前はどこの者だ?」
「レイ。家名はない。なぜ、襲われていた?」
「さあな。心当たりが多すぎる」

 アーサーは学園の高等部に在籍している頃のはずだ。俺と第二王子アレクは中等部で出会った。アーサーとは実は接点があまりなく、凡庸な現王に似ず、文武両道、覇気もあり国民の人気が高いという認識程度だった。そして、最初のナニカに成り代わられてしまった人物だった。俺はそっと近寄り、鞘を当てるがアーサーに変化はない。

「何をしている?」
「別に、何も。まじないのようなものだ。気にするな」
「お前は学園の者か?」
「ああ。明日から」

 アーサーは俺を居心地が悪くなるほどじっと眺めた。

「その年で凄まじい力だな。それにその剣……聖剣を持つ者が現れたと聞いてはいたが、お前のことか?」

 にやっという笑みに嫌な予感がした。

「王子!」

 お付きの護衛だろう男たちが集まってくる。

「じゃあ、これで」

 俺はその場を離れようと駆け出すと後ろからアーサーの声が掛かった。

「またな、レイ。学園で。俺はお前が気に入った」


 部屋に戻るとアスラが戻っていた。

「アスラ。話がしたい」
「なんだ?」
「なんで、こんな事したんだ?」

 俺は服をめくり、心臓の上の模様を見せる。アスラは、俺に近寄ると胸に手を当てた。

「上手く馴染んでいる。俺の印だ」
「お前の印って何だよ!? 人の許可なく、印なんか付けんなっ!」
「頼めば許してくれたのか?」
「許す訳ないだろっ!」
「ならば仕方ないな」
「お前!?」

 アスラは、俺を見て皮肉げに笑う。

「お前の言うように、お前には俺の知らないことがたくさんある。俺は退屈しないな」
「っ!ちゃんと話せることは話すようにする」
「今日も誰かを引っ掛けてきたのだろう? 第一王子だったか……」

 かりっと、胸に手を置いていたアスラに乳首を引っ掻かれ、ひっ!っと俺は真後ろに飛び上がって逃げた。

「変なとこ触るな!」

 それに、この印って何処にいるのかだけじゃなく、盗聴機能まで付いてるのかよ!?

「これから、ナニカと対峙するのだろう? お前が危険になる。それは必要だ」
「何だよ? それ……」

 その言い方だと、俺を心配してるみたいじゃないか……。俺は勇者で人類最強で、ずっと誰かを心配し守る方だった。俺は戸惑った。そして、頬が熱くなる事に気づくもなぜだか分からなかった。

「レイ。俺に誓約したことを忘れるな」
「忘れた事なんかない。アスラ。俺はずっとお前の事ばかり考えてるんだから……」
「そうであればどれほど良いか。俺は最近、お前を閉じ込めておくにはどうすればいいかという事ばかり、頭に浮かぶ」
「……えっ!?」

 また、近寄ってきたアスラが驚くほど近くに顔を寄せて囁く。

「俺の前でレイが傷付く事があれば、俺の魔力で作った鳥籠に閉じ込め、二度と傷付かぬよう閉じ込めてやる」

 俺を脅しているのに、その声音は魅惑的で甘く、俺は戸惑った。

「俺は強いから大丈夫だ。誰よりも」

 そう答えた俺の声が少し震え、掠れている事に動揺するも、アスラの胸に手を置き、押し返し距離を取ったのだった。


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