勇者だった俺は時をかけて魔王の最愛となる

ちるちる

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第一章 友だちになろう

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 初めは誰も気付かなかった。いや、気付けなかった。ナニカは人の中に入り込み成り代わる。ある時から聖剣が時折身を震わせるように、振動することに気付いた。それは、特に条件はなく、誰かに話しかけられた時だったり、授業で広い講堂に座っていた時だったりした。

ある時、顔見知り程度の知り合いに声を掛けられて、俺は振り向いた。何かの当番の話だったか……他愛もない話をしながらまた聖剣が震えるのに気付く。既に慣れていた俺は煩わしく思い、鞘を動かした。その時、聖剣の鞘が、目の前の話している相手の身体に少し触れたのだ。その瞬間、目の前の相手は溶けた。いや、正確にいえば人の皮だけを残して崩れ落ちたのだ。

 辺りは、阿鼻叫喚で俺はすぐに教員達に別室に連れ込まれ、騎士達が駆けつけ連行された。魔術師が、何人も集められ聖剣を調べても何も問題はないという。その時、グランにも初めて出会った。

やがて、詰問きつもんされていた雰囲気が変わり、数日してから協力を求められた。小部屋に何人もの人間が集められており、聖剣で触れていくことを命じられる。俺は嫌な予感を覚えながら、一人一人に聖剣の鞘を軽く当てる。皆、不思議そうな顔をしながらも騎士たちに見守られながら逆らわず大人しくしていた。何も起こらずほっとしながら、五人目の人間に鞘を当てた時だった。同じように、崩れ落ちたのだった。その様子を見て、悲鳴をあげる人々の中、集められて並んでいた列の最後の一人がかっと大きく口を開き、この世のものとは思えないような高音で奇妙な声を上げる。口から何かが飛び出すと、窓に向かっていくようだ。俺は聖剣を抜き放ち、ナニカを切り裂いた。それは、透明でぬめぬめとした身体をもっており、体液が光の反射によって光ることで辛うじて視認できたが、じゅっと白い煙を出すと直ぐに消えてしまった。最後の列の一人も口から何かを吐き出した後には皮と成り果てていた。


 そこから、国は可能な限り国中の魔術師を集め調べさせた。ナニカは人間に入り込み、普段は全く今までのその人間と変わりはなく、何らかの機会に他の人間にも入り込んでいっているようだった。魔術師が総力を上げて調べた結果、それは高熱に弱く、火傷をするほどの熱を与えると口から飛び出すということを突き止めた。それから、国中の人間を秘密裏に調べるべく、魔術師を派遣し駆除していった。驚くほど多くの人間がナニカに成り代わられていた。


 ある時、グランに呼び出され、ナニカは異界の生物で、呼び出した契約者と初めのナニカに成り変わられた人間がいることを告げられた。そして、王命としてその者達を探し出すことを命じられたのだった。俺は、ナニカに対して特別な力を持っている訳ではない。聖剣がぶるぶる震えるだけである。それでも、王命には逆らえずグランと共に調べ始めた。ナニカを異界から呼び出すには魔術的な素養が必要だということで、秘密裏に魔術師を中心に調べた。だが、そのような契約をしたような形跡のある者はグランを以てしても見つけられなかった。


 ある時、俺は王命でグランと共に王城に来ていると、一人の人間が切りかかってきた。俺は、聖剣で受け止め、その人物を見て息を止める。切りかかっては拙いと何とか身をかわしていると、相手は俺に何とか近づこうと剣を投げ捨てると掴みかかってきた。俺も剣先を下げ、相手を投げようと手を伸ばすと、聖剣が勝手に動き相手の胸を貫いた。……第一王子の胸を。

……お、終わった、俺の人生……。

 気が遠くなりかけるも、目の前の王子はべしゃりと皮となり崩れ落ちる。そして、その瞬間、国中のあらゆる人間に成り代わっていたナニカが消え、同じように皮と成り果てた者が多く出たようだ。

第一王子は初めのナニカに成り代わられていたようだった。初めのナニカを倒したことで、連鎖的にすべてのナニカが消えた。そのような生物だったようだ。王は嘆き悲しみ、あわや俺は処刑されかけたが、グランと第二王子の嘆願で命を繋いだ。あまりにも多くの人間がナニカになってしまっており、それは騎士や魔術師も例外ではなく、国に大きな傷跡を残した。

それでも、最初の契約者はとうとう見つからなかったのだ。第一王子だったのではないかという声もあったが、王子に魔術的な素養はそれほどなく、グランは絶対に違うと断言していた。


 俺はナニカについて、その生態と起こってしまうかもしれないことを話せる範囲で話し終えると、感情のない目でアスラは俺を見つめる。

「それで? 何故、そんな事を知っているのか、俺に話すつもりはないのだろう?」

 皮肉げに嗤ったアスラは、トンっと俺を軽く押し、寝台に腰掛けていた俺は倒れ込んだ。

「ナニカに掴みかかられそうになったと言ったな?ということはお前もナニカの獲物になるかもしれないという訳か……」

 王子とは言わず、過去、初めのナニカに襲われたことも話していた。

「ちょっと待て」

 起き上がろうとすると全く体が動かない! 魔法を使われたか!? と破ろうとすると、アスラが俺の身体に乗り上げてきた。

「下らぬ雑魚に触れられる等、許せるはずがない。印を付けてやる」

 そう言うアスラの目は、爛々らんらんと深紅に輝く。

「俺の魔力を流し込んで、お前がどこにいても何をされても分かるようにしよう」

 人形のように綺麗なアスラの顔が俺の顔に近付き、唇が唇に触れた。俺はじたばたと暴れようとするが全く動けない。口を開けさせられ、暖かいモノが喉を伝い全身に流れ込んでくる。

「や、やめっ」
「やめぬ。お前が自分を粗末にするのならば、俺がお前を守るしかない。お前からもな」

 その言葉に俺はなぜか衝撃を受けた。身体が内から火照るように熱くなっていく。はぁっと俺は熱のこもった息を漏らした。

 アスラは、しつこく俺の口の中を舌でまさぐり、どんどん魔力を流し込んでくる。やがて、アスラの手が俺の衣服の下を這い始めた時、俺はようやく魔法を破り思いっきりアスラに頭突きをした。そして、流し込まれた魔力の熱と頭突きの衝撃でそのまま意識を失ったのだった。


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