私の家族は変わってる

松田ねこ太郎

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第三話

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 商店街の中央広場には様々な露店がある。
 声が変わるキャンディとか口から泡が出る飲み物、気をつけないと勝手に飛んでいってしまう鳥パンなんかもある。パンは買ったら急いで口に入れないと折角のお金が無駄になっちゃうから蓋付きのカゴじゃないと買えない。
 今日はなにを買おうかなと一店舗ずつ眺めているといつもの果物屋に珍しい果物があった。
 普段は普通の果物ばかりだけど、今日はレアな食人果物が売っている。大きな口がついている果物だから気をつけないと自分が齧られちゃうけど、適切に処理するとすごく甘くて美味しいから大人気。すぐ売れ切れちゃうからなかなかお目にかかれないけど、この時間まで売っているのはラッキーかもしれない。
 店主のおじさんに食虫果物を頼むと口を縄で硬く縛って固定してくれた。これなら帰宅中に齧られる心配はない。
 たわいない世間話をしていると広場から突然叫び声が聞こえた。
 
「うわわっ」
 
 突然背中をドンと突き飛ばされて前のめりに倒れる。受け身を取ったつもりだったけど、微妙な角度だったせいで手首を捻る。鋭い痛みが走った。
 逃走経路として私の脇を通った犯人に勢いよく突き飛ばされたようだった。最悪なことに露店にも派手にぶつかったみたいで果物も食人果物も床に落ちて無惨にも潰れている。
 
「あーあ、潰れちゃってる。もったいない……」
 
 食べられると思っていたものが食べられないとなると途端に口の中が切なくなるのは何故だろう。すごく悲しい。
 
 広場から過ぎた大通りの辺りで歓声が上がっていた。どうやら犯人が捕まったみたいで、果物屋のおじさんが様子を見に行き、戻ってきていた。。
 
「ひったくりだってよ。馬人だから自分が一番早いと思ったんだろうなぁ。それ以上に早いやつなんてたくさんいるだろうに。店もめっちゃくちゃだしよ」
「無駄に力強いですもんね……」
 
 大きなため息をつくおじさんのお手伝いをしながら潰れた果物を拾う。幸いにも潰れていない果物もいくつかあった。
 
「お嬢ちゃんもごめんなぁ。折角の食人果物がダメになっちまって。代わりに無事だった果物持って行ってくれよ」
「いやいや、おじさんも被害者じゃないですか。いただけませんよ」
「そうだけど、そうじゃないだろう。食人果物はないけど他のも美味しいからよ。それ食べて店の宣伝でもしてくれ、な」
「わかりました。ありがたく……え、こんなに? ちょっとそんなに入れたらお店の分がなくなっちゃう。やっぱり悪いよ」
 
 ガサっと袋に詰められた果物にギョッとするとおじさんはまあまあ、と無理やり押し付けてきた。おじさんだって売り上げなくて困るだろうに、私の心配をしてくれるのは嬉しいけど。もしかしたら他より私が幼く見えるからお手伝いだと勘違いしているのかもしれない。
 困った末にもう一度断ろうとすると、ふわりと甘い香りがした。甘いだけじゃない、どこか蠱惑的な香りが背後から私にまとわりつくように香る。
 振り返るとフード付きの外套を深く被った男性がこちらを見ている。表情はわからないのに、目が細められた気がした。
 
「店主。そこのお嬢さんにこれも追加してくれ。金は私が払おう」
 
 筋張った男らしい手が果物を指差す。おじさんが戸惑っている隙に私がもらった果物の金額を机に置いていた。
 
「それと食人果物が入荷したらここへ連絡をくれ。頼んだよ」
 
 一枚の紙をおじさんに渡して男性は私の肩を持ってその場から離れた。さりげなく私の持っていた買い物袋を持ってくれる。去り際におじさんを振り返ると困惑した表情のおじさんがいた。
 
「あの、あのっ」
 
 いまだに私の背中を押す男性を見上げる。深く被るフードのせいでどんな表情かわからないが、こちらを伺う視線を感じる。
 
「大丈夫だ。さっきのひったくりはもういないから心配する必要もない」
「いや、そうじゃなくてですね」
「災難だったね。馬人は一度スピードに乗ってしまうとなかなか捕まりづらいから。手も痛いだろう。早く手当をしよう」
「えっ」
 
 なにから突っ込めばいいのか困惑したが、私がさり気なく手を庇っていることに気づかれたようだ。男性は私を人通りの多い大広場から離れた日陰へ連れて行くと私の腕をまじまじと見る。
 手首が少し腫れていた。ズキズキする感覚もあり、意識し始めると余計に痛みを感じるのはなんでだろう。
 その様子を見た男性は外套のポケットから一粒のキャンディを取り出した。
 
「これを食べるといい。痛みがすぐ消える」
 
 手に乗せられたキャンディは赤い包みに入れられていた。取り出してみると真っ赤で丸い形。思わず彼を見上げると、困ったような態度になる。ふと隠れていた顔が見えた。
 
「苺味だよ。疲労効果がある。町外れにあるナーガのヒーリングキャンディを知っているかい。そこの商品だよ」
 
 ナーガ族が作っているヒーリングキャンディは有名で、味がいいことは間違いないのだが元来の属性である毒性を中和するように調合されている。薬にも重宝されている珍しいものだ。私には到底手出しができない。
 
「有り難くいただきます」
 
 こんな良い物をもらっていいのか悩んだが折角のご厚意だからと受け取った。ほっと息をついた男性は、今日は気をつけてお帰りと大通りへと私の背中を再び押す。
 正直まだ買い物が終わっていないし、見たい気持ちもあったが日も翳り始めていた。門限の時間も近づいてきたことだしここは素直に従うことにした。
 
「あの、色々とありがとうございました。果物のお金まで払ってもらっちゃって」
「気にしなくていい。怪我が悪化しないように家へ帰ったらきちんと手当をするんだよ」
 
 そう言うとあっさりと背中を見せ、去っていく。
 あの人、すごくかっこよかったなぁ。チラリと見えた顔は人目を引く美しさで、男性ながら思わず見惚れそうになった。
 あれだけかっこいいから外套で顔を隠してるのだろうなと納得する。あんなのが街中を普通に歩けるはずがないと思ってしまう。きっと人だかりがすごいだろうし。
 おまけに見知らぬ私を助けるぐらい人が良いのだから余計にすごい。
 口の中に残る苺味と微かに残った甘いムスクの香りに後ろ髪引かれる気持ちで帰路へとついた。
 
 
 自宅へ帰ると私の腕を見た家族が大騒ぎだったのは言うまでもない。
 
 
 

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