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第八話
しおりを挟む「聞いてないぞ」
「え、急に何よ」
「俺は聞いてないぞ」
「だから何が」
「な、なんで見合い、婚、っ」
「ああ、その話ね。リューお兄さまに聞いたの?」
「違う。ミレーが笑いながら伝えてきた。くっそ腹立つ顔してな」
「貴族さまがくっそとか言っちゃいけないと思うけど」
今日は訪問予定があると父が言っていたが、どうやらイワンのお父さまだったようだ。今晩は久しぶりに共に食事をするみたいで二人とも浮かれていた。おじさまもお父さまもお喋りだからか、話出すと止まらなくなる。普段は俺は寡黙だとか言っているけど家族みんなお父さまの冗談には半笑いで返すのがお決まりになっている。
一緒に来ていたイワンがすごい形相でこちらに走ってきたのには驚いた。
言いたいことがあるようだがなかなか話そうとしない。普段のおしゃべりはどこ行ったの。顔面だけは凄んでて借金取り立て屋みたいだ。
そういえばこの前会った時に何か言っていた気がする。
「この前は用事、間に合ったの? 爺やさんすごく急かしてたじゃん」
「ああ。間に合ったから大丈夫」
「そう。なら良いけど」
機嫌が悪いのか口数が少ないけど、彼のこの状況は何か言いづらいことがある時の様子だ。すごく昔に私のお気に入りの人形を壊した時もこんな顔をしていた。
「……なあ、ミオ」
絞り出した声で話だす。目線はこちらを向かず明後日の方向を見ていた。
「相手は、どんなやつだ」
「ミレーお姉さまには聞いてないの?」
「聞いてない。すぐミオのとこに来たから」
鼻をすんと吸ったイワンはとても嫌そうな顔をしている。
「その顔、面白いからやめてよ」
「どんな顔だよ」
「苦虫噛み潰したような顔よ」
「……実際に苦虫噛んだ気分だよ」
もう一度鼻をすんと吸ったイワンは久しぶりにこちらを見た。目があう。身長の高いイワンだからなかなか目線は合わない。そういえばヴィンセントさまも身長が高い。イワンと同じぐらいだろうか。でも彼と目線が合わないとか表情が見づらいなんてことは感じたことがなかった。多分身長の低い私のために顔を下げて話してくれているのかもしれない。新しい発見だ。
「…………くせぇ」
一瞬何を言われたかわからなかった。
「婚約したばかりなんだろ。なんでお前からそいつの匂いがするんだ」
「はあ?」
「絶対おかしい。そんなに匂いつくほど近くによるのか。お前の倫理観はどうなってんだ。頭おかしいのか」
「……はあ?」
「絶対変なやつだろ、変態的だ。自分の物みたいな匂い擦り付けやがって。せっかく付けた俺の匂いが綺麗さっぱり消えてんじゃねえか!」
「さっきから黙って聞いてれば、なあに訳のわかんないこと言ってんのよ! 誰が臭くて変態ですって! 変な言いがかりはやめて!」
匂いってなによ、女性に臭いとか言うのがどんなに失礼なことか分かってんの。ちゃんとお風呂入ってるのに、臭いとか。……え、私って臭いの……?
「ヴィンセントさまはねえ、イワンみたいに人を臭いなんて言わないし、口も悪くないし紳士的なんだから! 私の話だってちゃんと聞いてくれるの。優しくて私を大事にしてくれるのよ。そんな良い人をこれ以上悪く言わないで!」
「優しいだって? そんぐらい俺だってできる。お前を大事にしてるだろ!」
「あなたがいつ私に優しくしたのよ! いつもいつも凄んでばっかりで、態度はでかいし、口は悪いし」
売り言葉に買い言葉で、収集がつかない喧嘩は使用人が廊下を通り過ぎようとしていたのを見て口数が減った。気持ちが多少落ち着いてきた。チラリとイワンを見ると彼も間が悪いと感じているのか、静かになった。
はっきり言って私すごく怒っていい事だと思うのよ。急におかしいこと言い出したのはイワンなんだし。おじさまにちくってやりたいぐらい。こってり怒られると良いんだわ。それにお兄さまお姉さまたちに知られたらウチへ出禁になるぐらいなんだから。
自分で想像してなんだけど、本当に出禁になりそう……
でも落ち込んでいるのか怒っているのかわからない顔でこっちを睨みつけてくるのはどういうことなのか。イライラがおさまっていないみたいだけど。
「さっきから思ってるんだけど、私が婚約したらいけないの」
「……そうじゃない。そうじゃないけど」
睨みつけている目線が髪飾りの代わりにつけている薔薇に移る。これは今朝贈られてきた花束の中にあった一本だ。
「横から出てきて急に掻っ攫われるのは気に入らねえ」
「あっ、ちょっと!」
ふんと息を吐いたイワンは私に近づくと薔薇を抜き取って去っていった。
一体なんだったのか。当たり屋にあった気分だわ。
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