私の家族は変わってる

松田ねこ太郎

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第十四話

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 青黒く汚かった体はすっかり綺麗になって、ガリガリで骨と皮しかなかった肉体には少しばかり肉がついた。成長する時すらなかった七歳の体はようやく成長しようと土壌が整って少しばかりみえるようになった気がする。
 てっきり気まぐれで拾われたのだと思っていたけど、あれから毎日家族は私が寂しく思う時がないほど愛してくれた。少しの時間も離れたくないと兄妹たちは交代で私と遊んでくれる。
 
 ――人間は時として餌とされる。
 人間は弱い。力の強い亜人たちから身を守る術は武器をとることぐらいしかないのだ。その武器ですらものともしない強者はいるのだから、一向の人間の数は増えない。
 この国では全種族が平等とし互いの尊厳を守らなければならないと法で決まっている。他国のように圧倒的弱者として扱われないためか国内に人間の数が多いし、種の存続のために保護すらされている。
 でも、それを気に食わない亜人は大勢いる。
 優しく近づき、仲間だと思わせ、手酷く裏切る。人を人と思わず、まるで遊びのようにそれらをするのだ。
 だからこれもその一種かも知れないと幾度と考えた。
 不健康で身寄りのない私を育て、食べごろになったら食べる。それか自分たちに信頼を寄せるのを待っているのかも知れない。裏切られ絶望に染まる顔を見せ物のようにしたいのだろうか。
 そういう人間をたくさん見てきたから、なかなかそれらの愛を信用することなどできなかった。
 毎日豪華な部屋での寝泊まりも疲れが癒えてからはただ恐ろしかった。
 寝ている間に何か起こるかも知れない。あの異種族の兄妹たちが私を食べにくるかも知れない。
 どんなに親切で優しそうに見えても信用することができずに不眠を患ってしまった。きっと家族はみんな理解していたと思う。不眠の原因を。でも誰もそれに指摘することはなく静かに見守り続けていた。
 長兄などはごくたまに何か言いたげな表情をしていたけれど、きっと話してくれるのを待っていたのかも知れない。
 
 辛抱強く私を見守っていた。
 短気であろう次男ですら、静かに見守っていたのだ。
 私の心が開くのを。
 
 ……怖かった部屋が落ち着く場所になったのはいつ頃だっただろうか。
 安心する香りに居心地がよく、少しずつ自分の場所だと思えるようになったのはいつ頃だっただろう。
 兄弟たちとたくさん話をできるようになったのはいつだっただろうか。
 父や母に悩みを相談できるようになったのはいつだっただろうか。
 
 字を読むことすらできなかった私に字を教えてくれて、本も与えてくれて。少しでも知識が増えると大袈裟なぐらい褒めてくれて。死んだはずの心に少しずつ愛を分けてくれる。
 穴の空いたバケツに溢れんばかりに注がれる愛の水は居心地の良いもので、穴を塞ぐ効果もあったのかも知れない。この愛に縋り付いても良いのだろうか。もしここからもう一度捨てられたら、そんな恐怖を感じてながら。けれど水は途切れることなく注がれたから枯れた心は生き返ろうとしていた。
 
 八歳になる頃にはすっかり健康的な身体になった。お父さまたちの愛に応えたいと願い、いろんなことに励んだ。与えられるものは全て貪欲に飲み込み、家族のために返せるように。
 そしてやっと私はシェドリー家の一員になれた気がした。
 
 
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