14 / 21
第十四話
しおりを挟む青黒く汚かった体はすっかり綺麗になって、ガリガリで骨と皮しかなかった肉体には少しばかり肉がついた。成長する時すらなかった七歳の体はようやく成長しようと土壌が整って少しばかりみえるようになった気がする。
てっきり気まぐれで拾われたのだと思っていたけど、あれから毎日家族は私が寂しく思う時がないほど愛してくれた。少しの時間も離れたくないと兄妹たちは交代で私と遊んでくれる。
――人間は時として餌とされる。
人間は弱い。力の強い亜人たちから身を守る術は武器をとることぐらいしかないのだ。その武器ですらものともしない強者はいるのだから、一向の人間の数は増えない。
この国では全種族が平等とし互いの尊厳を守らなければならないと法で決まっている。他国のように圧倒的弱者として扱われないためか国内に人間の数が多いし、種の存続のために保護すらされている。
でも、それを気に食わない亜人は大勢いる。
優しく近づき、仲間だと思わせ、手酷く裏切る。人を人と思わず、まるで遊びのようにそれらをするのだ。
だからこれもその一種かも知れないと幾度と考えた。
不健康で身寄りのない私を育て、食べごろになったら食べる。それか自分たちに信頼を寄せるのを待っているのかも知れない。裏切られ絶望に染まる顔を見せ物のようにしたいのだろうか。
そういう人間をたくさん見てきたから、なかなかそれらの愛を信用することなどできなかった。
毎日豪華な部屋での寝泊まりも疲れが癒えてからはただ恐ろしかった。
寝ている間に何か起こるかも知れない。あの異種族の兄妹たちが私を食べにくるかも知れない。
どんなに親切で優しそうに見えても信用することができずに不眠を患ってしまった。きっと家族はみんな理解していたと思う。不眠の原因を。でも誰もそれに指摘することはなく静かに見守り続けていた。
長兄などはごくたまに何か言いたげな表情をしていたけれど、きっと話してくれるのを待っていたのかも知れない。
辛抱強く私を見守っていた。
短気であろう次男ですら、静かに見守っていたのだ。
私の心が開くのを。
……怖かった部屋が落ち着く場所になったのはいつ頃だっただろうか。
安心する香りに居心地がよく、少しずつ自分の場所だと思えるようになったのはいつ頃だっただろう。
兄弟たちとたくさん話をできるようになったのはいつだっただろうか。
父や母に悩みを相談できるようになったのはいつだっただろうか。
字を読むことすらできなかった私に字を教えてくれて、本も与えてくれて。少しでも知識が増えると大袈裟なぐらい褒めてくれて。死んだはずの心に少しずつ愛を分けてくれる。
穴の空いたバケツに溢れんばかりに注がれる愛の水は居心地の良いもので、穴を塞ぐ効果もあったのかも知れない。この愛に縋り付いても良いのだろうか。もしここからもう一度捨てられたら、そんな恐怖を感じてながら。けれど水は途切れることなく注がれたから枯れた心は生き返ろうとしていた。
八歳になる頃にはすっかり健康的な身体になった。お父さまたちの愛に応えたいと願い、いろんなことに励んだ。与えられるものは全て貪欲に飲み込み、家族のために返せるように。
そしてやっと私はシェドリー家の一員になれた気がした。
10
あなたにおすすめの小説
転生後はゆっくりと
衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。
日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。
そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。
でも、リリは悲観しない。
前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。
目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。
全25話(予定)
王様の恥かきっ娘
青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。
本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。
孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます
物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります
これもショートショートで書く予定です。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
愛しの第一王子殿下
みつまめ つぼみ
恋愛
公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。
そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。
クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。
そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる