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第十六話
しおりを挟む「楽しかったぁ~!」
「満足かい」
「ええ、とても! こんなにたくさん作品があるなんて思わなかったもの」
「それはよかった。連れて来た甲斐があったよ」
世に出回っている作品の多くはレプリカが多いが、さすが美術館というだけある。本物を見たことはなかったがああも贋作と違うなら今度は無理にでも探すべきかもしれない。
「波が静かに動いている風景画が印象的でした」
「ああ、あれか。確かに夕日と一緒に暗くなる海はなかなかゾッとするものがあったな」
「素敵でしたよ」
「まあいろんな意味で素敵なんだろうね。あのまま見続けていると引き摺り込まれて溺れるけど」
「え」
「所持者は軒並み行方不明だ」
あの絵画を思い出す。
穏やかな海に青い空、ゆっくりと太陽が降りていき最後は海へと消えていく。太陽のいなくなった海は青くなく孤独であるように黒く染まっていた。まるで底のない穴のようにどことなく惹かれる気持ちにさせられた。
あの作者は基本動かない作品を作り出す。この世の美術品は下手すると逃げてしまうし人を襲うこともある。けれども彼は静かな穏やかな作品が多いのだ。まさかそんな曰く付きとは思いもするまい。
「……ほどほどがいいですね」
「賛成」
笑い合いながら美術館を後にする。いまだに手は繋がれっぱなしだった。でも最初のころと思うと慣れてきた。美術品を眺めるのに集中していたからかもしれない。
このまま大通りまで歩き、商店街を見て回ろうという話になった。
今日は快晴とあって大通りは人で賑わっていた。
どこも人が多くて、いつもの私なら歩くのに少し手間取るぐらいだ。あちらこちらを亜人の尻尾が当たったり、ヒレが顔についたり、小ささで見えないのか巨人族に踏まれそうになる。それがヴィンセントさまと歩いていると一切ないのだ。なぜだろうと思っていると亜人たちが避けているのに気づいた。
ちらちらとこちらを見てくる人たちがいる。大概が女性でヴィンセントさまに見惚れたりしているのだ。けれど今日は男性たちも見ていた。
「どうした」
「あ、いいえ。なんでもないです」
「目的地までもうすぐだから」
人々の視線が気になるとは言えず、彼が盾になってくれているのだからと彼のいう目的地まではちょっと後ろを歩こうかと考えていた。
みんなが見るのはとてもよくわかる。だってかっこいいんだもの。ハットを被っているけど魅力的なオーラが滲み出てるし、ハットから出たシルバーの髪が陽に当たって輝いている。
それに風に流されてくる微かな彼の香りにミオはいつもうっとりとしてしまう。薔薇を思わせるような蠱惑的なかと言ってしつこくない爽やかな香り。相反した香りを纏う彼に骨抜きにされそうになるのだ。匂いフェチじゃなかったはずなのに……
「大通りに面している大広場へは最近は行った?」
「最近はあまり。お兄さまたちが行くのを嫌がるんです。あのあと暫くは外出を制限されたから」
「じゃあ喜ぶかもね」
一歩下がって歩く私を注意するかのように軽く手を引っ張って横に並ばせた。繋ぎ方がより絡むように繋がれて先程まで慣れていたのにまた頬が火照る。
私の反応に満足したのか、またゆっくりと歩き出した。
大広場は今日もたくさんの店で賑わっている。
中央にある噴水は盛大に水を溜め込んでいて今にも爆発しそうだ。いつもは綺麗に出す水も時々爆発する。そうするとスカートまでびちょびちょにされるのが難点だ。
噴水を見ているといい匂いが鼻を掠める。あ、これは焼き鳥だ。
思わず視線を動かすと、鳥獣人が焼き鳥を焼いていた。甘辛い味がついているのか香ばしいタレの匂いによだれが溜まりそうになる。
私の様子に気づいた彼も視線の先を焼き鳥へやった。
「くくっ……、買おうか」
軽く吹き出しながら言うヴィンセントさまに本当は恥ずかしがった方がいいのだろうけど女心より食欲が勝ち、本能のままに頷いた。
余計に彼が笑うのだから睨みつけるのは仕方がないと思うの。
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