私の家族は変わってる

松田ねこ太郎

文字の大きさ
16 / 21

第十六話

しおりを挟む
 


 
「楽しかったぁ~!」
「満足かい」
「ええ、とても! こんなにたくさん作品があるなんて思わなかったもの」
「それはよかった。連れて来た甲斐があったよ」
 
 世に出回っている作品の多くはレプリカが多いが、さすが美術館というだけある。本物を見たことはなかったがああも贋作と違うなら今度は無理にでも探すべきかもしれない。
 
「波が静かに動いている風景画が印象的でした」
「ああ、あれか。確かに夕日と一緒に暗くなる海はなかなかゾッとするものがあったな」
「素敵でしたよ」
「まあいろんな意味で素敵なんだろうね。あのまま見続けていると引き摺り込まれて溺れるけど」
「え」
「所持者は軒並み行方不明だ」
 
 あの絵画を思い出す。
 穏やかな海に青い空、ゆっくりと太陽が降りていき最後は海へと消えていく。太陽のいなくなった海は青くなく孤独であるように黒く染まっていた。まるで底のない穴のようにどことなく惹かれる気持ちにさせられた。
 あの作者は基本動かない作品を作り出す。この世の美術品は下手すると逃げてしまうし人を襲うこともある。けれども彼は静かな穏やかな作品が多いのだ。まさかそんな曰く付きとは思いもするまい。
 
「……ほどほどがいいですね」
「賛成」
 
 笑い合いながら美術館を後にする。いまだに手は繋がれっぱなしだった。でも最初のころと思うと慣れてきた。美術品を眺めるのに集中していたからかもしれない。
 このまま大通りまで歩き、商店街を見て回ろうという話になった。
 今日は快晴とあって大通りは人で賑わっていた。
 どこも人が多くて、いつもの私なら歩くのに少し手間取るぐらいだ。あちらこちらを亜人の尻尾が当たったり、ヒレが顔についたり、小ささで見えないのか巨人族に踏まれそうになる。それがヴィンセントさまと歩いていると一切ないのだ。なぜだろうと思っていると亜人たちが避けているのに気づいた。
 ちらちらとこちらを見てくる人たちがいる。大概が女性でヴィンセントさまに見惚れたりしているのだ。けれど今日は男性たちも見ていた。
 
「どうした」
「あ、いいえ。なんでもないです」
「目的地までもうすぐだから」
 
 人々の視線が気になるとは言えず、彼が盾になってくれているのだからと彼のいう目的地まではちょっと後ろを歩こうかと考えていた。
 みんなが見るのはとてもよくわかる。だってかっこいいんだもの。ハットを被っているけど魅力的なオーラが滲み出てるし、ハットから出たシルバーの髪が陽に当たって輝いている。
 それに風に流されてくる微かな彼の香りにミオはいつもうっとりとしてしまう。薔薇を思わせるような蠱惑的なかと言ってしつこくない爽やかな香り。相反した香りを纏う彼に骨抜きにされそうになるのだ。匂いフェチじゃなかったはずなのに……
 
「大通りに面している大広場へは最近は行った?」
「最近はあまり。お兄さまたちが行くのを嫌がるんです。あのあと暫くは外出を制限されたから」
「じゃあ喜ぶかもね」
 
 一歩下がって歩く私を注意するかのように軽く手を引っ張って横に並ばせた。繋ぎ方がより絡むように繋がれて先程まで慣れていたのにまた頬が火照る。
 私の反応に満足したのか、またゆっくりと歩き出した。
 大広場は今日もたくさんの店で賑わっている。
 中央にある噴水は盛大に水を溜め込んでいて今にも爆発しそうだ。いつもは綺麗に出す水も時々爆発する。そうするとスカートまでびちょびちょにされるのが難点だ。
 噴水を見ているといい匂いが鼻を掠める。あ、これは焼き鳥だ。
 思わず視線を動かすと、鳥獣人が焼き鳥を焼いていた。甘辛い味がついているのか香ばしいタレの匂いによだれが溜まりそうになる。
 私の様子に気づいた彼も視線の先を焼き鳥へやった。
 
「くくっ……、買おうか」
 
 軽く吹き出しながら言うヴィンセントさまに本当は恥ずかしがった方がいいのだろうけど女心より食欲が勝ち、本能のままに頷いた。
 余計に彼が笑うのだから睨みつけるのは仕方がないと思うの。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生後はゆっくりと

衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。 日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。 そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。 でも、リリは悲観しない。 前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。 目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。 全25話(予定)

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

王様の恥かきっ娘

青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。 本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。 孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます 物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります これもショートショートで書く予定です。

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

愛しの第一王子殿下

みつまめ つぼみ
恋愛
 公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。  そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。  クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。  そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...