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第十七話
しおりを挟む絶品だった焼き鳥に舌鼓を打ち、いつも感じる疑問を口にした。
「どうして焼き鳥を鳥獣人が売るんですかね」
「美味しいからじゃないか」
「……」
共食いにはカウントされないのだろうか。一瞬過った考えを横にやり、口の周りのソースを丁寧に取る。本人たちが良いのだからガヤが考えることではないのかもしれない。
「まあ言いたいこともわかるけどね。魚人族だって魚を食べるし、スライムだってスライムを捕食する」
「人間は人間を食べませんよ」
「そりゃあそうだ」
他の種族には食べられるけど。あえて口にしなかった言葉も含めて通じたようで彼は軽く微笑んだ。
「ミオは大丈夫」
頭を優しく撫でる手はひんやりとしているが芯の部分が温かい。思わずうっとりすると手が頬へと滑っていく。柔らかさを味わうように触られて頬が熱くなった。
口角をわずかに上げて手が離れていく。恥ずかしくて離れて欲しかったのにいざ離れると名残惜しく感じてしまう。
「さて焼き鳥を食べたら今度はこっち」
手を繋ぎ再び歩き出す。相変わらず人が多いのに歩きやすい。
なんでこんなに彼を避けて通るんだろう。まさか私を避けているわけじゃないだろうし、十中八九ヴィンセントさまが起因なんだろうけど謎だ。
気になるといろんなことが気になってくる。
店の前を通り過ぎるとすかさず客引きの声がするがヴィンセントさまには投げかけられていないように感じる。
それにいつも私を小馬鹿にするジュース屋さんの兎族も私に気づいてるはずなのに目があうこともなく、絡まれることもなかった。
……かっこいいからだよね?
思わず浮かんだ疑問にいやいや違うだろと言う自分がいた。
憧れの眼差しだと感じていた視線ももしかしたら違うのかもしれないと思い始めていた。ちらちらと気にするが話しかけるわけでもない。一部の人々は彼に見惚れているが、他の人たちの表情はどことなく硬い。
これはあれだ、恐怖だ。
人は恐怖を感じると顔が強張る。それに似ている。
「ほら、ミオ」
気を取られていた私を嗜めるように指先をノックされた。彼が促すようにその先を見ると知った顔。
「あ、果物屋のおじさん」
――ほらこんな感じに。
引き攣った表情の果物屋の店主はヴィンセントさまの後ろに立っていたミオを見て、その強張りが緩んだ。
「よう、お嬢ちゃん。元気かい」
「おじさんもあれから大丈夫でしたか。お店はもう平気?」
「ああ、ぼちぼちだよ」
「あの時の果物、全部美味しかったです。あんまりにも多かったから半分はドライフルーツにしちゃいました」
「そりゃあ最後まで食べてもらえて果物も嬉しいだろうよ」
今日も種類がたくさんあるようで、商品棚には数多くの果物で埋め尽くされていた。時々歩いて行こうとする果物がいるから、その都度おじさんが籠へ戻している。てこてこ花と言う甘い蜜が美味しい果物だ。主に吸ったりして食べる。おじさんは不意に立ち上がると店の奥から箱を抱えて、商品棚の横に置いた。
「ほら、ミオ見てごらん。この前は食べられなかっただろう。今日入荷したみたいだから」
箱に近づくとギャアギャアとくぐもった声が聞こえる。そこには食人果物が口を縛り付けられていた。数にして十個、こんなにたくさん見たのは初めてだ。思わず、うわぁと声が出てしまう。
「好きだろう」
「好きですっ」
にこにこと笑うヴィンセントさまは店主のおじさんにお金を払うと箱を持った。
「ではまた頼む」
「ありがとうございました。お嬢ちゃんも楽しんでな」
「はい。また来ますね」
手を振って店を後にすると大通りに馬車が停まっていた。ヴィンセントさまの家紋がついている。
「本当は歩いて帰りたいけど、食人果物が新鮮なうちに帰りたいからね」
帰ったら食べようか、と御者が開けた扉をくぐり手を差し伸べてくれる。彼の馬車に乗るのは二度目だけどこれが面白い。空飛ぶ馬車は大きな翼を広げるから街中とか木々が多いところでは乗車できないけどこの馬車は空を飛ぶのに翼がないのだ。
だから人の多い街中だろうと木々が多い場所でもどこへでも行ける。
扉が閉められ、分厚いカーテンで窓も閉める。光が少ない馬車内で彼はハットを取った。
「大丈夫ですか」
「ん?」
「暑そう」
彼の頬を汗が一筋流れ落ちるのを見て、もしかしたら無理をしているのかもしれないと思い当たる。陽の光に当たった頬が赤い。普段は白いから余計にその赤みが気になった。
「大丈夫だよ。すぐに治る」
ポケットからキャンディを取り出すと口に含む。そして私にも同じものをくれる。ナーガのヒーリングキャンディだ。懐かしいやり取りに思わず笑って同じく飴を口に入れた。
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