私の家族は変わってる

松田ねこ太郎

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第十八話

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 食人果物は最高だった。思い出しただけでうっとりしてしまう。
 凶悪な見た目に反してとろっとろな果肉に爽やかな柑橘系の味なのだ。暑い夏の日なんかはご馳走として振舞われることが多い果物だけど、ヴィンセントさまはそれをフルーツタルトにしてご馳走してくれた。しかもおまけにお土産用に持たせてくれるという大判振る舞い。滅多に食べられないとあって家族も大満足してくれた。
 
「ニルケお兄さまってどこにいるか知ってる?」
「さっき蔵書室へ行くのを見かけたけど、何か用事かい」
「一緒に香水の調香を手伝って欲しくて」
「今日のニルケは物体がないから人形を持って行きなさい」
「わかった。ありがとう、リューお兄さま」
 
 蔵書室はたくさんの本が保管されていて、本好きのリューお兄さまとニルケお兄さまのお気に入りの場所。二人の趣味の本が多めにあるし、どこから集めてくるのかわからないけど毎日のように新しい本が追加されている。
 人間の私には危険な本もたくさんあるのだけど、そういった危険図書は別室へ保管されているし、私が間違って入室しないように魔石で鍵までしてある。
 本自体を手に取らなきゃ大丈夫だと思って、危険図書だけ区画を分ければいいじゃないと言ったところ物によっては背表紙だけですら危険だと言う。目が背表紙にあるから見つかると襲われるみたい。
 
「ニルケお兄さま、どこー」
 
 広い蔵書室は吹き抜けの二階建てで下から見上げれば大体は見つけられる。けどニルケお兄さまは普段から霧の格好をしているしなかなか見つからないから呼ぶしかない。
 私の声が響くと壁にかかっていたオベロンの絵画が話しかけてきた。
 
「ニルケは危険図書室にいるぞ」
「そうなの。ありがとう」
「今日はお前一人なのか」
「ミレーお姉さまは今日デートなの。朝とってもおしゃれして出かけたのよ」
「そうか。羨ましいことだ。私も物体があればアレとデートができるのだろうが」
「オベロンは絵画だもん。出てこれないよ。それにタイターニアは嫌がるだろうなあ」
「相変わらずお前は一言も二言も多いぞ」
 
 オベロンが絵画の中で頬杖をつく。この家にある絵画もこうやって動く作品も多い。特にオベロンとタイターニアは夫婦だからセットの作品だけど、夫婦仲が悪いのか、喧嘩中なのか今は別室で飾られている。
 
「私が呼んでやろう」
 
 オベロンは近くの絵画へ話しかけると絵画同士が伝言しあって危険図書室まで声を届けてくれる。私が中に入れないから絵画たちはいつも協力的だ。
 しばらくすると霧が吹き抜けを通って降りてくる。
 ニルケお兄さまだ。
 お兄さまは私が持ってきた人型の人形に入ると人形の目が開いた。
 
「お待たせ」
「忙しいのにごめんね」
「ただの暇つぶしの読書だから気にしなくてもいいよ」
 
 頭をポンポンと撫でられる。ニルケお兄さまは無口で無表情だけど機嫌が悪いとかじゃないし、むしろよく頭を撫でてくれる。静かでとても居心地のいい。ミレーお姉様とは違ったおっとりした人だ。
 
「調香を手伝ってほしいって?」
「お母さまにプレゼントしたくて」
「ああ、誕生日の。この前ガルバと行ったやつでしょ。何本ぐらいあるの」
「こんだけ……」
 
 手提げから花を取り出すと考えるような仕草をして、まあ大丈夫でしょと言った。持って帰った花は枯れないようにニルケお兄さま特製の冷蔵庫に保存してあったから採れたてのように花びらにハリがあって生命力に溢れている。
 二人でニルケお兄さまの部屋近くの小さな扉を潜るとそこはお兄さま専用の調香室だ。
 大きめの机にはたくさんの器具が置かれていて戸棚の中にはガラス瓶がたくさん並んでおり乾燥した花や草、調香に向いているのかわからないトカゲの尻尾や魚の干物などが詰められている。
 花を機械にセットして私に説明しながら一緒に作業を進めていく。お兄さま一人でやれば短時間で終わる作業も私が加わるだけで結構な時間になる。
 
「精油を作るのに少し時間がかかるから」
 
 そういうと戸棚から瓶を取り出してお茶のセットを始める。精油ができるまで休憩にするみたいだ。
 隣接する温室にはお兄さまが厳選した花々が咲いていて、乾燥した茶葉も彼が作ったものだ。調香もそうだけどニルケお兄さまはシェドリー家の中で一番器用で細かな作業も難なく熟す。何をやらせても出来てしまうのでいつもリューお兄さまがぷりぷりしているのだ。でも当人はあまり気にしていないみたい。
 目の前に出されたガラスのポッドには色々な種類の花が蕾のように糸で纏められたものが入っている。そこへお兄さまがお湯を静かに注ぐとポッドの中の蕾が綺麗に花開いた。工芸茶だ。
 
「何度見ても神秘的だわ……」
「前回は失敗したけど今回は味も美味しいと思うよ」
「おいしかったよ?」
「いや、ミオの眉間に皺が寄ってた」
「……そうかなあ……」
 
 一瞬目が泳ぐとお兄さまの目元が優しく細められる。
 この家にある茶葉はお兄さまのお手製のものだ。たまに街で買ったりすることもあるけど、それらをブレンドしてくれるのもお兄さまだし、市販で買うものより断然美味しいのだから正直買う必要はないと思う。
 それでも工芸茶は違うらしく見た目は鮮やかで好きなんだけど味が好みではないので品種改良中らしい。探究心がすごい。
 そもそもお兄さまの趣味は読んだ本が影響しているようなのでこれからも色々な趣味が増えそうだ。

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