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エンディング

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「あの子から父親を奪ったんですから、、、
実際に殺したのは私のパートナーですが、命令に従っただけです」。


ビギローは続けた。

「わたしもパートナーも、
   兵士として訓練されていますから命令は、
   
    正義と信じています。
   
    ですが、同時に命令には責任が伴います。

    兵士に何かを命じるということは
    人命がかかってくるということです。
    
    情報にミスがあると、
    その尻拭いをするのは、
    
    デスクワーク担当者ではなく、 
    我々なんです!」。




レッドマンはビギローの批判を

黙って聞き流すと、言った。


「まだ、分析作業に取り組んで、日の浅い、新人だった。とやかく、辛辣な台詞を受けても、私の立場では謝るしかないんだ」。

レッドマン工作担当は、視線を地に落とし、ひたすら沈痛な表情を、していた。


その様子をみて、ビギローの方も
自分がこれ以上、苦情を申し立てて
も無駄と思い、

また、先ほどの言動が行き過ぎたというのにも気付いた。


「私も出過ぎた事を言いました。
   お詫びします」。

ビギローはそう言って、謝罪した。


この、特殊部隊員と情報機関員の二人が衝突するのを若いベイカーはただ、見守り、沈黙することで対応していた。

まだ、未熟な自分が出る幕ではなく、

余計な口出しは、慎むべきと思っていたからだ。


しかし、常に冷静で不平不満

を嫌うビギローがあれほど声を荒げて、
人のミスに

苦情を出すのを、ベイカーは
めったに、見た事がなかった。


似たようなケースを以前、
目撃したのは、

プライベートでベイカーが

ビギローの自宅に行き、

クリスマスのパーティーを楽しんでいた時だ。


ビギローは当時、たまたまテレビをつけ、


夜のニュース番組を見ていたが、
映像に流れた、ネイビーフォースの

夜間訓練中の、事故を報じた、マスコミのやり方に怒りをあらわにした。


事故ではネイビーフォースの訓練生が二人、
ヘリコプターからの降下中に、足を踏み外して

骨折し、医療処置を受けた、というものだった。


当時、テレビのレポーターは、海軍の訓練プログラムに安全性がまるでなく、

訓練教官は人命を軽んじているなどと、公然と、軽蔑する、コメントをしたのである。


コメントを耳にしたビギローは

テレビのリモコンを固く握り締め、
唇のあたりを、小刻みに震わせていた。


ビギローは若い頃から、マスコミのことが嫌いだった。マスコミだけでなく、

軍の任務を、軽視して、馬鹿にする、人間全般が嫌いだった。


ビギローにとって、自分の仕事と思え、

プロとしての誇りを与えてくれる、

ネイビーフォースの義務を、低く、見られるのは、我慢ならないことだった。


だからこそ彼は、

レッドマンに食ってかかったのである。

少し、押し黙っていた、レッドマンは
口を開いた。

「ベイカー少尉、ビギロー中尉、君たちは
在ウラグスタンのアメリカ軍施設に行って、
詳しい結果報告をしてくれ。私も大使館に戻る。とにかく、二人とも、よくやってくれた」。


そう、言い残し、CDIA工作担当官は、

特殊部隊員、二人の前から立ち去った。


ビギローは、チラッと
フセイニの娘を目でとらえた。


その姿が自分の娘たちに重なり、握る拳の震えを抑えられなかった。


彼は、静かに内心で、自分に言い聞かせた。

(これから、ずっと苦しむぞ、スコット、、
自分の罪に、、、そして どんなに、贖っても、この罪は消えないんだ)。




そしてビギローはベイカーの肩に手を置き、

重い口を開いた。


「いいか、ジョナサン、お前が、
心を痛めることはない、すまない、イヤな光景を見せちまって、、、
 
俺たちの任務はこういうものなんだ。

好きになれとはいわんが、胃のムカつきを覚える状況は今後も続くだろう。

この世界がクソみたいなものである限りは、、」


ベイカーは答えた。

「俺は大丈夫です。中尉も無理しないでください。まだ、教えてほしい
事がありますからね、このクソ仕事の事を、、、」。


ビギローは微笑を表情に出して、言った。


「ありがとう、今日のお前は、上出来だった。
   勤務外の時にビールを一杯、おごるよ。
   さあ行くぞ」。


二人は、邸宅の外に

用意されていた、特殊作戦用の多目的型ヘリコプターの方へ進み出て、そのヘリで

アメリカ軍施設へと、向かった。








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