6 / 10
魔法使いと役目
老人の話[2]
しおりを挟む
「自分に呪いを…ですか。」
何を考えているのだろうこの人は一体。
そもそもそんなおかしな依頼。素直に引き受けてくれるとでも思っているのか。
「この店は、人間の恨みや憎しみをはらさせてくれるのでしょう。手段がたとえ血生臭いことでも、私にはあなたに頼るしか他に方法がないのです。それ相応の代償もきちんと払いますから。」
アデレードは、話をするように言った。
そんな風に言われては、そのまま帰らせるわけにもいかなかったからだ。
ーーーー ーーーー
ルバート・ハルモンディーナは、そこそこお金持ちの所に生まれた普通の子だった。
父も母も普通に優しくしっかりしていて、何不自由のない生活をおくっていた。
友達にも恵まれ、ルバート自信の生活も輝いていた。そのはずだ。それなのに
ルバートは何も感じたことがなかった。
五感のことではなく、心が何も感じないのだ。
嬉しいだとか悲しいだとか。そう感じるであろう場面に出くわしても、何も感じないのだ。
小さい頃は変だと思われていたが、大人になるにつれいろいろと理解できるようになると、心では感じなくても態度に上手く出し、こういう時には笑うべきだ。だとか、こういう時には悲しむべきだと、表情を上手くコントロールして良い関係を作ってきていた。とはいえ、ルバートの心が動く事はなかった。恋人ができ、好きだと言われても、好きだと口で返すだけであった。
ーーーー ーーーー
「おかしいでしょう。」
そこまで一気に話すと、ルバートは薄く笑った。
「そのような事だけならまだ良かったのですが…。人は針に指を刺すと痛みを感じるでしょう?そして痛みを感じると怖さも感じ、もう一度針を刺そうなどと思わないはずです。しかし私にはそれがないのです。痛みはかんじても、それが怖いとは思わないわけですから、また針を刺してしまう…。」
外の雨音が少し強くなってきた。
「実は私は重い病気で、医者から余命も宣告されるほどなんです。ええと…確か…そう、後、
2ヶ月ほどと…。」
「え」
予想外の言葉に思わず声が漏れる。
「ははっそういう反応をするのが普通なのでしょう。ですが、私は、死が近づいているのに何も感じないのです。こういう時は、怖いのですよね?ああ…本当に何もかんじないなぁ。」
「まさか…あなたは…。」
「魔法使いさん。私に恐怖と苦しみを与える呪いをかけてください。何も感じない私なんて、生きていないのと同じです。だからせめて、今から死ぬまでは生きたいのです。」
この人はの言っていることは無茶苦茶だ…
死ぬのは誰だって怖いはず。でも、その怖さを感じずに死ねるのなら、それは良いことなのではないのか。何故自分から感じようとするのか。
「お願いします魔法使いさん。」
必死に表情を作って頼んでいるのが分かる。
アデレードは、ルバートの目を真っ直ぐに見る。
「今まで何も感じなかったあなたには、とても刺激が強いと思いますが…。」
「それでも、お願いします。」
こんな呪いは、きっとどんな呪いよりも強力なものなのではないのか…。
それなら…。
「この薬を飲めば、あなたのおっしゃった呪いがかかります。」
「本当にありがとうございます魔法使いさん。それで…私はなにを支払えば…。」
「お題は結構です。この薬には、私の個人的な感情が入ってますので。」
ルバートは一瞬首をかしげたが、すぐに笑顔をつくり頭をさげる。そして
薬を飲み干した。
「…あぁ…何だか凄く…怖いですね…。」
ルバートの体が震えている。震える体を抱く。
「これが…怖い。ということなんですね。自分から望んだことなのに、何故かすごく嫌な感じですね…。」
声が震えている。アデレードは、はっとしてルバートの表情を見つめた。
ルバートは泣いている。それなのに口元は緩んでいて、よく分からない表情をしていた。
「まだ妻は元気なんです…あぁ…もっと生きたい…死にたくない…私は…私は…とても怖い…それなのに、今まで本当に幸せな日々だったなと…今になって思うんです…。」
羨ましい、と思った。薬一つでこんなに色んな思いが溢れるなんて。私は…
「魔法使いさん…本当にありがとう。私は今最高に幸せです。しっかりと生きていられる…。」
外の雨はいつしか上がっていた。
暖かな夕焼けが窓から差し込む。
「あぁ…そうそう魔法使いさん。」
店の扉を開け、アデレードの方に向き直ると、優しい笑顔でアデレードを包み込んだ。
「あなたは、とても心が綺麗で、そしてかわいらしい魔法使いですね。」
ルバートはそういうと、夕焼けの中に消えていった。
胸が暖かい。自分のしたことは間違ってはいなかったのだと感じ、少しの心地よさに口元が緩んでいた。
「まさか、全ての感情を与えるなんてね。」
「ユリス…。」
「驚いたよ。しかも何も払わせずに帰らせるなんて。君の母はそんなこと絶対にしないだろうに。」
客が去った後の扉を見つめながらふっと空気をすう。
「私…なんでだろ…幸せが心地い…。悪い魔法使いなのにね…。」
「アデレードは優しいよね…だから今まで、
直接人を殺したことがないんだよね。」
日が沈み、月の光のみが部屋を照らす。
アデレードの目が赤く光った。
何を考えているのだろうこの人は一体。
そもそもそんなおかしな依頼。素直に引き受けてくれるとでも思っているのか。
「この店は、人間の恨みや憎しみをはらさせてくれるのでしょう。手段がたとえ血生臭いことでも、私にはあなたに頼るしか他に方法がないのです。それ相応の代償もきちんと払いますから。」
アデレードは、話をするように言った。
そんな風に言われては、そのまま帰らせるわけにもいかなかったからだ。
ーーーー ーーーー
ルバート・ハルモンディーナは、そこそこお金持ちの所に生まれた普通の子だった。
父も母も普通に優しくしっかりしていて、何不自由のない生活をおくっていた。
友達にも恵まれ、ルバート自信の生活も輝いていた。そのはずだ。それなのに
ルバートは何も感じたことがなかった。
五感のことではなく、心が何も感じないのだ。
嬉しいだとか悲しいだとか。そう感じるであろう場面に出くわしても、何も感じないのだ。
小さい頃は変だと思われていたが、大人になるにつれいろいろと理解できるようになると、心では感じなくても態度に上手く出し、こういう時には笑うべきだ。だとか、こういう時には悲しむべきだと、表情を上手くコントロールして良い関係を作ってきていた。とはいえ、ルバートの心が動く事はなかった。恋人ができ、好きだと言われても、好きだと口で返すだけであった。
ーーーー ーーーー
「おかしいでしょう。」
そこまで一気に話すと、ルバートは薄く笑った。
「そのような事だけならまだ良かったのですが…。人は針に指を刺すと痛みを感じるでしょう?そして痛みを感じると怖さも感じ、もう一度針を刺そうなどと思わないはずです。しかし私にはそれがないのです。痛みはかんじても、それが怖いとは思わないわけですから、また針を刺してしまう…。」
外の雨音が少し強くなってきた。
「実は私は重い病気で、医者から余命も宣告されるほどなんです。ええと…確か…そう、後、
2ヶ月ほどと…。」
「え」
予想外の言葉に思わず声が漏れる。
「ははっそういう反応をするのが普通なのでしょう。ですが、私は、死が近づいているのに何も感じないのです。こういう時は、怖いのですよね?ああ…本当に何もかんじないなぁ。」
「まさか…あなたは…。」
「魔法使いさん。私に恐怖と苦しみを与える呪いをかけてください。何も感じない私なんて、生きていないのと同じです。だからせめて、今から死ぬまでは生きたいのです。」
この人はの言っていることは無茶苦茶だ…
死ぬのは誰だって怖いはず。でも、その怖さを感じずに死ねるのなら、それは良いことなのではないのか。何故自分から感じようとするのか。
「お願いします魔法使いさん。」
必死に表情を作って頼んでいるのが分かる。
アデレードは、ルバートの目を真っ直ぐに見る。
「今まで何も感じなかったあなたには、とても刺激が強いと思いますが…。」
「それでも、お願いします。」
こんな呪いは、きっとどんな呪いよりも強力なものなのではないのか…。
それなら…。
「この薬を飲めば、あなたのおっしゃった呪いがかかります。」
「本当にありがとうございます魔法使いさん。それで…私はなにを支払えば…。」
「お題は結構です。この薬には、私の個人的な感情が入ってますので。」
ルバートは一瞬首をかしげたが、すぐに笑顔をつくり頭をさげる。そして
薬を飲み干した。
「…あぁ…何だか凄く…怖いですね…。」
ルバートの体が震えている。震える体を抱く。
「これが…怖い。ということなんですね。自分から望んだことなのに、何故かすごく嫌な感じですね…。」
声が震えている。アデレードは、はっとしてルバートの表情を見つめた。
ルバートは泣いている。それなのに口元は緩んでいて、よく分からない表情をしていた。
「まだ妻は元気なんです…あぁ…もっと生きたい…死にたくない…私は…私は…とても怖い…それなのに、今まで本当に幸せな日々だったなと…今になって思うんです…。」
羨ましい、と思った。薬一つでこんなに色んな思いが溢れるなんて。私は…
「魔法使いさん…本当にありがとう。私は今最高に幸せです。しっかりと生きていられる…。」
外の雨はいつしか上がっていた。
暖かな夕焼けが窓から差し込む。
「あぁ…そうそう魔法使いさん。」
店の扉を開け、アデレードの方に向き直ると、優しい笑顔でアデレードを包み込んだ。
「あなたは、とても心が綺麗で、そしてかわいらしい魔法使いですね。」
ルバートはそういうと、夕焼けの中に消えていった。
胸が暖かい。自分のしたことは間違ってはいなかったのだと感じ、少しの心地よさに口元が緩んでいた。
「まさか、全ての感情を与えるなんてね。」
「ユリス…。」
「驚いたよ。しかも何も払わせずに帰らせるなんて。君の母はそんなこと絶対にしないだろうに。」
客が去った後の扉を見つめながらふっと空気をすう。
「私…なんでだろ…幸せが心地い…。悪い魔法使いなのにね…。」
「アデレードは優しいよね…だから今まで、
直接人を殺したことがないんだよね。」
日が沈み、月の光のみが部屋を照らす。
アデレードの目が赤く光った。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた
しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。
すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。
早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。
この案に王太子の返事は?
王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる