私は悪い魔法使いだ

木の実

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魔法使いと役目

老人の話[2]

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「自分に呪いを…ですか。」

何を考えているのだろうこの人は一体。
そもそもそんなおかしな依頼。素直に引き受けてくれるとでも思っているのか。

「この店は、人間の恨みや憎しみをはらさせてくれるのでしょう。手段がたとえ血生臭いことでも、私にはあなたに頼るしか他に方法がないのです。それ相応の代償もきちんと払いますから。」


アデレードは、話をするように言った。
そんな風に言われては、そのまま帰らせるわけにもいかなかったからだ。


ーーーー     ーーーー


ルバート・ハルモンディーナは、そこそこお金持ちの所に生まれた普通の子だった。
父も母も普通に優しくしっかりしていて、何不自由のない生活をおくっていた。
友達にも恵まれ、ルバート自信の生活も輝いていた。そのはずだ。それなのに

ルバートは何も感じたことがなかった。
五感のことではなく、心が何も感じないのだ。
嬉しいだとか悲しいだとか。そう感じるであろう場面に出くわしても、何も感じないのだ。
小さい頃は変だと思われていたが、大人になるにつれいろいろと理解できるようになると、心では感じなくても態度に上手く出し、こういう時には笑うべきだ。だとか、こういう時には悲しむべきだと、表情を上手くコントロールして良い関係を作ってきていた。とはいえ、ルバートの心が動く事はなかった。恋人ができ、好きだと言われても、好きだと口で返すだけであった。


ーーーー    ーーーー



「おかしいでしょう。」

そこまで一気に話すと、ルバートは薄く笑った。


「そのような事だけならまだ良かったのですが…。人は針に指を刺すと痛みを感じるでしょう?そして痛みを感じると怖さも感じ、もう一度針を刺そうなどと思わないはずです。しかし私にはそれがないのです。痛みはかんじても、それが怖いとは思わないわけですから、また針を刺してしまう…。」

外の雨音が少し強くなってきた。


「実は私は重い病気で、医者から余命も宣告されるほどなんです。ええと…確か…そう、後、
2ヶ月ほどと…。」

「え」

予想外の言葉に思わず声が漏れる。


「ははっそういう反応をするのが普通なのでしょう。ですが、私は、死が近づいているのに何も感じないのです。こういう時は、怖いのですよね?ああ…本当に何もかんじないなぁ。」


「まさか…あなたは…。」


「魔法使いさん。私に恐怖と苦しみを与える呪いをかけてください。何も感じない私なんて、生きていないのと同じです。だからせめて、今から死ぬまでは生きたいのです。」


この人はの言っていることは無茶苦茶だ…

死ぬのは誰だって怖いはず。でも、その怖さを感じずに死ねるのなら、それは良いことなのではないのか。何故自分から感じようとするのか。


「お願いします魔法使いさん。」

必死に表情を作って頼んでいるのが分かる。

アデレードは、ルバートの目を真っ直ぐに見る。

「今まで何も感じなかったあなたには、とても刺激が強いと思いますが…。」


「それでも、お願いします。」



こんな呪いは、きっとどんな呪いよりも強力なものなのではないのか…。
それなら…。





「この薬を飲めば、あなたのおっしゃった呪いがかかります。」


「本当にありがとうございます魔法使いさん。それで…私はなにを支払えば…。」


「お題は結構です。この薬には、私の個人的な感情が入ってますので。」


ルバートは一瞬首をかしげたが、すぐに笑顔をつくり頭をさげる。そして


薬を飲み干した。




「…あぁ…何だか凄く…怖いですね…。」


ルバートの体が震えている。震える体を抱く。

「これが…怖い。ということなんですね。自分から望んだことなのに、何故かすごく嫌な感じですね…。」


声が震えている。アデレードは、はっとしてルバートの表情を見つめた。

ルバートは泣いている。それなのに口元は緩んでいて、よく分からない表情をしていた。


「まだ妻は元気なんです…あぁ…もっと生きたい…死にたくない…私は…私は…とても怖い…それなのに、今まで本当に幸せな日々だったなと…今になって思うんです…。」


羨ましい、と思った。薬一つでこんなに色んな思いが溢れるなんて。私は…


「魔法使いさん…本当にありがとう。私は今最高に幸せです。しっかりと生きていられる…。」



外の雨はいつしか上がっていた。
暖かな夕焼けが窓から差し込む。


「あぁ…そうそう魔法使いさん。」


店の扉を開け、アデレードの方に向き直ると、優しい笑顔でアデレードを包み込んだ。


「あなたは、とても心が綺麗で、そしてかわいらしい魔法使いですね。」


ルバートはそういうと、夕焼けの中に消えていった。


胸が暖かい。自分のしたことは間違ってはいなかったのだと感じ、少しの心地よさに口元が緩んでいた。


「まさか、全ての感情を与えるなんてね。」


「ユリス…。」


「驚いたよ。しかも何も払わせずに帰らせるなんて。君の母はそんなこと絶対にしないだろうに。」


客が去った後の扉を見つめながらふっと空気をすう。

「私…なんでだろ…幸せが心地い…。悪い魔法使いなのにね…。」


「アデレードは優しいよね…だから今まで、
直接人を殺したことがないんだよね。」


日が沈み、月の光のみが部屋を照らす。
アデレードの目が赤く光った。
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