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4.入学そうそう
しおりを挟むーー秋晴れのある日
とうとう入学する日がやってきた。流石の俺もこの先の皆目見当もつかない生活に心細くて悲しくなった。
「リュ!元気でねー!」
「偉くなってこいよー!」
「ばんざーいばんざーい!」
村のあちこちから俺を見送りに来た人たちの歓声があがる。その声すらも悲しかった。特に妹マリアの寂しげな
「お兄ちゃん行っちゃうの?いつ帰ってくるの?」
にノックアウトされた。もう学園なんて行きたくないが逃げ場は無い…学園の門まで父ちゃんが送ってくれたので、別れを惜しんでいたら小さい声でこう囁かれた。
「ダメだったらケツまくって帰ってこい。誰にも文句は言わせねえから任せとけ。あと、連絡は手紙より『アレ』の方が早いから上手い事使え、分かったな」
「『アレ』ねー。了解」
そうかやめて帰ってもいいんだ。でも入学するって言ってしまったからには一度は入ってみなきゃ悪いよな。と言うかそのくらいの気持ちでいいのか。少し気が楽になった。せっかくの機会なんだから楽しんで行こう。
「じゃあ頑張らずに行ってくるよ」
「あ、言い忘れてた!」
おっ、いい言葉で締めるのかな?と思っていると
「再来週デッカい木の伐採があるから手伝いに帰ってこい!」
「えぇ?そんな簡単に帰れるの?」
「ちゃんと先生に聞いたぞ。授業が休みの日なら届出出せば帰れるってさ。忘れるなよ、再来週だからな!」
なんかしんみりしたのがバカバカしくなって、ある意味晴れ晴れとした気持ちで俺は学園の門をくぐった。これから新しい生活の始まりだ!
新入生たちは入り口近くの部屋で制服に着替える。これからは着る物も学用品も日用品も学校支給になる。身分や貧富の差をわからない様にするための措置らしい。持ち込めるのはどうしてもという物のみで、それも許可制。勿論身分がバレないよう『家名を名乗るのも禁止』という徹底ぶり。その上学費は無料(お小遣い付き)…人材を集めるのに命かけてるくらいの意気込みのように感じるが、そうでもしないと国って停滞するんだろうなぁ。きっと。
緊張感の中式典は終了し新入生は教室に移動した。
…すると忘れかけていたあの声が聞こえてきた。
「君!やはり受かっていたんだね!我が友よ」
勝手に友人にされているがまあいいか。
『布袋くん』改め…
「名前何だっけ?」
「さっき自己紹介したろう?ルドルフ=ア…いや、ルドルフだ!よろしく」
やっぱり家名があるんだな。あと今日は布袋じゃなくて仮面なんだ。へー仮面って持ち込めるんだ。
「許可は取った。顔を隠しておかないと困った事になるからな。あと試験の時は暑かったから通気性の良い布にしたんだ。仮面だと汗で蒸れて大変だから」
「隠さなきゃいけないのも苦労するんだなあ。でもなんで?宗教上とかなんか理由があるの?聞かない方がいいならもう二度と突っ込まないけど」
全くそこに触れないのもおかしなモンだと思うので…同級生たち皆聞かないけど気にならないのか?それとも俺が無神経?
「まぁ知ってる人は知ってるからね。でも君にはきちんと説明しておきたいのであとで寮でじっくりと話したいと思ってる。協力もお願いしたいし」
協力って何だ?入学そうそう面倒な奴と友達になったようだ。
今日は学園の施設案内と先生の紹介、教科書配布で1日終了。大した事していないのにとても疲れた。とにかく人が多いのが原因だ。いや、同じクラスの学生自体は20人くらいしかいないのだが、他学年の学生や教科ごとの先生やら警備の人やらがいて、食事時の食堂なんかは超混雑している。村にいた時がもう懐かしい…グッタリと寮の部屋のベッドでごろ寝しているとノックの音がした。
「ルドルフだ。今大丈夫か?」
意外だ。あの押し付けがましいと言うか思い込みが激しい性格から、ノックなぞせずに
『リュ!いるか!』と言うと同時にドアをスパーンと開けそうな気がしてたんだが、やはり育ちがいいヤツは違うな。
「どーぞ。勝手に開けて入ってくれ」
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