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51.表舞台の大人たち 番外編①
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「兄さん!…」
森の木々の合間から懐かしくそして見慣れた姿がちらりと見えた瞬間大声で私は叫んでいた。今考えるととても恥ずかしい。
ルドルフ君を助けにきてくれたのは兄が団長をしている騎士団だった。苦もなく誘拐犯を捕まえた兄は学生に怪我がないか確認し、的確に部下に指示を出している。その背中を見ると私は昔を思い出す。
剣の修行も身体を鍛える事もどうにも生理的に合わなくて、隠れて本を読みふけっていた私は親に見つかり罵声を浴びていた。叱責ではなく罵声、子どもだった私に逃げ場はない。震えながらその声を聞いていると影がさし
「この家に勉強や本が好きな奴がいてもいいではありませんか!」
兄だった。私を背に隠して親たちに言い返しているのだ。剣の才能があり、次期当主として期待の星の兄が私を庇ってくれた。その背中は私にとって大きく、そして安心出来る場所に思えた。
月日は過ぎて今私は教師となったが、学生たちにとって私はそのような背中をしているだろうか?日々自問自答しているが答えは出ていない。
「オットー!今度休みに屋敷に遊びに来いよ!父上もあの頃より静かになったぞ」
兄が笑顔で私に手を振っている。
私も笑顔で手を振り返した。
ーーー
「はじまりの村か~」
久しぶりに身体強化の魔法が使えるかも?という学生がきた。その学生の出身地を聞いて私は我が家に語られている古い話を思い出していた。
エルフの魔法を調査する為ラディさんは調査隊を結成し、建国の森に向かった。あの森は昔エルフが住んでいた場所で今尚エルフの魔力が残っていると言われているので調査の対象となったのだ。
建国の森の手前にははじまりの村があり、そこに滞在して調査を開始。その調査隊には私の曽祖父(もっと上の代かも?)が入っており、彼は『森を守っている村』自体にも興味があったようで空き時間を見つけては村人とおしゃべりしたり、子どもたちと遊んだりして、交流を深めた。こうして信頼を得てから聞き取りをするのが彼の調査方法だった。
するとおかしな事に気がついた。子供たちが動物と遊んでいるのだが、飼っている動物ではなくて、野性のだ…その様子は動物と意思疎通ができているようにしか見えなかった。
『エルフの祝福』
その言葉が頭をよぎった。昔エルフは自分たちが持っている力を気に入った人間に授けてくれる事があった、それを『エルフの祝福』というのだ。エルフは動物と意思疎通ができたと言われている。ひょっとしてこの村の人も…?とは思ったが『もう少し信頼関係ができてから』と先延ばしにしていた。
そんなある日村人たちが調査隊を歓迎する為の宴会を開いてくれた。盛り上がる宴会、そんな時
「そんな嘘つくなんて!お前もこの村も嘘つきか?」
能力は高いが酒癖が悪い隊員の声だった。どうやら何かを言った村人を嘘つき呼ばわりしているらしい。運の悪い事にその声は宴会にいる人全てに届いてしまったようだ。
しんと静まる宴会。何とかしようと他の隊員が言葉を探していると
「嘘つきとな?村を侮辱するなら出ておいき!皆宴会は終了だよ!」
村で占いと薬草栽培をしているお婆さんが立ち上がって、そう一声あげると、村人も皆立ち上がり片付けを始め、そしてさっさとそれぞれの家に戻っていった。残されたのはあっけにとられた調査隊のメンバーだけだった。
その夜、調査隊の皆は、これからどうするかを話し合った。(こんな状況を作ってしまった隊員は酔いが覚め、自分がしでかした事の大きさに気づき隅の方で小さくなっている)村の協力なしに調査を続ける事は難しい。隊員内でも謝るのは大前提として、その後そのまま調査を続けるべきかどうかで意見が割れる。
「ちょっといいかい?」
外から声がして村1番の大男がぬっと現れた。すわ、殴り込みか?と身構えたがそうではないようだ。
「あんたら夜が明けたらすぐに村を出た方がいい」と穏やかに諭すように言った。
「ひょっとして村人から暴力的な行為でも?」
それを聞いた大男は苦笑いして
「そんなおっかない奴はこの村にはいないよ。あんたらが怒らせたのは森だよ」
「森?」
大男が言うには、この森には意思があり、村には森が気に入っている者しか住めないようになっている。そのお気に入りを侮辱したのだから森が怒っているのだと。
「森を怒らせるとどうなるのですか?」
「さぁ、命まではとられないはずだけど、どうなるかまでは…少なくともあんたたちの身に大変な事が起こるのは間違いないよ。あの森の別名知ってるだろ?『迷いの森』だ。何が起きてもおかしくないんだよ。悪いことは言わない、一旦帰りな」
そういうと大男は家に帰って行った。
翌朝調査を断念した調査隊は王都へ帰った。
そして別の日、建国の森で集めた植物などの色々なサンプルを分析しようと取り出すと
「えっ、そんなバカな…」
集まった彼らの目の前でサンプルの中身がすーっと消えていく。砂の一粒も手元には残らなかった。
それ以来建国の森にもはじまりの村にも調査は入っていない。
『あのバカがいなければ動物と意思疎通ができるのか村人から聞くことができたのに…返す返すも心残りだ』曽祖父(?)が死ぬまで言っていた…とこの話は締め括られている。
誘拐事件の時リュ君が飛び込んできた鳥と話をしている(ようにしか見えない)のを見て、私は心中狂気乱舞した。これぞ曽祖父(?)の心残りを晴らす絶好の機会。この事件が無事終わったら、彼をとっ捕まえてあの事ーエルフの祝福ーを聞こう。もし断られても彼が卒業するまでまだ4年もある、逃しはしないぞ~とノラは決心したのだった。
森の木々の合間から懐かしくそして見慣れた姿がちらりと見えた瞬間大声で私は叫んでいた。今考えるととても恥ずかしい。
ルドルフ君を助けにきてくれたのは兄が団長をしている騎士団だった。苦もなく誘拐犯を捕まえた兄は学生に怪我がないか確認し、的確に部下に指示を出している。その背中を見ると私は昔を思い出す。
剣の修行も身体を鍛える事もどうにも生理的に合わなくて、隠れて本を読みふけっていた私は親に見つかり罵声を浴びていた。叱責ではなく罵声、子どもだった私に逃げ場はない。震えながらその声を聞いていると影がさし
「この家に勉強や本が好きな奴がいてもいいではありませんか!」
兄だった。私を背に隠して親たちに言い返しているのだ。剣の才能があり、次期当主として期待の星の兄が私を庇ってくれた。その背中は私にとって大きく、そして安心出来る場所に思えた。
月日は過ぎて今私は教師となったが、学生たちにとって私はそのような背中をしているだろうか?日々自問自答しているが答えは出ていない。
「オットー!今度休みに屋敷に遊びに来いよ!父上もあの頃より静かになったぞ」
兄が笑顔で私に手を振っている。
私も笑顔で手を振り返した。
ーーー
「はじまりの村か~」
久しぶりに身体強化の魔法が使えるかも?という学生がきた。その学生の出身地を聞いて私は我が家に語られている古い話を思い出していた。
エルフの魔法を調査する為ラディさんは調査隊を結成し、建国の森に向かった。あの森は昔エルフが住んでいた場所で今尚エルフの魔力が残っていると言われているので調査の対象となったのだ。
建国の森の手前にははじまりの村があり、そこに滞在して調査を開始。その調査隊には私の曽祖父(もっと上の代かも?)が入っており、彼は『森を守っている村』自体にも興味があったようで空き時間を見つけては村人とおしゃべりしたり、子どもたちと遊んだりして、交流を深めた。こうして信頼を得てから聞き取りをするのが彼の調査方法だった。
するとおかしな事に気がついた。子供たちが動物と遊んでいるのだが、飼っている動物ではなくて、野性のだ…その様子は動物と意思疎通ができているようにしか見えなかった。
『エルフの祝福』
その言葉が頭をよぎった。昔エルフは自分たちが持っている力を気に入った人間に授けてくれる事があった、それを『エルフの祝福』というのだ。エルフは動物と意思疎通ができたと言われている。ひょっとしてこの村の人も…?とは思ったが『もう少し信頼関係ができてから』と先延ばしにしていた。
そんなある日村人たちが調査隊を歓迎する為の宴会を開いてくれた。盛り上がる宴会、そんな時
「そんな嘘つくなんて!お前もこの村も嘘つきか?」
能力は高いが酒癖が悪い隊員の声だった。どうやら何かを言った村人を嘘つき呼ばわりしているらしい。運の悪い事にその声は宴会にいる人全てに届いてしまったようだ。
しんと静まる宴会。何とかしようと他の隊員が言葉を探していると
「嘘つきとな?村を侮辱するなら出ておいき!皆宴会は終了だよ!」
村で占いと薬草栽培をしているお婆さんが立ち上がって、そう一声あげると、村人も皆立ち上がり片付けを始め、そしてさっさとそれぞれの家に戻っていった。残されたのはあっけにとられた調査隊のメンバーだけだった。
その夜、調査隊の皆は、これからどうするかを話し合った。(こんな状況を作ってしまった隊員は酔いが覚め、自分がしでかした事の大きさに気づき隅の方で小さくなっている)村の協力なしに調査を続ける事は難しい。隊員内でも謝るのは大前提として、その後そのまま調査を続けるべきかどうかで意見が割れる。
「ちょっといいかい?」
外から声がして村1番の大男がぬっと現れた。すわ、殴り込みか?と身構えたがそうではないようだ。
「あんたら夜が明けたらすぐに村を出た方がいい」と穏やかに諭すように言った。
「ひょっとして村人から暴力的な行為でも?」
それを聞いた大男は苦笑いして
「そんなおっかない奴はこの村にはいないよ。あんたらが怒らせたのは森だよ」
「森?」
大男が言うには、この森には意思があり、村には森が気に入っている者しか住めないようになっている。そのお気に入りを侮辱したのだから森が怒っているのだと。
「森を怒らせるとどうなるのですか?」
「さぁ、命まではとられないはずだけど、どうなるかまでは…少なくともあんたたちの身に大変な事が起こるのは間違いないよ。あの森の別名知ってるだろ?『迷いの森』だ。何が起きてもおかしくないんだよ。悪いことは言わない、一旦帰りな」
そういうと大男は家に帰って行った。
翌朝調査を断念した調査隊は王都へ帰った。
そして別の日、建国の森で集めた植物などの色々なサンプルを分析しようと取り出すと
「えっ、そんなバカな…」
集まった彼らの目の前でサンプルの中身がすーっと消えていく。砂の一粒も手元には残らなかった。
それ以来建国の森にもはじまりの村にも調査は入っていない。
『あのバカがいなければ動物と意思疎通ができるのか村人から聞くことができたのに…返す返すも心残りだ』曽祖父(?)が死ぬまで言っていた…とこの話は締め括られている。
誘拐事件の時リュ君が飛び込んできた鳥と話をしている(ようにしか見えない)のを見て、私は心中狂気乱舞した。これぞ曽祖父(?)の心残りを晴らす絶好の機会。この事件が無事終わったら、彼をとっ捕まえてあの事ーエルフの祝福ーを聞こう。もし断られても彼が卒業するまでまだ4年もある、逃しはしないぞ~とノラは決心したのだった。
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