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17 間話 猫 ②
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子猫の一件以来黒猫のアオは週一くらいのペースで我が家にオヤツを貰いにくる様になった。俺は手持ちのお小遣いを猫たちへの前払いで使ってしまっていたので
「どうやってアオのオヤツを買ったらいいのか」
と悩んでいたが…ふと台所の棚を見ると
アオの好きなオヤツ(赤いチューブ)が10本くらい整然と収まっているのを発見した。このきちんとしたしまい方はヤマモトさんだよな…何故アオの好みのオヤツがピンポイントで買い置きされているのか全くの謎だったが、そこは深く追求せず、ありがたくアオにあげることにした。
…本当にヤマモトさんって何者?
「…でさーかわいい子がいたから声かけたんだけどー鼻で笑われてさーどうやったらモテる様になるぅ?」
今日もアオはうちに現れてつまらない事をくっちゃべっている。というか、こいつがモテないのは当たり前だよ。猫の中でモテるのはボスみたいな『顔も身体も大きく立派な猫』だ。一方アオは…小さな顔、長くスラリとした足、スレンダーな身体…モテ要素が一つもない。人間相手ならモテモテなんだろうけど…そう言ってやったら
「ミイちゃんひっでぇー。そこまではっきり言わなくてもさぁ」
「オブラートに包んでも仕方ないしな。生まれ変わるくらいしか方法ないと思うよ」
俺の追撃をくらいガックリと項垂れるアオ。と何かを思い出したらしく
「生まれ変わるで思い出した!お前のうちにいるあのボサヒョロに頼んだら俺もミイちゃんみたいに人間になれる?」
ボサヒョロ…ショウの事か。
「なれるかもしれないけど…お勧めはしないよ。猫に生まれたんだから猫のままが1番いいよ。人間は面倒事が多すぎる。でもなんで人間になりたいの?」
するとアオは理由を話し始めた。
俺生まれてすぐ捨てられてその後ずっと野良猫してたんだけど、ある時他の猫と喧嘩して負けて逃げているうちにこの町に迷いこんだんだ。土地勘もないし怪我もしてるしで弱りきって公園の端っこでうずくまっていたら、急に人間にえり首掴まれてどこかへ運ばれた。
いくら弱っていたからって人間に素手で捕まるなんてもう俺もおしまいだな…って思っていたら、そのまま変な臭いのする場所に連れて行かれて体を色々触られ(後で知ったけどそこは動物病院だったらしい)、その後その人間…ジイサンの家でご飯をもらったんだ。それ以来ジイサンのうちに俺は厄介になってる。
「ちょっと待って!お前…飼い猫だったのか?それにしちゃあよく外にいるけど?」
「飼い猫だよ一応。ほら首輪もしてるだろ」
と見せてくれた…微妙な長毛の隙間から確かに首輪が見える…黒い首輪だから保護色で気が付かなかった。
「で、この間ジイサンが倒れたんだ」
「え?大丈夫だったの?」
「うん、たまたまジイサンの息子が遊びに来ている時だったんですぐ救急車を呼んで、2、3日入院はしたけど今は大丈夫。でもその時思ったんだ」
『俺しかいない時に倒れたら救急車どころか他の人間に助けも呼べないんじゃないか?』
まぁ…猫だしな。あ、まさか…
「そのまさかさ。人間になれば助けも呼べるし救急車も呼べる。なんならジイサン背負って病院に連れても行ける!って。ミイちゃんも人間になれてるし俺もなったらいいんじゃないかなーって。どう?いい考えだろう?だからボサヒョロに聞いてみてくれない?」
ジイサンに恩返しがしたいんだろうな…チャラくてそのくせチャッカリ者のアオだが意外にも義理堅いヤツなんだな…俺はアオの話を聞いてちょっとうるっときた。でも…アオは大事な事を忘れている。
「話はわかったけどやっぱり人間にはならない方がいいよ」
「なんでー?いいじゃん?」
「アオ、お前が人間になったらどこに住むんだ?猫は飼おうとすれば飼えるが、人間は『ここに住みたいです』『どーぞ』なんて簡単にいかないぞ。戸籍やら住民票やら…猫なら関係ない面倒な事が人間になって暮らすにはいくつもあるんだ。もしそれをクリアできても今度はお金の問題がある。人1人増えたら洋服代も食費もかなり増える。ジイサンはそんなお金だせるか?それとも自分の分は自分で稼ぐのか?…無理だろう?だからやめといた方がいい。ジイサンと暮らしたいなら尚更だよ」
俺の話をじっと聞いていたアオは深いため息をついた。
「そっか…人間になったらジイサンと一緒に住めなくなるかもしれないのか…よしやめた!俺はかわいい猫として生きる!じゃ帰るわ!」
とあっさり諦めて帰って行った…猫だもんな。
それはそれとしてそのジイサンの緊急時の手配はしておいた方がいいよな…なんかいい方法がないか後でヤマモトさんに聞いてみよう。
アオを見送った俺は家の中に戻り、ソファに腰掛け何となくテレビをつけた。ちょうどCMの様だ。
『アオキ製菓の人気商品!真っ黒黒のチョコレート!とっても美味しいチョコレート!是非店頭で!』
『アオ』キ製菓…
『真っ黒』…
そうか!だから黒猫なのに名前がアオなんだな!今度あいつに教えてあげよう。俺はジイサンのネーミングセンスに腹を抱えて笑った。
後日、ジイサンのうちに緊急時にボタン1つで警備会社に繋がるシステムが導入された。100パー大丈夫とは言えないがこれでアオの心配も少しは減るだろうと俺は思った。
「どうやってアオのオヤツを買ったらいいのか」
と悩んでいたが…ふと台所の棚を見ると
アオの好きなオヤツ(赤いチューブ)が10本くらい整然と収まっているのを発見した。このきちんとしたしまい方はヤマモトさんだよな…何故アオの好みのオヤツがピンポイントで買い置きされているのか全くの謎だったが、そこは深く追求せず、ありがたくアオにあげることにした。
…本当にヤマモトさんって何者?
「…でさーかわいい子がいたから声かけたんだけどー鼻で笑われてさーどうやったらモテる様になるぅ?」
今日もアオはうちに現れてつまらない事をくっちゃべっている。というか、こいつがモテないのは当たり前だよ。猫の中でモテるのはボスみたいな『顔も身体も大きく立派な猫』だ。一方アオは…小さな顔、長くスラリとした足、スレンダーな身体…モテ要素が一つもない。人間相手ならモテモテなんだろうけど…そう言ってやったら
「ミイちゃんひっでぇー。そこまではっきり言わなくてもさぁ」
「オブラートに包んでも仕方ないしな。生まれ変わるくらいしか方法ないと思うよ」
俺の追撃をくらいガックリと項垂れるアオ。と何かを思い出したらしく
「生まれ変わるで思い出した!お前のうちにいるあのボサヒョロに頼んだら俺もミイちゃんみたいに人間になれる?」
ボサヒョロ…ショウの事か。
「なれるかもしれないけど…お勧めはしないよ。猫に生まれたんだから猫のままが1番いいよ。人間は面倒事が多すぎる。でもなんで人間になりたいの?」
するとアオは理由を話し始めた。
俺生まれてすぐ捨てられてその後ずっと野良猫してたんだけど、ある時他の猫と喧嘩して負けて逃げているうちにこの町に迷いこんだんだ。土地勘もないし怪我もしてるしで弱りきって公園の端っこでうずくまっていたら、急に人間にえり首掴まれてどこかへ運ばれた。
いくら弱っていたからって人間に素手で捕まるなんてもう俺もおしまいだな…って思っていたら、そのまま変な臭いのする場所に連れて行かれて体を色々触られ(後で知ったけどそこは動物病院だったらしい)、その後その人間…ジイサンの家でご飯をもらったんだ。それ以来ジイサンのうちに俺は厄介になってる。
「ちょっと待って!お前…飼い猫だったのか?それにしちゃあよく外にいるけど?」
「飼い猫だよ一応。ほら首輪もしてるだろ」
と見せてくれた…微妙な長毛の隙間から確かに首輪が見える…黒い首輪だから保護色で気が付かなかった。
「で、この間ジイサンが倒れたんだ」
「え?大丈夫だったの?」
「うん、たまたまジイサンの息子が遊びに来ている時だったんですぐ救急車を呼んで、2、3日入院はしたけど今は大丈夫。でもその時思ったんだ」
『俺しかいない時に倒れたら救急車どころか他の人間に助けも呼べないんじゃないか?』
まぁ…猫だしな。あ、まさか…
「そのまさかさ。人間になれば助けも呼べるし救急車も呼べる。なんならジイサン背負って病院に連れても行ける!って。ミイちゃんも人間になれてるし俺もなったらいいんじゃないかなーって。どう?いい考えだろう?だからボサヒョロに聞いてみてくれない?」
ジイサンに恩返しがしたいんだろうな…チャラくてそのくせチャッカリ者のアオだが意外にも義理堅いヤツなんだな…俺はアオの話を聞いてちょっとうるっときた。でも…アオは大事な事を忘れている。
「話はわかったけどやっぱり人間にはならない方がいいよ」
「なんでー?いいじゃん?」
「アオ、お前が人間になったらどこに住むんだ?猫は飼おうとすれば飼えるが、人間は『ここに住みたいです』『どーぞ』なんて簡単にいかないぞ。戸籍やら住民票やら…猫なら関係ない面倒な事が人間になって暮らすにはいくつもあるんだ。もしそれをクリアできても今度はお金の問題がある。人1人増えたら洋服代も食費もかなり増える。ジイサンはそんなお金だせるか?それとも自分の分は自分で稼ぐのか?…無理だろう?だからやめといた方がいい。ジイサンと暮らしたいなら尚更だよ」
俺の話をじっと聞いていたアオは深いため息をついた。
「そっか…人間になったらジイサンと一緒に住めなくなるかもしれないのか…よしやめた!俺はかわいい猫として生きる!じゃ帰るわ!」
とあっさり諦めて帰って行った…猫だもんな。
それはそれとしてそのジイサンの緊急時の手配はしておいた方がいいよな…なんかいい方法がないか後でヤマモトさんに聞いてみよう。
アオを見送った俺は家の中に戻り、ソファに腰掛け何となくテレビをつけた。ちょうどCMの様だ。
『アオキ製菓の人気商品!真っ黒黒のチョコレート!とっても美味しいチョコレート!是非店頭で!』
『アオ』キ製菓…
『真っ黒』…
そうか!だから黒猫なのに名前がアオなんだな!今度あいつに教えてあげよう。俺はジイサンのネーミングセンスに腹を抱えて笑った。
後日、ジイサンのうちに緊急時にボタン1つで警備会社に繋がるシステムが導入された。100パー大丈夫とは言えないがこれでアオの心配も少しは減るだろうと俺は思った。
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