雪埋もれの国に名無し姫がやってきた

閑人

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12 舞踏会

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 舞踏会当日、王宮の出入り口にて、到着者を知らせる声が響いた。

 「チェスナー家三男クリス様、第五王女様ご夫妻が到着なされましたー」

 その声で舞踏会会場にいたほとんどの人の目がこちらに向いた。珍しいモノを見る目…興味深々の目…今まで人前に出たことのない第五王女様がこの舞踏会に出席するという情報は貴族内でかなり広がっていたようだ。

 「視線で殺されそうですね…」

 「見られても死にはせぬ、胸張っていけ」

 カトリーヌ様監修の私とお揃いに見えるドレスを着、大ぶりのネックレスをつけた彼女はいつも以上に美しく、そして堂々としていた。さすが王女様、場に飲まれたりはしないようだ。
 
 私たちが歩みを進めるとあちらこちらから

 『まあ、あのネックレス… カトリーヌ様の…』

 『銀髪が…』

 『ソフィア様…』

 と囁く声が聞こえてきた。どうやらフラーヌ様のこの銀髪はソフィア様譲りらしく、かなり注目されているが、カトリーヌ様のネックレスが不躾な人を寄せ付けないという効果を十二分に発揮しているようで、今のところ問題は起きていない。

 とうとう陛下と王妃様の御前に到着した私たちは揃ってお辞儀をした。

 「チェスナー家三男クリスとその妻でございます。この度はご招待に預かりまして身に余る光栄にございます。妻共々感謝の念に絶えません」

 よし、舌を噛まずに言えた!

 「面をあげよ」

 その言葉で揃って顔を上げると喜びで泣きそうな顔の陛下と不機嫌を隠さない王妃様が並んでいた。あまりの対比に笑いそうになったが何とか堪えた。

 「姫、元気にやってるか?父は寂しいぞ、たまに遊びにおいで」

 陛下は彼女に向かってデレデレの声で言い、すぐに私に向かって威厳のある声で

 「クリス殿、姫との急な結婚を受けてくれて感謝しておる。今後何かあれば私に相談してくれ、義理とはいえそなたとは親子になったのだからの」

 と言った。陛下のその言葉の間、王妃様はこちらを睨み続けていた。貴族は気に食わない相手であっても顔はなるべく笑顔を保つべきと母は教えてくれたが守らない人もいるのだなと私は心中呆れていた。人前でもあの表情なら裏では色々嫌がらせをしていても全くおかしくない…彼女のためにも今後は距離を置く事に決めた。

 陛下へのご挨拶も終わり私たちはカトリーヌ様のいる場所へ向かった。かなり離れた場所にいたが、向こうも気がついたらしく手をやんわりと振って呼び寄せてくれている。隣には緊張気味の母もいて、心配そうにこちらを見ていた。途中、私たちを引き止めるようとする人もいたが

 「カトリーヌ様がお呼びなので…」

 と言うと皆納得して離れて行く。… カトリーヌ様がいなければ、私たちは興味深々で物見高い方々にもみくちゃにされていただろう。助かったと思っていた矢先

 「そこの銀髪のお嬢様!探しましたぞ!」

 舞踏会の音楽を妨げるほどの大声がした。フラーヌ様の顔が強張る。これはひょっとして…

 振り返ると、そこにはいかにも王子然とした私よりやや年上の男性がいた。背が高く、美しい顔立ちがとても目立つ。

 「…きた、バカ王子だ」

 フラーヌ様の顔が不快感で一杯になっている。

 「やはり!カトリーヌ 様のところまで急ぎましょう」

 私たちは声に気づかぬふりをして早足でカトリーヌ様のところへ急いだ。が、向こうはマナー無視の全力疾走…すぐに追いつかれ

 「やっと捕まえました、お名前は?」

 とフラーヌ様の腕を掴んだ。どこをどうしたらそんな無作法ができるのか…私は王子と彼女の間に割って入った。

 「どなたか存じませんが、私の〝妻〟に不躾な事はおやめください」

 〝妻〟にアクセントを置いてそう言うと、王子は私と彼女をまじまじと見て、小声で『妻だと?釣り合わぬ』と言い、口の端に笑いを浮かべ

 「お前の妻かどうかはどうでも良い!私はハイラン王国第一王子のエヴァンスだ!私はこの女性を探していたのだ!邪魔をするな!」

 と言い放った。その様子を見て私は逆に冷静になった。…確かに彼女の言う通りあいつはバカだ、それも底抜けの。何と言えば通じるだろうか?

 「ハイラン王国では知りませんが、我が国のカルヴァイン王国では夫のいる女性には手出しをしないと言うのが〝決まり〟です。そしてここはカルヴァイン王国、ですのでこちらの〝決まり〟に従って下さい」

 王子の目をじっと睨みつけてそう私は言った。これで通じるかもとの期待を込めて。

 「うるさい!貴様は黙って寄越せば良いのだ!」

 通じなかったか残念だ…フラーヌ様を背に庇いつつ、私は次の言葉を探す。すると

 「エヴァンス殿下!私の姪に何をなさっているのですか?目に余る所業ですよ!」

 凛とした声が響いた。カトリーヌ様だ。

 「…姪?」

 まさか今気がついたのか…王宮の奥にいたお嬢様なのだ、王族またはそれに準ずる人であろうと想像できるはずなのに…。

 「私の姪は最近初恋を実らせて結婚したばかり。その邪魔はさせませんよ!」

 初恋?初耳の言葉が聞こえてきたが、今はそれどころではない。

 「いやいや、こんな男より私の方がいいでしょう?」

 まだ状況が飲み込めていないのか、王子は私を指差してそう言ってのけた。それを聞いたカトリーヌ様は片眉をぴくりとあげ

 「姪の夫となったからには私にとっても彼は親戚です。そして陛下にとっては義理の息子になります。その方を侮辱なさるとは… 随分と…」

 続けて顔の前の扇の下で小さく何か言ったようだ。後ろにいた母が吹き出しそうになっているところを見ると〝バカ〟かそれに類似する言葉を言ったのだろう。

 「…とにかく姪は渡しません。あぁ!そう言えば私アンジェリーナ様と文通をしておりますの。この事細大漏らさずお伝えしても宜しくて?」

 アンジェリーナと言う名前がでできた瞬間王子の動きが止まった。

 「あのバカの婚約者だ。あの国最大勢力のお家のお嬢様と聞いておる。その方に嫌われたら第一王子であってもひとたまりもなかろう」

 背中越しにこっそりフラーヌ様が教えてくれた。そんなお方がいるのに他国で女性漁り?真正のバカだ。

 やっと追いついたお付きの者が何も喋らなくなった王子を下がらせ、どこかへ連れて行った。そして何事もなかったかのように舞踏会は続けられた。

 「カトリーヌ様助かりました、ありがとございます。フラーヌ様…!」

 振り返ると、フラーヌ様がよろよろと崩れ落ちた。私は慌てて抱き止めて、

 「どこかで休みましょう…しかしどこがいいのか…控室か?」

 と私が困っていると様子を伺っていた年配の男性が声をかけてきた。

 「奥の宮に姫様のお部屋がまだございますよ、そちらに案内しましょうか?」

 「あぁアンドリュー様、それがよろしいですわ。是非案内をお願いします。あとで私も参りますので」

 どうやらこの年配の男性はカトリーヌ様の知り合いらしい。それならば安心だ。

 私はフラーヌ様を抱きかかえ、男性の後に続いて王宮内を走った。



 




 

 
 
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