雪埋もれの国に名無し姫がやってきた

閑人

文字の大きさ
15 / 45

15 水問題

しおりを挟む
 舞踏会が終わった次の日、我が家は新たな課題に取り組む事になった。それはー

 「泉だな、どのあたりに欲しいのかな?」

 朝から家族全員執務室に集合し、話し合いをしていた。目の前には領地の地図が広げられている。私はあくびを堪えながら(やる気がないわけではなくて本当にただ疲れているだけ)参加しているが…何故母もフラーヌ様もこんなにも元気なのだろう?と不思議でならない。

 「…こことここは必須ね」

 母が2カ所を指差した。私でも知っている水不足で有名な場所だった。

 「あとは…急いではいないけれど、この辺りの村にもう一つずつ泉があれば助かるわ」

 それまで地図を静かにみていたカールが母に助言した。

 「優先順位をきちんと決めた方が良いのでは?無尽蔵に作れるとも思えませんし…ちなみにフラーヌ様、泉を一つ作るのにどのくらい時間がかかるのですか?」

 「聞いてみよう…母上、いらっしゃるでしょう?声だけで良いので返答願います」

 すると彼女の声に応えて何かの気配が漂い、柔らかい女性の声がどこからか響いた。

 〝諾〟

 わかりにくいがオッケーのようだ。

 〝水源 近 小半時〟

 〝水源 遠 不可〟

 やはり水源が必須なのか…近い遠いがどのくらいの距離感なのかはわからないがそう判断した方がいいだろう。しかしソフィア様はこんな感じで陛下とも話しているのだろうか?分かりにくいことこの上ない。

 〝探 水源〟

 〝地図 写 許?〟

 「…あぁ、水源を探す為に地図の写しが欲しいのですね。では写しを作りましょう」

 〝白紙 我 写〟

 「ご自分で写すという事ですか?今、紙をお持ちしましょう、セシル…」

 さっとセシルが立ち上がり、地図と同じ大きさの白紙を持ってきた。我が家で1番紙を使うのは彼なので探すのも早い。

 持ってきたは良いがどこに渡して良いのやら戸惑っていると、彼の手から勝手にフワリと紙が浮かび上がって、地図の上にのり、白紙だった紙にじわじわと地図が浮かび上がった。

 そして、その地図の写しはもう一度空中に浮かび、急に6つに切れて消えた。

 〝友 頼 6〟

 「えー水源探しを6人のご友人に頼んだという事で合ってますか?」

 〝正〟

 〝待 1ヶ月〟

 1ヶ月待って欲しいという事だな。

 「では私たちはその間、泉を作っていただきたい場所の選定をいたしますので、水源調査のほうよろしくお願いいたします」

 母がそういうと気配がふっと消えた。

 「母上は帰ったようだな」

 「帰る?どこへですか?」

 「別宅じゃ。人の気配が残っていつつも誰もいないのが楽しいらしい」

 何だそれは?好みがよくわからない…私たちとは全く感覚が違うのだろう。

 「…では、私はどこに作っていただくかの調査をしましょう。まずは村々に今の水事情を聞き取ることから開始ね…忙しくなるわよ」
 
 そう言いつつ母の声は弾んでいる。水不足が解消できるチャンスに気合が入っているようだ。
 
 「そろそろ私たちはここで…」

 話が終わったとばかりに三兄弟とフラーヌ様が執務室を出ようとすると母に引き止められた。

 「…カール、セシル、お待ちなさい。あなたたちに良いお知らせがあるわ、ダンスも礼儀作法もせっかく練習したのに披露する場がなかったでしょう?今度カトリーヌ様のお屋敷でパーティーがあるから参加の返事をしておいたわ。そこで披露なさい」

 「「え?」」

 母は外向き用の満面の笑みを浮かべた。
 
 「いってらっしゃい」

 参加は決定済みらしい。私とフラーヌ様は免れたようだ。私は心の中で喜びの舞を踊った。

 しかしそこで諦める兄たちではない。

 「いえ、そんなパーティーに出席するような服もないですし…なあ、セシル」

 「そうですよね、カール」

 「それは多分大丈夫だ」

 「フラーヌ様、それはどういう?」

 「あ…」

 「どうしたクリス?」

 思い当たる節が私にはあった。
 
 あの舞踏会に出る際にフラーヌ様と一緒に私も服を新調したのだが、その時採寸をした仕立て屋さんと

 『ご兄弟がいらっしゃるのですよね?三つ子さんと聞いてますが、お顔とかそっくりなのですか?』

 『ええ、他人には区別できないくらい似てますよ』

 『それは珍しい…是非お会いしたいですねぇ…で身体付きも似てらっしゃる?』

 『皆で同じ服を着回せるくらい身体付きも似てますよ』

 という世間話をした記憶がある。

 「あの世間話って…」

 「そうだ、伯母上によってもう義兄様たちの服はクリスのサイズで注文済みだろう。服がないといって逃げられないようにな」
 
 「そんな…何故そこまでして?」

 フラーヌ様はカッカッカと豪快に笑った。

 「そりゃー見合いの為だ。2人とも婚約者がおらぬからの。パーティーで2人の人となりを確認したのち、別日に見合いをセッティング…うむ、伯母上の格好の餌食だな」

 餌食…なんて不穏な言葉。

 「「見合い?私まだ15歳なのだぞ?」」

 「…王国法で15歳なら結婚できる」

 「まあ、それは…そうなんだけど…」

 「もし、もう結婚したい相手がおるとか逆に結婚は一生したくないとかがあれば、直接伯母上に伝えれば良い。いくら見合いをセッティングするのが大好きでも、そんな事で機嫌を損ねるような狭量なお方ではないからの」

 「…なるほど。逆にこちらからお相手の条件を伝えてもよろしいのですね?」

 それを聞いてカールが急に乗り気になった。

 「カール!」

 「すまないセシル、私はここの後継なんだ。結婚は必須なのだから条件は良い方がいい。カトリーヌ様なら人脈も顔も広い。好条件の方を紹介していただけるかもしれん…今すぐ結婚するわけでもないが、お相手探しは早い方が良いだろう」

 彼は決意に満ちた表情になり、そうきっぱりと言った。一方セシルはつっかえながら

 「…私は…結婚はあまり考えていない。したくないではなくて考えていない…かな」

 「カール義兄様もセシル義兄様も伯母上にそれをきちんと伝えれば良い。ただもう義母様が2人の参加を決定してしまっておるので、今回のパーティーは行くしかないだろう…がんばれ」


 その数日後、我が家にカトリーヌ様からプレゼントが届いた。中身は3着の夜会服とフラーヌ様サイズの作業着数着だった。

 「…3着?」

 「それを着て、3人揃った姿をそのうち見せろという事だな」

 「…私は絶対行きませんからね。で、フラーヌ様には作業着ですか?」

 「…手紙がついておる。『ドレスやワンピースで庭仕事をやらない事!』…どうやら私が適当な格好で庭仕事をしてるのがバレているようだ。どこに情報源があるのかのう…恐ろしや」

 ーーそれは母だと彼女に教えようとすると背中に視線を感じた。振り返ると母が無言で私に圧をかけている。『教えるな』ということか…。

 少し心配症の母と女傑と言われているカトリーヌ様はどうやらあの舞踏会で仲良くなったらしい。馬が合いそうにない2人だと思ったが、世の中には思いもよらない事が起こるようだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。

佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。 結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。 アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。 アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。

【本編完結】契約結婚の後は冒険譚を綴ります

しろやなぎ
ファンタジー
本編完結しました。その後にあたる新章を始めます。 ++++++++++++++++++++++++ 幼い頃に母を亡くした伯爵令息のラファエル。父は仕事の為に外国へ。ひとり残されたラファエルは継母と義弟に虐げられながら育つ。 そんなラファエルはこの国の子供たちが受ける13歳の洗礼の際『魔力量は非常に豊富だが、一切の属性を持っていなかった残念な令息』と診断される。 ラファエルが18歳になった年、臣籍降下した王弟との婚姻を求める書状が届き、断れないまま嫁ぐが、そこで待っていたのは契約結婚だと説明する公爵、コルネリウスだった。 正義感の強い彼は、ラファエルがしていない罪を償わせようとする。一方のラファエルは契約結婚の後を夢みて、新たな生活を始める。 新しい生活では、ラファエルを献身的に使えてくれる侍女のノーラ、コルネリウスが付けた監視役のライアン、遠くからラファエルを気遣う魔道師団副団長のクリストフに支えられて、ラファエルは精霊魔法使いの冒険者を目指して成長していく。 ※表紙の画像はETMで作成しました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

お妃さま誕生物語

すみれ
ファンタジー
シーリアは公爵令嬢で王太子の婚約者だったが、婚約破棄をされる。それは、シーリアを見染めた商人リヒトール・マクレンジーが裏で糸をひくものだった。リヒトールはシーリアを手に入れるために貴族を没落させ、爵位を得るだけでなく、国さえも手に入れようとする。そしてシーリアもお妃教育で、世界はきれいごとだけではないと知っていた。 小説家になろうサイトで連載していたものを漢字等微修正して公開しております。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

処理中です...