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22 泉
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『ハイラン王国に行く前に泉が湧くところが見たい』
というセシルたっての頼みで、まだ水源調査は終わってはいないものの、前倒しで1番水不足の甚だしい村に泉を作る事になった。
『ご当主様が水不足を解消してくれる』
との噂がどこからか流れたようで、当日村はお祭り騒ぎになり、他の村からも見物人が来るほどだった。そんな中、母はソフィア様から教わった通りに泉の予定地に静々と足を運び、皆が期待で静まりかえる中
「ここに泉を!」
と杖を地面に刺した。すると杖を刺した場所に大きめの亀裂ができ、その周りの地面が湿り始めた。その湿った場所はどんどん広がり、とうとう亀裂から水が噴き出した。水は地面を削りみるみる溜まり、小1時間もしないうちに澄んだ水をたたえる泉が出来上がった。
抱き合って大喜びする村人たち。膝をつき、泣いている者もいる。子どもたちは早速水に手を入れて水遊びを始めた。飛び散る飛沫に光が当たり、キラキラと眩しい。
「私も!」
止める間もなくフラーヌ様は子どもたちに駆け寄り、水遊びに参加し始めた。
「あぁ!お召し物が…」
ハンナは嘆いているが止めるのが間に合わず、すでに服はずぶ濡れ、どうにもしようがない状態だ。
「半信半疑だったけど本当に水が湧くんだね…あ、もう泉の周りに何かの芽が出てるよ。すごい…」
セシルはそう言うと泉の水を手ですくった。カールは泉をじっと見つめて、
「綺麗な水だね。これが精霊の力なのか…なんて素晴らしい。クリス、セシル、私たちはこの力を無駄にしない為に努力しないといけないね」
「そうですね…無駄になるのかどうかは結局は人間次第なのかもしれませんね」
尽きせぬ泉を目の前に私たち兄弟は決意を新たにしたのだった。
数日後、セシルが従者コンラッドとともにハイラン王国に留学する日になった。
門の前に馬車が準備万端で待っている。
「母上…この馬車は?」
その馬車は我が家に存在するはずもない豪華な馬車だった…セシルが聞くと
「カトリーヌ様に『この国を代表して行くのだから』と押し切られて…」
と母は答えた。どうやらカトリーヌ様の家の馬車らしい。そしてその中と後ろには大量の荷物が積まれている。
「母上…この大量の荷物は?」
「旅行トランクに入っているのはあなたのお着替えと日常の生活用品よ。リボンのついた箱は、ヴィッテンベルク家へのお土産。カトリーヌ様に『アンジェリーナ様に絶対持って行って』とお願いされて…」
まあ、3ヶ月もお世話になるのだから手土産の1つは持っていくべきだとは思う。しかしカトリーヌ様に大分押し切られてるような気がするのは私だけだろうか?
「あとは…これを持っていきなさい」
母はセシルに大きな紙袋を渡した。
「母上…もう馬車が一杯なのですが?」
「何を言ってるの?これはとっても大事な物よ!中身は薬。腹痛の薬と…あなた緊張するとお腹にくるでしょ?解熱剤と…万が一向こうの薬が合わないと困るし、使い慣れた薬が1番よね。あとは…」
セシルは呆れた様にため息をついたものの、その紙袋を大事そうに受け取った。
「何かあったらコンラッドに伝言をお願いしますから、そんなに心配しなくて大丈夫ですよ」
「危ない目にあったらすぐ帰ってくるのよ」
「わかりました。では、行ってきます」
彼は元気よく私たちに手を振り、出発して行った。
セシルが留学に行って少したった。私は半身をもがれた…そんな気分で暮らしていた。フラーヌ様はおられるけれど、やはり生まれてこのかたずっと一緒にいた彼がいないのはまた違う。
心配症の母の為か、1日おきにコンラッドがセシルからの手紙を持ってきているが、内容的には
「業務連絡か?素っ気ないのう」
とフラーヌ様が呆れて言うくらいに素っ気ない。が、しかし行間からは向こうでの生活が充実していることが感じとれた。
「何か困っている事はないかしら?」
母は手紙を届けに来たコンラッドに聞いてみると彼は少し悩んで、
「今のところ特には…あ、セシル様が良く徹夜で勉強していまして、体調が心配なので夜はきちんと寝ていただきたいのですが、私の言う事を聞いてはくれず…何かいい方法あれば教えていただけませんか?」
「あら、昔から集中してしまうとそうなるのよね…そうね、寝かせたい時間の1時間ほど前にホットミルクを飲ませてあげて、効果覿面よ。蜂蜜を少し入れたのが好きだから試してみてちょうだい」
「試してみます。あと何か伝言はございますか?」
「重々身体には気をつける様にとだけ伝えて」
「わかりました。では」
そう言うとお辞儀をして、コンラッドはふっと消えた。母は彼のいたあたりを少し眺めて寂しそうな表情を浮かべている。母も私と同じ気持ちのようだった。
そんな寂しいが穏やかな生活は長く続かなかった。
ある日朝食をとる為に食堂へ行くと、いつも一番乗りをしているはずのフラーヌ様がいない。珍しい事もあるものだと思いつつ、そのまま待っていると先に母やカールも現れた。
「あら?王女様は?寝過ごすなんて珍し…」
母のその言葉が終わらないうちに血相を変えたハンナが食堂に駆け込んで来た。
「…姫が…姫が…」
「何かありましたか?」
「…目を覚ましません」
「お疲れなのでは?昨日も庭仕事に熱中なさっていた様ですし」
私がそう言うと、ハンナはキッとこちらを力強い目で見て、
「…どんなに揺らしても大声を出しても目を覚さないのです!微動だにしないのです!」
「何だって!」
私たち3人はハンナの後ろに続き、フラーヌ様の部屋に慌てて向かった。
これがあんな事になろうとは…私たちはその時全く想像していなかった。
というセシルたっての頼みで、まだ水源調査は終わってはいないものの、前倒しで1番水不足の甚だしい村に泉を作る事になった。
『ご当主様が水不足を解消してくれる』
との噂がどこからか流れたようで、当日村はお祭り騒ぎになり、他の村からも見物人が来るほどだった。そんな中、母はソフィア様から教わった通りに泉の予定地に静々と足を運び、皆が期待で静まりかえる中
「ここに泉を!」
と杖を地面に刺した。すると杖を刺した場所に大きめの亀裂ができ、その周りの地面が湿り始めた。その湿った場所はどんどん広がり、とうとう亀裂から水が噴き出した。水は地面を削りみるみる溜まり、小1時間もしないうちに澄んだ水をたたえる泉が出来上がった。
抱き合って大喜びする村人たち。膝をつき、泣いている者もいる。子どもたちは早速水に手を入れて水遊びを始めた。飛び散る飛沫に光が当たり、キラキラと眩しい。
「私も!」
止める間もなくフラーヌ様は子どもたちに駆け寄り、水遊びに参加し始めた。
「あぁ!お召し物が…」
ハンナは嘆いているが止めるのが間に合わず、すでに服はずぶ濡れ、どうにもしようがない状態だ。
「半信半疑だったけど本当に水が湧くんだね…あ、もう泉の周りに何かの芽が出てるよ。すごい…」
セシルはそう言うと泉の水を手ですくった。カールは泉をじっと見つめて、
「綺麗な水だね。これが精霊の力なのか…なんて素晴らしい。クリス、セシル、私たちはこの力を無駄にしない為に努力しないといけないね」
「そうですね…無駄になるのかどうかは結局は人間次第なのかもしれませんね」
尽きせぬ泉を目の前に私たち兄弟は決意を新たにしたのだった。
数日後、セシルが従者コンラッドとともにハイラン王国に留学する日になった。
門の前に馬車が準備万端で待っている。
「母上…この馬車は?」
その馬車は我が家に存在するはずもない豪華な馬車だった…セシルが聞くと
「カトリーヌ様に『この国を代表して行くのだから』と押し切られて…」
と母は答えた。どうやらカトリーヌ様の家の馬車らしい。そしてその中と後ろには大量の荷物が積まれている。
「母上…この大量の荷物は?」
「旅行トランクに入っているのはあなたのお着替えと日常の生活用品よ。リボンのついた箱は、ヴィッテンベルク家へのお土産。カトリーヌ様に『アンジェリーナ様に絶対持って行って』とお願いされて…」
まあ、3ヶ月もお世話になるのだから手土産の1つは持っていくべきだとは思う。しかしカトリーヌ様に大分押し切られてるような気がするのは私だけだろうか?
「あとは…これを持っていきなさい」
母はセシルに大きな紙袋を渡した。
「母上…もう馬車が一杯なのですが?」
「何を言ってるの?これはとっても大事な物よ!中身は薬。腹痛の薬と…あなた緊張するとお腹にくるでしょ?解熱剤と…万が一向こうの薬が合わないと困るし、使い慣れた薬が1番よね。あとは…」
セシルは呆れた様にため息をついたものの、その紙袋を大事そうに受け取った。
「何かあったらコンラッドに伝言をお願いしますから、そんなに心配しなくて大丈夫ですよ」
「危ない目にあったらすぐ帰ってくるのよ」
「わかりました。では、行ってきます」
彼は元気よく私たちに手を振り、出発して行った。
セシルが留学に行って少したった。私は半身をもがれた…そんな気分で暮らしていた。フラーヌ様はおられるけれど、やはり生まれてこのかたずっと一緒にいた彼がいないのはまた違う。
心配症の母の為か、1日おきにコンラッドがセシルからの手紙を持ってきているが、内容的には
「業務連絡か?素っ気ないのう」
とフラーヌ様が呆れて言うくらいに素っ気ない。が、しかし行間からは向こうでの生活が充実していることが感じとれた。
「何か困っている事はないかしら?」
母は手紙を届けに来たコンラッドに聞いてみると彼は少し悩んで、
「今のところ特には…あ、セシル様が良く徹夜で勉強していまして、体調が心配なので夜はきちんと寝ていただきたいのですが、私の言う事を聞いてはくれず…何かいい方法あれば教えていただけませんか?」
「あら、昔から集中してしまうとそうなるのよね…そうね、寝かせたい時間の1時間ほど前にホットミルクを飲ませてあげて、効果覿面よ。蜂蜜を少し入れたのが好きだから試してみてちょうだい」
「試してみます。あと何か伝言はございますか?」
「重々身体には気をつける様にとだけ伝えて」
「わかりました。では」
そう言うとお辞儀をして、コンラッドはふっと消えた。母は彼のいたあたりを少し眺めて寂しそうな表情を浮かべている。母も私と同じ気持ちのようだった。
そんな寂しいが穏やかな生活は長く続かなかった。
ある日朝食をとる為に食堂へ行くと、いつも一番乗りをしているはずのフラーヌ様がいない。珍しい事もあるものだと思いつつ、そのまま待っていると先に母やカールも現れた。
「あら?王女様は?寝過ごすなんて珍し…」
母のその言葉が終わらないうちに血相を変えたハンナが食堂に駆け込んで来た。
「…姫が…姫が…」
「何かありましたか?」
「…目を覚ましません」
「お疲れなのでは?昨日も庭仕事に熱中なさっていた様ですし」
私がそう言うと、ハンナはキッとこちらを力強い目で見て、
「…どんなに揺らしても大声を出しても目を覚さないのです!微動だにしないのです!」
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私たち3人はハンナの後ろに続き、フラーヌ様の部屋に慌てて向かった。
これがあんな事になろうとは…私たちはその時全く想像していなかった。
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