雪埋もれの国に名無し姫がやってきた

閑人

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23 眠り①

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 フラーヌ様は確かにベッドで寝ていた。すうすうと言う穏やかな寝息が聞こえてくる…私にはどう見てもただの熟睡にみえる。

 母もそう思ったらしく

 「寝てるだけじゃない?私が起こしてみるわね」

 と言い、優しくゆさゆさとフラーヌ様を揺らして起こそうとしたが、全く起きる気配がない。

 「王女様!朝ですよ!」

 とうとう私たちにやるように大声で呼びかけたが彼女は微動だにしなかった。さすがにおかしいと皆思い、医者を呼ぶべきか話し合っているとそこに

 「今日はこちらでしたか?」

 コンラッドが現れた。母のいる場所を目掛けて瞬間移動をしたらしく、この場所に来てしまったようだ。

 「セシル様のお手紙を…あれ?フラーヌ様が寝てらっしゃる?」

 「起きなくて困っているの…お医者さんを呼ぼうかと思って」

 コンラッドはフラーヌ様のベッドに近づきじっと彼女の様子を伺っていたと思うと徐に

 「これは〝眠り病〟ですよ」

 「なんですって!そんなバカな!姫は半分は人間ですよ、有り得ません」

 ハンナが怒りの混ざった声で否定をした。

 「…半分は精霊だろう?かかってもおかしくはない。ハンナ…君だってわかっているだろう?」

 彼女は無言で俯いて唇を噛んだ。

 話についていけない私たちに向かってコンラッドが説明してくれたところによると、

 〝眠り病〟は精霊がかかるモノでとにかく眠り続けるという症状が出るらしい。そして目が覚めた時には精霊として一回りも二回りも力が増しているのだと。

 「病気とは言いましたが、どちらかというと力を溜め込んでいる状態で、それに集中する為他の動きを止めている…と言う風に考えてもらえれば良いかと」

 「じゃあ寝ているだけで悪い事は起きてないのね?」

 ホッとした声で母が言うが、それだけにしてはハンナの様子がおかしい…私は嫌な予感がした。

 「〝精霊〟ならばそうです。しかし〝人間〟だと重大な問題が…ハンナ、多分君もかかった事があるだろう?どのくらいの期間寝ていた?」

 絞り出す様にハンナが答えた。

 「…大体100年ほど」

 100年?そんな長期間だとは思わなかった。

 「死ぬことの無い精霊ならば100年寝ようが大した事では有りませんが、彼女は半分人間。このまま寝続けたら人としての身体がもつかどうか…」
 
 嫌な予感が的中してしまった。

 「何だと!では何とか起こさないと!」
 
 と思わず私は大声を出した、その瞬間、部屋に誰かがもう1人瞬間移動してきた。今度は何の精霊か?と身構えたが…

 「陛下!どうしてここへ?」

 その男性は陛下だった。母の声でそれに気がついた皆は膝をつき、頭を下げる。私も頭を下げるとちょうど目線に陛下の手があった…クマのぬいぐるみを持っている。それもどこかで見覚えがある品…あ、フラーヌ様の王宮の居室にあった物だ!陛下からの贈り物とか言っていた…あのあと我が家で見かけなかったけど、こんなところでお目にかかるとは…持って帰るのを忘れたままだったのか。

 陛下はいつもの威厳はどこへやら

 「姫、姫が…ソフィアから聞いて」

 とあわあわとフラーヌ様の寝ているベッドに駆け寄り彼女の身体を揺すり声をかけた。

 「…起きて、起きなさい…眠り病など…そんな事はありえぬ。姫まで私の前からいなくなったりしないでおくれ…頼む」

 声をかけても揺すっても起きないとわかった陛下はとうとう人目もはばからずベッドに縋り付くように泣き始めた。最愛のソフィア様は亡くなってはいないものの姿は見えず、声(それも切れ切れの単語しか話さない)と気配くらいになってしまった陛下にとって残されたフラーヌ様を失いたくはないのだろう…こちらまで涙が滲んだ。

 それでも何とか落ち着かせ話を聞き出すと、陛下はいつも通りソフィア様と2人きりでお話しようとしたところ、声がいつも以上に切れ切れで聞き取りにくい状態になったらしい。不審に思っていると、ソフィア様は

 「眠り…姫…森…」

 と言ったきり気配はあるものの声がしなくなってしまった。その最後の言葉を聞いてフラーヌ様が心配になり瞬間移動させててもらい、今ここに来たと。

 「眠り病の事は私も知っておる。ソフィアは200年近く寝ていたと…精霊だけがなると聞いておったのでまさか姫がなるとは…油断しておった。とにかく国1番の医者を連れてくるので一度診てもらおう。それまで頼む。おっと、そろそろ戻らないと…また来るでの」

 と陛下はフラーヌ様の手を握りしめた後、クマのぬいぐるみを枕元に置いて去っていった。


 その後、国1番の医者が派遣されてきたが

 「脈も呼吸も心拍も正常です。ただ寝ているだけの状態です」

 と言う結論だった。


 コンラッドはセシルに心配かけない様この件を口止めされて帰された。

 私たちは途方に暮れた。

 「私たちにできる事はないのかしら?」

 「何をして良いのかもわかりません…」

 「ハンナ、起こす手段はないのかい?」

 「…基本放置です。起こそうと思った事も有りません、ほっとけば目を覚ますので」

 陛下の泣き顔が頭をよぎる。

 「コンラッドは『打つ手なし』と言ってたが、ソフィア様に聞いてみる事は可能かい?」

 その手があったか、さすがカール。

 「…先程陛下も仰っていた様にソフィア様の気配は感じとれるのですが、お声が…多分ソフィア様のお声を出
す力は姫がいらっしゃらないと弱まってしまう様です」

 「とするとソフィア様はダメか…他の精霊は?」

 「…聞いてはみますが」

 手掛かりが掴めない。そこで私も思いついたことを聞いてみた。

 「あと、陛下が仰ってたソフィア様の言葉で『森』と言うのが気になって…ハンナ何か心当たりはないかな?」

 「それは〝名無しの森〟の事ではないかと。精霊が〝森〟と言ったら〝名無し森〟を指す事が多いですからね。精霊がたくさんいる場所で、確かそこには賢者様とも呼ばれるほど知識量の多い精霊も住んでいるはずです」

 名無しの森にいるその賢者様とやらに知恵をもらってこいなのか、それともその森で何かをすると目が覚めるのか、その森にある何かを手に入れ薬としてフラーヌ様に使えなのか…ソフィア様が何を伝えたかったか、これだけではわからない。ただ何かのヒントには違いない。

 「その賢者様にここにきてもらう事はできそう?ダメならせめてお話だけでも伺えないだろうか?」

 「…こちらから行くならば何回かに分けて瞬間移動をして半日もかからず森まで行かれますが…しかし向こうにきてもらえるかどうかは微妙です」

 森から出る事がない賢者様をここに連れてくることはまず無理なのではとの事だった。その上森までがかなり遠いので、こちらからの呼びかけが届くか微妙らしい。

 「だったら私はその〝名無しの森〟に行って、直に賢者様に会ってこよう。それの方が話が早そうだ。ここでぐずぐずしているのは性に合わないしな…ハンナ、森まで送ってもらえないか?」

 


 
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