雪埋もれの国に名無し姫がやってきた

閑人

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24 眠り②

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 〝名無しの森〟…精霊が多く住むと言われているその森に私が行こうとすると皆から止められた。確かに(私たち人間には)どこにあるのかも何が起こるかもわからない場所ではある。しかし

 「瞬間移動を重ねていけば半日もかからないのだろう?危なくて中に入れなくとも、外から中の賢者様や精霊に呼びかければ情報が集まるはずだ」

 私はそう言ったがカールから待ったがかかった。

 「…クリス、君が行く必要があるのかな?精霊の声を聞くなら精霊が1番だ。ハンナか誰か知り合いの精霊にお願いした方が良いと思う」

 まあ、カールの言う通りなのかもしれないが…黙ってここで待ってるだけなんて私には到底無理だ。

 行くの行かないのと揉めているとハンナが

 「クリス様はどうしても行きたいのですね?でしたら、私の妹分の精霊と一緒に行くのはどうですか?私よりは力が落ちますが、信頼はできます」

 私はその提案にのる事にした。母は

 「せめてハンナがクリスの付き添いを…」

 と言うが、

 「それはダメでしょう母上。ハンナにはここでフラーヌ様の容態を見ていてもらわないと。あと、ここでも情報収集して欲しいですし…で、その妹分とは?」

 ハンナは小声で何かに呼びかけた。すると部屋の天井近くにゆらゆら揺れる小さな光る球体が現れたのだ。
 
 その球体は私の周りをぐるぐると回り、ピタリと私の顔の前に止まった。

 「人間と話をするのには力が足りないようですね…ウツロに入りなさい」

 ハンナのその言葉を聞いた球体はウロウロと何かを探しているかのように部屋を動き、最後にあのクマのぬいぐるみに吸い込まれていった。次の瞬間

 ぬいぐるみがぴょんと立ち上がった。

 「いよっと!うわー手足が短くてちょっと動きにくいや…もっとスマートなヤツにすればよかった」

 何かを確かめる様に身体を動かしながら喋るぬいぐるみに驚いて2、3歩下がる人間たち。ハンナは喋り続けるぬいぐるみをちらっと見て

 「…私の妹分です。魂の入っていない物〝ウツロ〟に入ると力が増えるので入ってもらいました…少しやかましいのが欠点です」

 それを聞いたぬいぐるみは腕を振り回して怒った。

 「ひどい!呼び出したの姉さんでしょ?で、何の用?あれ?姫さん寝てる…もう昼だよ?おーい」

 よく喋る…ちょっと落ち着きのないクマのぬいぐるみが誕生した。陛下からの贈り物なのだが、使ってよかったのだろうか?

 そんなやかましいぬいぐるみに今の状況を説明するハンナ。いちいち無駄口を交えながら返答するぬいぐるみ…何かの出し物に見えてきたがこれは現実だと自分に言い聞かせた。
 
 「え?じゃアタシ、コレと一緒に森に行くの?うわーあそこ遠いんだよね…めんど…」

 ハンナに睨まれてぬいぐるみの口が止まった。

 「面倒かもしれないが…ここでじっとしていられないのだ、頼む、えっと…」

 『ぬいぐるみ』とでも呼ぶべきなのか、それとも『クマ』?

 「アタシの事はアリーって呼んで。カッコいいでしょう?自分でつけたんだー。まぁ姉さんにも頼まれたし、一緒に行ってやってもいいよ。アンタの魂の色面白いし」

 というわけでやかましいぬいぐるみのアリーと一緒に〝名無しの森〟に行く事になったのだった。
 
 ーーー

 「でさーそのリュックの中身って何?重くない?」

 「……」

 「返事くらいしないと感じ悪いよーねえ?もうちょっと会話ってものを楽しまないと」

 「…アリー」

 「なになに?」

 「うるさい」

 「えー?アンタに付き合ってこんなところまで送ってやったのに『うるさい』?信じられなーい!」

 「それは感謝してるが、だからと言って我慢できるわけではない」

 「我慢が足りないよ。はい!ここが名無しの森だよ。入れるかどうかはアンタ次第!」

 何度も瞬間移動を繰り返して(その間ずっと喋り倒していたのには閉口したが)、私たちはとうとう名無しの森にたどり着いた。精霊が多くいる場所と聞き、勝手に〝清らかな森〟をイメージしていたのだが、どうやらそれは違うようだ。

 「なんだか薄暗くて不気味な感じの場所だな。入れるかどうかは私次第と言ってたが、どういう意味だ?」

 「…出入りできるかは森が選ぶんだよ。ダメなら一歩も入れずに追い返されるよ。やってみ?」

 そう言うとアリーは小馬鹿にしたように笑った。せっかくの可愛らしいクマのぬいぐるみなのに台無しだ。

 森が選ぶ?追い返される?まあ、やってみればわかるはずだ。そこは深く考えない事にした。

 「では中に入ろう。アリー、周りの精霊に賢者様の居場所を聞いて。あと、眠り病の起こし方を知ってないか、有益な情報が来たら私に教えて欲しい」

 「ジジイの居場所と起こし方ね。りょーかーい」

 私は森に足を踏み入れた。アリーは空中を浮かびつつ私の後に続く…が、特に何も起こらなかったので、そのまま森の奥に進んでいく。

 森の中に入ると明るく、爽やかな風が吹いており、身構えていた私は拍子抜けした。周りに小さな羽虫がまとわりつくついてくるのだけには閉口したが、それ以外は外観のような不気味さは全くない。しかし、

 「…なあ、ここの植物おかしいぞ。うちの裏山にある寒い場所の植物もあれば、南国にしかなさそうなのも生えてる…めちゃくちゃだな。セシルが見たら喜びそうだが」

 「ふーんそうなんだ。ま、いいじゃん?色んな植物があってラッキーって感じで」

 精霊的には気にならないのか、アリーの返答は軽い。

 「何か情報は?」

 私は歩みを進めつつアリーに聞いた。

 「ジジイは森の1番奥にいるって…しっかしアンタお貴族様でしょ?何でそんなにスタスタ森の中歩けるの?」

 「我が家は昔から山で狩りができる様小さい頃から訓練させられるからな」

 アリーは急に私の顔の正面にまわりこんできた。

 「ふーん…で、そのリュックの中身は?弓矢は見えてるからわかるけど、他は?」

 「…その質問2回目だぞ」

 「1回目に答えてないじゃん。実質1回目だよ」

 何故そんなにリュックの中身が気になるのか…しかし答えなければまた聞かれるだろうと判断した私はそばにあった石に腰掛け、アリーに中身を見せる。すると彼女はカバンの中身を1つずつ確認し始めた。

 「弓矢、火打石、ナイフ、ロープ…ねぇこの袋は?」

 「非常食のナッツだ」

 「非常食かぁ…そういえばそろそろお腹空く頃じゃない?食べないの?」

 自分は食べないくせにそこは気になるのか。

 「非常食と言ったろ?森で食糧を調達できない時の為の物なのだ。食べたくなったらまずは森の中で食べられる物を探すよ」

 「人間って面倒だね、森の中で調達って言ったけどやっぱり木の実とか?」

 「木の実も食べるけど、長期戦になりそうなら動物を捕まえて食べるかな腹持ちが良いから…いなさそうなら虫」

 「む、む、虫ぃ?」

 アリーは目をひんむいて大声を出した。

 「そうだ。主にイモムシ系。捕まえ安いのに栄養豊富だからな…そんなに嫌がる事ないだろう?我が家では普通だぞ」

 「えー気持ち悪い…ほら〝みんなも〟引いちゃったよ」

 「みんな?私たち以外誰もいないが…ん?」

 そういえば先程までうるさいくらい鳴いていた鳥の声も動物が動いているらしき音もピタリと止まり、今は無音だ。まるで私たちの会話を聞いて〝とって食われる〟と怯えて逃げてしまったかのようだ。ついでに周りをたくさん飛んでいた羽虫もいつのまにか消えているとアリーに言うと

 「それ全部精霊だよ…ホントに誰もいないや」

 呆れたように言われた。

 「え?羽虫も精霊?」

 「…アンタには羽虫に見えたかもしれないけど、あれは小さい精霊だよ。あーあー怯えて呼びかけに誰も応じてくれなくなっちゃったよ…まあ、ジジイは奥にいるってわかってるんだからこのまま進もう」
 
 怯えさせて申し訳ないが聞いたのはアリーだからな。

 しかし知恵をもらいに行く賢者様を『ジジイ』と呼ぶのだけは勘弁してくれとお願いしたが

 「ジジイはジジイじゃん」

 とアリーにバッサリ却下された。無礼者扱いされないといいが…心配だ。
 

 多少のアクシデントはあったが私たちはとうとう賢者がいると言う森の奥に到達した。
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