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1.シンデレラ ver.1
しおりを挟むガラスの靴を落とした事で王子と結ばれたシンデレラ
皆一度は憧れるお話しではないでしょうか。でも…
シンデレラは途方にくれていた。
ふと外を見ると眼下には冬枯れの森がただただ広がっているばかりで何の慰めにもならない事に気がついているが目が離せない。
「どうしてこうなってしまったのかしら」
取り止めもなく思いをめぐらせてみた。
舞踏会に行くまでは良かった、綺麗なドレスに馬車、美しい宮殿、素敵な王子様。そのあと…そうか、ガラスの靴を落としたのがまずよろしくなかったのか…
その靴を手がかりに私の事を探し当てた王子、そしてプロポーズ。頬を赤らめて頷く私。しかしそこで気がつくべきだった、陛下とお妃様の苦々しいお顔の意味を…
父が亡くなって貴族教育は途切れてしまってはいたが貴族としての基本的な知識は持っていたのだから。
我が家は「男爵」、貴族の位としてはビリ。本来王子の婚約者になるのは1番上の位、「公爵」のお家柄の子女だけなのだ。当たり前の知識だ。何故その事を思い出さなかったのか?あの酷い暮らしから抜け出せる高揚感でいっぱいだったとしても貴族の端くれである人間にとってありえないミスだ。舞踏会に呼ばれたとしてもそれは「王家を讃える群衆のひとり」としてで、私は決して選ばれる事はないはずだった。
…まあ、軽々プロポーズをしてしまう王子にも責任があるとは思うが…
その後お妃様の実家のつてで、私は公爵家の養女になり、急ピッチでお妃教育を開始した。この年まで結婚しても良いと思う女性がいなかった王子なのでお妃様も「もうコレ(シンデレラ)でもいいや」と思われたのか、それとも息子の恋路を何とかしてあげようという親心だったのか、その心中はわからない。
どちらにせよ、髪も肌もボロボロだった私はみるみる美しくなった。そう魔法がなくとも私は美しかったのだ。
教育は厳しかったが、これも王子と結婚する為通る道と思い頑張る事ができた…ただこの頃から私の身の回りはきな臭くなってきた。この婚約によって面子を潰されたと感じた貴族たちが多かったのだ。特に家格的にも政治的にも位の高い人たちが中心になり、この結婚に異議を唱え始めた。それはそうだろう、こんなどこの馬の骨ともしれない人間に妃になられては困るだろう。
その勢力は影に日向に圧力をかける。
「まだ書面にサインしていない婚約なぞいつでも破談にできます」
「こんな身分の子女を王族に入れるのはいけません。国に混乱をもたらす元です」
「側室なら…」
1番陛下が困ったのは
「第2王子と公爵の子女を婚約させて後継者とし、第1王子は後継者から外しましょう」
という意見が出始めたことだ。私にプロポーズをしたのはお妃様を実母とする第1王子。第2王子は側室の子ではあるが、学問も武も非常に優秀だと評判だ。かたや第1王子の平凡な事!顔こそ美しいが…今まで後継者として文句が出なかったのは偏にその血筋の良さ、それを自分自身で踏み躙ろうとしているのだから始末におえない。これはまずい。国内の貴族の勢力図が大きく変わりかねない事態にもなろう。
陛下もお妃様も慌てた。そして王子はやっと自分のしでかした事の大きさに気がついた。対応に追われ、私に会いに来る事もなくなった。ここで私が大人しく身を引くか側室になる事を自発的に提案していれば…と思わずにはいられない。しかし今となっては後の祭りでしかない。
引き取られた公爵家で私が「厄介者」になった事は肌でひしひしと感じた。それは父が亡くなった時にもそうだった。侍女の数も減り、お妃教育は取りやめにこそならなかったが内容は薄くなった。
そして次には命を狙われ始めた。まず毒見役だった人間が次々と変わったので、問うと
「その人は辞めました/違う人に変更されました」
という返事しか返ってこない…どうやら私に盛った毒で亡くなったり具合が悪くなったようだ。庭を散策していると上から植木鉢が落ちてきたり、ガラスの大きな破片が落ちてくることもあった。慌てて辺りを見渡しても落とした人間は見当たらない。遠くの方で舌打ちかクスクス笑いがするだけだった…胸糞悪いが実家にいる時もこのような悪戯というには悪質な事を良くされていたので
『命の危機である』という感覚が鈍っていたのかもしれない。
全てを捨てて逃げ出すべきだった。しかし私はまだ希望をー王子の愛と言う希望を持っていたのだった。本当のバカだ。
その希望にすがり日々を過ごしていたある日ー
夜が明けた。とうとう一睡も出来なかった。荒々しくドアを叩く音がして衛兵が現れた。その後を大人しく着いて行く私。衛兵の肩は恐怖なのか緊張なのか小刻みに震えているようだ。それはそうだろう。今日私は
魔法を使いネズミを馬に、かぼちゃを馬車に変え、舞踏会に参加し王子をたぶらかした魔女として処刑されるのだから
先程までいた部屋は塔にある貴族用の牢獄の一室。何日か前公爵家のお屋敷から連れて来られたのだ。もう王子の愛はどこにも無い。
処刑場に近づきふと顔をあげると冷え冷えと宮殿がそびえたっている。私を愛した男はそこで今何を考えているのか聞いてみたい気がするが、もう遅い。前方を見ると魔女の処刑を一目見たいという市民でいっぱいで、興奮と狂気のるつぼと化していた。
他にも一緒に処刑される人間が横に並んだ。義理の母と姉だ。一族郎等全て根絶やしにしてどこからも文句が出ないようにするらしい。なんて素晴らしい所業!
彼女らは口々に私へ、王へ、聞くに耐えない罵声を発している。…私としては彼女らを道連れにできるのは少し痛快だ。それだけが救いかもしれない。
風が髪をなびかせる。空気がとても冷たく感じられる。罵声の主が1人、また1人と消えていく。
魔法使いは助けに来ない。
そして目の前が暗くなった。
Fin
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