脳筋王子と茨姫〜大丈夫、私強いですから

閑人

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20 後日談

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 ー王宮

 王は苛立っている。

 「あの魔女のせいだ」

 国土を無理やりアルフレッドに割譲する羽目になった上、茨の森を処分しようとした第1王子が逆に向こうに捕まり…身代金の代わりとして王宮にある魔法に関する本を根こそぎ奪われたのだ。

 魔法関係の本は高価ではあるが使える人間がいないのでまあ諦めがつくとして、問題は割譲した森林部分だ。その重要性に気がついたのは魔女が帰ってからすぐだった。

 森林を8割削られた為煮炊きをする薪すら手に入りにくくなったのだった。しかも腹立たしい事にアルフレッドの国は庶民にはほぼただの様な値で薪を売り、貴族などには高値をつけて売っている為、貴族からの不満が強く出ていてそれを抑えるのに王は苦戦している。

 もちろんそれだけではない。武器を作るための鉄の加工にも薪は必要なので新たに武器を作ることすらままならない。さらに腹が立つ事にガラスの製造にも薪は必要な為、魔女があの時壊していった王宮の窓ガラスはいまだに修理すらできていない。それを見るたびあの忌まわしい魔女の姿を思い出して気が滅入る。

 それでもアルフレッドの国は森林だけなので薪を売るくらいしか収入がないだろうから早晩財政的に行き詰まるはずとたかをくくっていたがその様な情報は未だ王の耳に入らない。

 「一体どこから金が入ってくるんだ?」

 今日も王は苛立っている。


 ーー離宮

 「アルフレッド様、エリーゼ様お茶が入りましたよ」

 あの後2人は結婚をして、今は茨の塔と離宮を往復して過ごしている。今日2人は離宮にいた。

 「エリーゼ様、先ほど何か計算なさっておいででしたが、どの様な物ですか?」

 デボラ特製のお菓子を出しながらオリバーは聞いた。

 「…オリバー、私もそこにいたのだが、私には聞かないのか?」

 私だけ蚊帳の外みたいな取り扱いに少し腹が立った。

 「聞いた方が宜しかったですか?」

 涼しい顔でオリバーは私に聞く。

 「…やっぱりいい」

 彼女はそんな会話を楽しそうに聞きながら

 「あれは今年の薬草の売り上げとその利益を出していたのですわ。もう少し薬草畑を広げて収入を上げて、この離宮の周りを整備して道を作り日用品などを取り扱うお店を誘致したいなって思っています」
 
 「薬草?あの薬草茶の?」

 塔に行くと大体出るあの薬草茶だ。

 「そうです。あの薬草は乾燥させて粉末にし他の薬に少量混ぜて使いますの。そうするとその薬の効き目を高める効果があるのです。なのでとっても高値で販売されてるのですよ」

 「へぇ、そんな効果が…知らなかった」

 少しイタズラっぽい表情でエリーゼは言った。

 「普通にあちこちの国の薬に使われているのですよ、もちろんあの国でも」

 あの国とは私の父である王のいる国の事だろう。

 「え?」

 茨の森産の薬草が入っているなんて聞いた事がない。

 「獣人たちはあちこちの国でも暮らしているのですが、その中には商売をやっている方もいるのです。その他国で商売をしている方を通じてこの薬草を売っています。なのであの国では『他国産の薬草だ』と思い込んでいる方が多いと…アルフレッド様が知らないのも無理はございません。ちなみにこの薬草に目をつけたのは長老で、販売網を作ったのはブライアンです」

 …確かに茨の森にそんな薬草があり、その効果を知っていれば『茨の森の処分をしよう』なんて話が出る訳がない。それよりは『国であの森の薬草を独り占めしよう』と…あ、そうか。だから薬草の出元がわからない様に他国の商売人を通じて売っているのか。賢いなぁ。

 「ですからあの国に売らないという選択肢も私たちにはあるという事です」

 楽しそうだなエリーゼ…と彼女を見つめていたら疑問がわいた。

 「ま、でも私は庶民が困る様なことはあまりしたくないな…しかしその薬草、他の場所でも作られたら売り上げが下がるのでは?」

 彼女は頭を振った。

 「他の場所で育てるのはほぼ無理ですわ。あの薬草は成長に高濃度の魔素が必要不可欠な植物なのです。つまり私がいないと育たないという事です」

 そう言うと、エリーゼは柔らかく笑った。そんな彼女の全てが愛おしいと私は思う。

 この穏やかな日々が続く事を私は切に願ってやまない。
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