雷神と呼ばれた魔法使い ~光の魔法と時間の呪い~

福山 晃

文字の大きさ
2 / 3
旧友

トーリアの憂鬱

しおりを挟む
 ギルドを後にした私は宿へとやってきた。この宿は朝のうちに予約して支払いも済ませておいたので受付で女将おかみに声をかけるとすぐに部屋の鍵を渡してくれた。

 部屋は二階の一番端にある通りに面した部屋だ。部屋へと入った私はまずローブを脱いで衣紋掛け(ハンガー)にかける。それから鞘の紐を解いてから腰帯から剣を抜く。

 剣はいったんベッド脇にある机の上に置く。

 私は椅子へと腰かけ、体の力を抜いた。

「はあああぁぁぁ……疲れたぁぁ……」

 ふと視線を横にやれば部屋の隅に置かれた浴槽が見えた。並々と水が張られている。すぐにでも飛び込みたくなるが、今日は人を何人も斬っているので剣の手入れをしなければ眠れない。

「……………………………………………ああっもう!」

 私は体を起こし、部屋に置かせてもらっていたトランクから剣の手入れ用具を取り出す。そしてまずは鞘から剣を抜き出してから刃を点検する。特に刃こぼれや亀裂はないが多少切れ味が鈍ったような感じがあったので微弱な雷術魔法を刃に当てて仮研ぎをしておくことにした。

 指先からバチバチと火花を飛ばして研いでいく、これで鈍った切れ味をある程度回復することは出来るけど職人が研いだ切れ味には及ばない、いよいよとなれば研ぎ師に預けなければならない。

 私の剣は特殊でタマハガネと呼ばれるとても固い鉄で作られている。これは私の剣の師匠であるヒノモトの剣士が使う剣と同じものでヒノモトの剣に詳しい私の……もう一人の魔法の師匠にお願いして作ってもらったのだった。この剣をちゃんと研ぐことが出来る職人はこのあたりだとゾーリンゲールにしか居ない。近いうちに訪れなければいけないだろうな。

 刀身に打ち粉をまぶしてから紙で綺麗に拭き取る。これを何度か繰り返してから油を薄く塗りつける。仕上げに紙で拭きあげて完成。剣を鞘に納めてからクローゼットの中に立てかけて置いた。
 私は服を脱いで文掛衣けハンガーにかける。よくシワを伸ばし汚れや埃を落とすように手で叩いておく。

 肌着姿となった私はまず浴槽に張られた水を沸かす。これも雷術魔法で行う。火花が飛ぶか飛ばないか程度に魔力の圧力を高め、魔力量は極々微量に調節して少しずつ沸かしていく。魔力量を上げれば一瞬で沸かすことも可能だけれど、そうすると温度の調節が難しく沸騰させてしまったり浴槽を壊してしまったりとかは今までに何度もやっているので落ち着いて少しずつ温度を上げていった。

 雷術魔法とは雷を操る魔法である。

 攻撃方法として相手に雷を落とす、ぶつけるという強力な攻撃魔法なのだけれど理解を深めていくと実に汎用性が高く、固い金属の表面を削る、物質の温度を上げる、獲物を麻痺させる、焼く、穿つ、など様々なことが出来る他、癒しの効果まで持っている。こうした変わった用途に対応するやり方を教えてくれたのが私のもう一人の魔法の師匠ローテアウゼン先生だった。

 浴槽の水がほどよい温度になった。すぐにでも飛び込みたいところだが天井にある梁に飛びついてぶら下がる。そのまま懸垂をする。

 二百回くらいでいいかな……私は魔法使いであって剣士ではない。だから剣士のような厳しい訓練は必要ない、そう思っていた頃は酔いつぶれてそのまま寝たり、本を読みながら寝てしまったりと自堕落を許してしまっていたのだけれど、そんな生活を送りながら剣を持つと重くて思うように振れなかったり、切れもなく速さもない剣技になってしまうことに気付き、最低でも体力を維持する程度の運動は欠かさないようにしている。

 懸垂の後は屈伸や起き上がりの運動を続けてやる。すっかり汗まみれとなり床に転がって天井を見上げながら息を整えた。

 荒くなっていた息が収まるといよいよ待ちかねた入浴の時間だ。私は飛び起きてから少々品が無いとは思いながらも肌着を脱ぎ捨てて浴槽に飛び込んだ。

「はあああああああぁぁぁぁぁぁ……………最ッ高ぉぉぉぉ…………」

 ただお湯に浸かるだけでどうしてこうも気持ちいいのだろう。……はあ、もうこのまま寝てしまいそう。

 お湯に浸かり頭の中身までとろけそうになっている時にふと体を拭くためのタオルを用意していなかったことに気が付いた。横目にトランクを見るが……遠いな…………ま、いいか。

 何度もため息を吐いて浴槽の中の天国を満喫する。

 それにしても今日は本当に疲れた。行商人を介してこの街の書庫の閲覧を申し込んだのが今朝の話。当初の話では金貨三枚程度で交渉出来ると行商人からは聞いていたのだけど、領主が何を調べるのかとしつこく聞くものだから、つい面倒で光の魔法の資料を探していると言ってしまった。

 領主はそれを聞くと急に条件を吊り上げた。しまったと思ったけれど後の祭り……もはや相手の示す条件を呑むしか無くなってしまった。それで出された条件がちょうどこの街に滞在していた『調教師』と呼ばれる賞金首一味の抹殺だった。こいつらは決して人に慣れることのない魔獣を操り人里を襲わせて荒稼ぎをしているらしい。数日ほど前にも近くの村を襲わせ住民の大半が亡くなっているそうだ。

 こいつら一味の八人分の賞金を合わせると金貨で約百五十枚にも及ぶ大物でその所在まで掴んでいたのに手出しが出来ない、つまりこの街の自警団では歯が立たないほどの強者ぞろいだったというわけだ。

 この街の自警団はどうやら魔法使いが中心になっていて剣や槍使いの手練れがいないようだった。対して『調教師』のほうには魔法使い殺しヘクスマーダと呼ばれる魔法使い専門の殺し屋がいる。魔法使いは戦場においては最も厄介な存在であり魔法使いに対抗するため、より強い魔法使いの争奪戦となることもあるほどだ。こういう場合には逆に魔法使いを専門に狩る傭兵を雇い入れる場合もある。

 幸い私は魔法学校でこういった敵との戦い方も教わったことがあるし、何よりも私には剣がある。魔法の効果に依存しない最強の攻撃手段、それが私の剣術だった。

 それにしても領主のあの口ぶりからすると私が『調教師』を倒してしまうとは思っていなかったようだな……いっそ返り討ちにあってやられてしまえばいいくらいにまで思われていたかも知れない。

 光の魔法を調べようとする者に、それほどまで見せたくないものが書庫の中にあるということだろうか……

 そんなこんなで『調教師』の滞在する隠れ家に乗り込んだのが昼前、そこでまずは誰だか分からないけど二人を水術魔法で仕留めてから隠れ家を出る。案の定追ってきた魔法使い殺しヘクスマーダを剣で両手首と首を跳ね飛ばしてからついでに二人を土術魔法で地面に埋めて残りの三人を仕留めようと隠れ家に戻るがやつらは反撃をしないで逃走。外に出て埋めておいた二人に止めを刺したところでこれまでずっと私を監視していたこの街の魔法使い達が現われ逃走先の情報を得て追跡、無防備に見せかけて路地裏へ誘い込み、残る三人を始末したのが夕方……というわけだ。

 もうほんっとに疲れた。

 こんな殺し屋みたいに扱われるのは本当に嫌気が差す。今回は交渉の段階で失敗したせいだと自分に言い聞かせ我慢することにしたが、今度からはこういう依頼は断ることにしよう。

 もうだめ……眠い。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

処理中です...