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旧友

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 暗くなってからすぐに鎧を着込んで敵陣へと忍び込むべく少し離れた林の中へアバンチュール号で降下した。見張りには気付かれてはいないはずだし鎧を着ていれば私はただの重装騎士だと思われる……はずだ。お尻も、何とか鎧に収まった。

 それから徒歩で敵陣中央へと向かった。堂々と歩いていれば私の姿を見ても怪しむ者はいなかった。どうやら上手くいったらしい。

 小ぶりな天幕の並んでいる所がある。ある程度以上の処遇で迎えられる戦士はこうした個室を許される、たいていは魔法使いもそうだ。

 結構な数の天幕が並んでいてどれが魔法使いのものか分からない。私は通りすがりの者に聞いてみることにした。

「すまない、魔法使いはどちらか?」

 自分の声が相手にどのように聞こえているのか自分では分からないが、魔法で男の声に聞こえるようになっているはず。相手はすぐにいくつか向こうの天幕を指差した。

「すぐそこだ、ここから四つ目の右側…………もう鎧くらい脱いだらどうだ?」

「ありがとう、すまんな用心深いんだ」

 私がそう答えると肩をすくめて去っていった。

 さて、四つ目……の、右側というと……ここね。

 天幕の前に立って、私は深呼吸をした。

「魔法使いどの、ちょっと失礼する」

 すぐに中から返事があった。

「ああ、構わんよ、入ってくれ」

 私は辺りを見回してから入り口に垂らされた布をくぐり、天幕の中に入った。

 魔法使いは机の前に座り、何やら書きものをしていたようだ。

「こんな時間にどうした、明日の予定に変更でもあったのか?」

 そう言って振り向いた顔は……久しぶりに見る顔だが、間違いない。あの頃の面影がそのままに残っている。年齢を重ねていくらか男らしさを増している。

 何も言わない私を不審に思ったのか首を傾げている。

「どうした?」

 私はゆっくりと兜を脱いだ。そして脱いだ兜を脇に抱えて少し髪を手ですいてからゆっくりと顔を上げる。私の顔を見た魔法使いは驚きを隠せないでいる。

「……なっ! お前……エミリアか?」

 私はそっと人差し指を唇にあてた。その意味を理解した魔法使いは思わず両手を口にあてて押し黙る。

「久しぶりね……ヴァルター」

 ヴァルターは魔法学校の同級生で、三年間一緒に魔法を学んだ仲間だ。ヴァルターはとても強力な炎術使いだった。

 私は、自分で言うのも何だが器用だったが威力に乏しくて、飛ぶのが速い以外にはとても強い劣等感を持っていた。だからヴァルターは憧れだった。入学したばかりの頃から凄まじい魔法を行使していたヴァルターをいつも羨望していた。

「十年ぶり……くらいか? その名で呼ばれるのも久しぶりだ。今はフラムファンタだ、魔法使いフラムファンタ」

「私も……今は、トーリアよ。魔法使いトーリア」

「ああ、知ってるさ。迅雷の乙女っていえばなかなかのものだぞ?」

「やめてよ、この齢で乙女なんて呼ばれるのもなかなか辛いんだから」

 ヴァルターは笑った。

「……で、どうしたんだ? 昔話をしにきたわけじゃないんだろ?」

 ちょっと言いにくくなってしまったけれど、私は深呼吸をして話し始めた。

「ちょっとね……変な縁があって、私……向こうに付くことになったの」

 ヴァルターの顔が暗くなった。

「すごいね、五人相手に勝っちゃったんでしょ? もうあっちは士気も下がりまくっててさ……」

「凄くはないさ、必死にやってるだけだ」

「凄いよ、同じ炎術師同士で五人も相手にして」

「……俺たち炎術使いはこうして武功を立てるしか生きていく方法がないからな……」

「ヴァルター、手を引けない……?」

 すぐに返事はなかった。うつむき気味に少しの間黙ったままの時間が過ぎた。

「うちは……ここの領主と親戚なんだ。爺さんよりも前の世代からずっとよくしてもらってる。戦場から逃げ出すようなことは出来ない。子供も三人いるんだ……無理だ」

 ヴァルターの返事に私はこれ以上何も言えなかった。

「分かってる……分かってるよ、うん、分かってる。ただ……ちょっと聞いてみただけ」

 私は兜を被り直した。

「……もう、帰るね。このことは誰にも言わないから……」

 天幕から出る私の背中からヴァルターの声が聞こえる。

「俺は……本気でいくからな……」

 私は返事をしなかった、否……出来なかった。ただ足早にその場を後にした。
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