浅葱色の桜

初音

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伝通院から①

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 文久三(一八六三)年 二月

 浪士組への参加希望者が、小石川の伝通院に集まった。
「おいおい、こんなにいるのかよ!?新八っつぁん、集まるのはせいぜい五十人くらいって言ってたじゃねえかよ」
 皆の気持ちを代弁したのは左之助だ。
「ああ。正直言って、想定外だ」
 新八は目の前の群衆を見た。集まった浪士はゆうに二百人は越えていて、伝通院の広い境内をもってしても志願者を収容できそうになかった。
「やっぱり、五十両が目当てなんですかねー」
 平助が腕を組んで眉間に皺を寄せた。
「大方はそうだろうな。もっとも、この人数では本当に五十両がもらえるのかは怪しいが……」山南は境内の奥の方まで見ようと首を伸ばした。
「それにしても、本当にいろんな連中がいるな」歳三があたりを見回した。
 腰に刀を差した侍風の者もいたが、同じくらい、どこの馬の骨だと言いたくなるようなみすぼらしい者も多かった。
「月代、却って浮くだろうか…」さくらは自分の頭を撫でながら心配そうに言った。まだ頭上にすーすーと当たる風の感覚に慣れず、時折こうしてつい自分の頭を触ってしまう。
「気にすんな。誰も周りのやつのことなんか気にしてねえよ」
 歳三に言われて周囲を見てみると、確かに皆仲間内で固まって五十両の使い道などについて話し込んでいるようだった。
 集まった浪士達はそれからしばらく待ったが、集合時間だと言われた時間をとうに過ぎてしまい、徐々に不安そうにざわつき始めた。
「山岡さんがどこかにいるはずだ。探して聞いてみる」勇がそう言うので、さくらも続こうとしたが歳三に止められた。
「サク、お前はここにいろ。目立った行動はするな」
 さくらはそれもそうだと頷き、結局「大将はどんと構えてろ」と、歳三、山南、新八の三人が人ごみをかき分けて行ってしまった。
 ちなみに「サク」というのは、さくらの偽名「島崎朔太郎しまざきさくたろう」の「サク」である。本当は「島崎周助」にしようとしていたが、「なんだか父上を呼び捨てにしているようで忍びない」と勇が言ったのと、誰かががうっかり「さくら」と呼んでしまってもごまかしの利く名前の方がいいだろうという歳三の提案で、こうなった。
 やがて戻ってきた歳三たちは、なぜか疲れきったような顔をしていた。
「皆考えることは同じですね。山岡さんに取り次いでもらえるまでに時間がかかってしまった」新八が言った。
「なんでも、浪士取締役の松平主税助様が、急遽取締役を辞任されたとか。それで、その後の対応に追われているようで、今日は我々に構っている余裕はなさそうです」山南が状況を説明した。
 なんだそれ、とさくら達は文句を垂れたが、程なくして役人風の男から指示があった。
 今日のところは、正確な人数把握と役割分けのために、名前だけ書いたら解散、ということになるらしかった。また、五十両は払えない、おそらく一人頭十両程度になるだろうという話だった。
 大多数の者は順番に名前を書いていったが、中には五十両がもらえないなら、と書かずに帰ってしまう者もいた。
 さくら達の番がやってきた。
 まずは勇が「御府内浪士 近藤勇」と記入した。歳三、総司、山南と続き、さくらも自分の名前を記入した。
「近藤勇門人 島崎朔太郎」
 受付を担当していた役人は、その名前とさくらの顔を一瞬見たが、気にも留めない風で「次の方」と呼び、新八が何事もなかったかのように「松前脱藩 永倉新八」と書いた。
 ひとまずは、さくらの正体はばれなかったと安堵し、一同は数日後の「再集合の日」を迎えた。
 今度は、いよいよ隊割の発表だった。
 勇は「先番宿割」という、各宿場町で浪士達の宿を抑える担当に任ぜられた。
 それ以外の試衛館出身者達は、全員平の浪士として六番組に振り分けられた。と思っていたが、なぜか源三郎だけ三番組に振り分けられていた。
「なんでだ?」源三郎は不満そうな表情を浮かべ、さくら達を見た。
「あれじゃないですか?源さん最後に名前書いたから、境目が変わってしまったとか」総司が言った。
 源三郎は、そうか、と言うと、寂しそうに三番組の集合場所に向かっていった。勇は宿割の説明を受けに別の場所に呼ばれていき、さくら達は、六番組の集合場所に向かった。
 そこには、一様にいかつい雰囲気を醸し出す男たちがすでに集まっていた。
「市ヶ谷試衛館から参りました島崎朔太郎と申します。よろしくお願い致します」
 誰が誰やらわからないので、ひとまず先手を打って自己紹介をした。さくらに続き、山南、歳三、総司、と順々に挨拶していく。
 すると、目の前にいた隻眼せきがんの男が反応した。
「よろしくな。水戸脱藩、神道無念流、平山五郎だ」
「同じく、平間重助」
「野口健司」
 連れと思しき二人の男も挨拶した。野口が最年少のようで、平間は目尻に皺のある小柄な男だった。
 口を開けば、彼らの厳めしさも多少は和らいだ。
「芹沢さん、行かなくていいんですかい?新見さんは行っちまいましたよ」平山が近くの石段に座っていた男に声をかけた。
 男はその声に反応してこちらを見た。
 
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