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四大校駅伝競争 ――第一回箱根駅伝①
しおりを挟むこうして、二人はまたトレーニングを再開していた。武雄が走るのを、悉乃が自転車で追いかける。この日常が戻ってきたことが悉乃は嬉しくて仕方がなかった。
だが、ほどなくして悉乃にとっては新たな心配の種が増えることになる。
「ア、アメリカ横断!?」
悉乃は思わず大きな声を出してしまった。今日は武雄と新宿まで走ってきて、新宿御苑の木漏れ日の下、休憩を取っている。そこで武雄が、次は二月に駅伝があるのだと話した。なんでも、それを足掛かりにアメリカでも駅伝をやるという話が持ち上がっているらしい。
「そうなんです。金栗先生が、もう日本は走りつくしてしまったので次はアメリカだとおっしゃって」
嬉しそうに話す武雄に反し、悉乃の表情はこわばっていく。
「そ、そんなこと言ったって、無謀ですわ。アメリカって、日本列島が何個も入る大きさなんですのよ! いくらみんなで交代するからって……気候も違いますし、何日かかるかわからないし……」
ここで悉乃は素朴な疑問を抱いた。
「オリンピックはどうしたんですの。今年、ええと、どこかヨーロッパで、開かれるんでしょう?」
すでに年が明け、一九二〇年・オリンピック開催の年に入っている。アメリカに行っている場合ではないのではないか。
ああ、と武雄は顔を曇らせた。
「四年前、ベルリンオリンピックが戦争で中止になったのは話しましたよね?」
「ええ。でも、戦争は確か一昨年の暮れには終わったって……」
「そうなんですが、そこからとてもオリンピックをできるほどに街が復興していないとかで。特に屋外を走るマラソンは、コースの確保が難しいらしくて……」
今年、武雄がオリンピックに行けるかどうか以前に、オリンピックそのものの開催が危ぶまれている。かつて、「オリンピックに出たい」と言っていた武雄の顔を思い出して、悉乃は胸が締め付けらるような思いがした。
「それでも、オリンピックに行けなくても世界を走ることはできるんです。それが、アメリカ横断計画なんです。これを成し遂げれば、さらに四年後のオリンピックにもきっと役に立ちます」
一転して笑顔を見せる武雄に、悉乃はもう何も言えなかった。オリンピックという夢舞台がなくなったとしても、前を向いて突き進む武雄に、どうして水を差すようなことが言えようか。
だが、武雄は悉乃の表情から察知したらしく、「心配には及びません」と力強く言った。
「僕は必ずやり遂げてみせますよ。まずは来月十四日の駅伝、前哨戦ということで東京と箱根を往復するんです。今のところ、僕はアンカーに決まっています!」
聞けば、アンカーというのは交代で走る人員のうち、最後に走る人のことを言うらしい。他を抜かして一等になるのも、抜かされて最下位になるのも、アンカーにかかっているといえる。重要な役どころなのだと、武雄は胸を張った。
「僕が走るのは、二日目の昼頃になる予定です。ゴールは有楽町になるから、待っていてください」
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