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原始・古代

枠ははみ出すべきもの

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11月25日(日)  晴れ


 「今日は何の日だったでしょう?」

 あんバタートーストを幸福感に満ち溢れた表情で食べている人妻に、期待に胸を膨らませつつ問う。
 ちなみにうちの頭の中では小学生あたりまで観ていたテレビの、『今日は何の日?ふっふ~♪』が流れている。
 みーちはスマホで日付をしっかりと確認してから口を開いた。

 「えぇー…?お姉さんとかなちゃんと3人で出掛けた日?」
 「うぅーっ……そうだけど違うっ!『うちが退院した日』って言うのが模範解答でしょー」

 質問者が満足する返しをしてよ。それを期待して聞いているんだから。質問時の胸の高鳴りを返してよ。
 心の中でぶつくさ文句を言い募っていたら、そこに素朴な疑問を投げ掛けられた。

 「…あれ?お見舞いの翌日に退院だったっけ?」
 「そうだよ」

 我ながら中々シュールな入院日程だと思ったよ。
 お見舞いの次の日に退院するって、(お見舞いに行かなくても、どうせ直ぐに会えたじゃん)って万人が思ってしまう所業だよね。況してや病院の場所が家から徒歩圏内だったし。

 「あと、気を失いたいって本気でうちが思った日だよ」
 「どしたよ……」

 ヤバい奴を見るかのように差別的な視線を向けながら言われた。 
 でもね、忘れたとは言わせないよ。だってある意味君が諸悪の根源だったんだから。

 「あれは、お昼に帰って来てすぐの事じゃった……」 
 「なんで語り口がババァ……」


《小話 子ども兵士》

 約1週間ぶりに家に帰って来られた。
 リビングの端には、当時まだ2才の花奏ちゃんのタックル対策でうちの特等席をお母ちゃんが作っていてくれていた。感謝。
 迷わずそこに座り、久しぶりに会ううちに照れを発揮して、みーちに抱き付いている花奏ちゃんを温かく観察。
 そんな娘に母親は切り出した。

 「かなちゃん、あーちに聞きたい事あるんでしょ?ほら、聞いておいで。でも触っちゃダメだよ」
 「うんっ!」

 頭全部を使って思いきり頷いたふくふくした幼児は、親元を離れてこちらにぽてぽて向かって来た。可愛い。もちもち。
 目の前で立ち止まって見上げてくる姪っ子に顔が緩みまくる。
 
 「聞きたいことってなーに?」

 顔を近付けて聞いてみた。

 「あのねー……おまえなんですか?」

 ゴフッ!

 「ぐぁぁぁぁぁっ!」

 手術で縫ったお腹が笑ったせいで悲鳴を全力で上げてきた。痛みで涙も出てきた。
 苦しむうちを見かねて、みーちがスナイパーに訂正を入れた。

 「かなちゃん!違うでしょ…『おなまえなんですか?』って聞くんでしょ」
 「しょーだった!あーち、おまえなんですか?」

 「ぐっ!ぐぁぁぁぁぁぁっ!」

 室内に響き渡る、うちの絶叫。
 徹底的に止めを刺しにきた。
 術後、くしゃみや咳をしないように徹底的に注意を払ってきたのに、まさかの刺客だった。
 痛すぎて白目を剥いて気絶したいって人生で初めて思った。白目出来ないけど。

 いや、「お名前何ですか?」って聞きたいんだろうなって言うのは直ぐに分かったよ?
 でも「お前何なんだよ?」とか、「お前の態度何だよ」、「お前何者だよ」って、花奏ちゃんがうちの存在意義を聞いてきているのを想像してしまい地獄を見た。

 もう腹腔鏡手術はしたくない。
                                             完



 「思い出した?」
 「うん……カオスだったよね」

 カオスってどの口が言ってるんだ。アサシンにGOサインを出した雇い主でしょ。
 今改めて考え直すと、「触っちゃダメ」は、「触らずとも殺れるよ!」って意味だったのでは?と思わなくもない。
 しかし、この何とも言えない空気の中、敢えてちゃっかりとリクエストをしてみる。

 「退院1周年記念なんで、夕飯は醤油ラーメンでお願いします」
 「1周年ってか、まさにその日に戻ってるじゃん」
 「はっ…!」
 
 自分のアホさに驚いた。
 1周年記念は元の時間に戻ってからじゃないと不可能だった。
 でももう醤油ラーメンを食べる腹積もりだったから、今更予定変更はしたくない。斯くなる上は、ある程度の譲歩の姿勢を見せるしかないっ…。

 「うぅー…ラーメン食べたいよう。みーちの分も作るからー」
 「私のは味噌で」
 「良いの!?バターも付けるねっ♪」

 逆にリクエストされたけど、割とすんなり勝ち取れた。
 インスタントラーメンを作れるくらいの生活力が自分にあって本当に良かった。
 ふふふっ♪ワカメ沢山入れよう。
 一色家でお味噌汁にワカメを入れるところだけ買って出て、「今日ワカメめちゃめちゃ多くない?」っていっさんに軽く怒られた思い出があるけど入れよう。

 「では、各々方持ち場へ参りましょう」
 「なんで語り口が女武将風なの?」
  
 今日も楽しく過ごせそうです。


*****

夕方   曇り


 「しゃしゃしゃしゃしゃーっ!」

 完成を両手ガッツポーズで表現してみた。
 みーちは不快感を眉毛で表現してきた。

 「難しかったわー。戦いの記録を見ておくれ」
 「見ないとずっとしつこいから見るよ」

 し、しつこくなんて無いもん。
 どちらかと言えば他人に興味が薄い方だよ。 


【わたにほ】
《縄文part3》 もちろんワイドショー風にねっ♪

〔後期ー約4千年前~約3千年前〕

□約4500年前から再び徐々に寒冷化してゆき、中期に最大26万人ほどになった人口は、16万人にまで減少! *1

□犬歯や下の前歯を抜く、[抜歯]の風習が盛んになる!……何らかの通過儀礼?

□この頃、[織物]が普及してきたと考えられる。また、環形や円形の土製のイヤリングも各地で大量に出土!
 身に付けるものに大きな変化が出た転換期と言える。


<後期の土器はコレっ!>

 器形の多様化で色々な形の土器が出土!しかし手法の簡素化&ルールの確立で、広範囲で共通性が出た。

注口ちゅうこう土器:急須のような形で、把手もある。

磨消すりけし縄文:(手法)最初にほぼ全面に縄文をつけてから、ヘラで区画線を描き、区画外の文様を磨り消す。北海道~九州北半までの広範囲で確認!


<代表的な遺跡はコレっ!>

大湯環状列石おおゆかんじょうれっせき @秋田県

・東の[野中堂環状列石]と西の[万座環状列石]からなる。
・2つとも同心円状に石を配した2重の環状構成。◎←これ。
・2つの間の距離は90m!な、なんとこれは2つの外側の直径を足した数値と同じ!(野は42m、万は48m)
・2つの列石の中には、それぞれ“日時計”と呼ばれる、大きな立石の回りに放射状に石を円形に並べたものがある。←太陽の運行に関心があったのか!?


■この頃世界では…■

・紀元前1760年頃、ハムラビ法典を作成
・紀元前1600年頃、中国最古の王朝、殷王朝が興る&東南アジアで米の栽培が始まる!



〔晩期ー約3千年前~約2500年前〕

□ついに人口は8万人ほどに減少! *2
 しかし!技術・暮らし共に更なる発展を遂げる。


<晩期の土器はコレっ!>

・亀ヶ岡式土器:精巧な文様が描かれ、赤色塗料が塗られているのが特徴。東日本一帯!

黒色磨研こくしょくまけん土器:焼く前にヘラで表面を磨き上げ、焼成の最後に燻して真っ黒にした、艶々とした質感にしたもの。色んな種類があるが、全てデザイン・色・質感が統一されている。朝鮮の影響を受けた西日本のもの。


<代表的な遺跡はコレっ!>

◎菜畑遺跡 @佐賀県

・日本最古の水田跡が検出された!
・水田は4枚で、水路と畦畔けいはんで区画されている。
 
 ★縄文時代に既に稲作していた!


■この頃世界では…■

・紀元前776年、第1回古代オリンピア競技会開催!
・紀元前753年頃、都市国家ローマ建国!
・紀元前555年頃、ガウタマ=シッダールタ&孔子が誕生!


〈縄文時代全体を通しての事!〉

・[屈葬くっそう]:死者を膝を抱えたような姿勢で埋葬するもの。←母胎の中にいる時と同じ姿勢にして再生を願った?掘る穴を小さくするため?

・[土偶]:女性をモチーフにしたものが多い。←生殖力や生命の神秘性で?
 しかし、最初から壊すことを前提として作ったと考えられるものも多数ある!←病気や怪我の身代わりとして使用した?

・[アニミズム]:語源の「アニマ」はラテン語で『魂』のこと。自然物(海、山、草木、獣‥)には精霊が宿っていて、人間は自然の一部と考えていたらしい。


◯まとめ◯

・定住により、人々は仲間意識が強くなっていった。
・土器の出現により、「煮る」や「貯蔵」が容易になった。
・稲作は縄文時代から!
・大陸を含めた遠方との交易や交流が行われていた。
・埋葬方法や抜歯など、社会的な共通ルールがあった。


*1:16万人は東京都の中央区とほぼ同じ!
*2:8万人は東京都の狛江市とほぼ同じ!
(1364字)

☆諸説あり!
☆あくまで個人の意見です!
                              To be continued…


 「超大作でしたな」
 「詰め込んだね……」

 感慨深いわー。
 もうすぐで紀元前が終わるってところまでこぎ着けたよ。
 あれ?目から光るものが………出ない。ドライアーイ。

 「質問はー……あーちは王朝の存在を信じて無いの?」
 「はへ?」

 何だろう。
 この「都市伝説を信じないのか?」みたいな質問は…。
 みーちの顔には一切の笑みも無く、真顔。

 この顔は信じている人のソレだっ…。

 でも信じる信じない以前の問題で、うちは知らないんだよ。今まさに【無知の知】を体感しているよ。
 そして、うちの信条としては、分からないことは知っている人に聞くのが1番手っ取り早いと常々思っている。時短時短。

 「そもそも夏王朝はいつの話なの?」
 「紀元前2070年頃だよ」
 「へ?……殷王朝が最古の王朝ってなっているのにその前なの?」
 「そう。伝説の王朝なの」

 歴史ミステリーが生まれた。
 みーちが世界史を花奏ちゃんに、是非ちゃんと教えてあげれば良いと思う。
 てか、夏王朝が気になってしまった。元の時間に戻っても覚えていたら本でも借りて読もう。…来月には忘れている自信があるけど。

 「他の質問は?」
 「縄文人の平均寿命は何歳だったの?」

 旧石器時代の時の答えられなかった悔しさがフラッシュバック!
 しかし、同じてつは踏まない女だよ、うちは。

 「みーてぃは何歳くらいだったって思ってるの?」

 麻来は質問を質問で返すウザい手を使った!
 実々は少し困惑したが、すぐに口元を引き締めて考え出した!

 「んー…28歳くらいかな?」

 まさかの縄文時代だったら、うちらはもう死んでいるって答えだった。
 でも………惜しいっ!

 「正解は平均寿命は31歳位。で、寿命は約40歳だって」
 「ニヤピンだ」

 縄文時代だったらアラサーは良い大人ってことなんだね。
 ちなみに身長は158cmくらいだったらしいから、150前半のうちらはどっちにしろ、ちょまんとした小人のままだったよ。
 みーちからの質問はもう無さそうなので、ここでクイズ!

 チャチャンッ!

 「縄文人は虫歯が多かったんですが、それは何故でしょー?」

 ちちちちちちちちちっ……カンカンカンッ!(脳内での音)

 「果糖を沢山摂ってたから?」
 「ぐうぅっ!……正解!炭水化物の木の実は口の中で糖になるから虫歯になったの」

 虫歯で歯が抜け落ちるから、無理矢理抜歯しなくても良かったんじゃ?って思うよね。
 ちなみにうちは30年間虫歯ゼロでやっています。唯一自慢出来ることだったりします。いぇい。

 「でさ、これはクイズじゃなくて確認なんだけど、家庭科で幼児期にアニミズムが出てくるってやったよね?それで花奏ちゃんはその幼児なわけなんだけど、アニミズム要素皆無だよね?」
 「なんかそんな事を習った気はする。でも、かなちゃんはリアリストだから……」
 「あっ……うん」

 そうなんだよね。
 我らが癒しのマスコットの花奏ちゃんは枠にはまらない。「教科書通り?……フッ!笑止」って言っちゃいそうなお子様なのだ。


《小話 歯磨き》

 花奏ちゃんは歯磨きがめちゃめちゃ嫌い。

 みーちから磨くように渡された歯ブラシを、パクッと口に3秒咥えただけで、「きれーになたよー」と言って終わらせようとするくらい嫌い。

 そこで麻来おばちゃんは考えた。
 ぬいぐるみと楽しく一緒にやれば良いじゃない!と。
 花奏ちゃんのお気に入りのパペットを装着し、声を変えて姪に話し掛ける。

 「花奏ちゃん!一緒にシャカシャカ歯磨きしよー♪」
 「いいよー」

 笑顔で応じてくれた。
パペットに歯磨きをするフリをしつつ、花奏ちゃんに話し掛け続けるのを怠らないようにした。
 そして、無事に完了。
 感無量だった。

 「花奏ちゃん!1人で歯磨き出来て偉かったね♪凄い凄いっ!」

 パペットを指の限界まで激しく動かして褒めちぎる。
 それに対して花奏ちゃんは、はにかみながら言った。

 「あーち、ありがと」

 パペットを持つうちの目を真っ直ぐ見て。
 羞恥心で気がおかしくなるかと思った。
                   完


 「じゃ、終わったしラーメンを作りますかー」
 「よろしくー」



11/25(Sun)

 気付けば日本史をまとめて1週間が経ちました。
 1週間で紀元前5Cまで来たってことは良いペースなのでは?と思わなくもない。いや、油断は良くない。

 そんなこんなで縄文時代が幕を閉じました。
 最後のまとめを打っている時に、ふいに思ったことがある。
 青森県で茶碗蒸しに栗の甘露煮を入れるのは、もしかして三内丸山で栗を栽培していた事が由来なのかなって。

 ラーメンは美味しく出来たけど、昨日から楽しみで期待値を上げすぎたばかりに、感動が薄れてしまった。あるあるですね。

 明日は図書館に行かないと弥生の情報が足りない。
 英国紳士と天使にまた逢えるかな?
                  おわり

[字数 6488+1364=7852]
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