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原始・古代

実々:私の役割

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 約一週間ぶりの夢の世界……

 相変わらず竹林と梅の木、そしてうどん屋……じゃなかった、『山陰亭』と書かれた神様の書斎っぽい小屋以外は真っ白な世界に私は来ていた。そして再びの巫女ルック…。

 一度既にタイマンでお話ししてるから緊張は余りしていない。
 ただ、ずっと聞きたかったこと、言いたかったことがある。その内容のせいで少し足と拳が震えている。
 『はぁ…あーちの奴め』と、今この場に居ない人間に一度思いを飛ばす。
 ……よし、行くか。
 私は意を決して扉を開けた。

 ガララララッ!
 
 中は前回と変わらず本やら木簡やらでビッチリと壁が埋まっていた。
 そして玄関を上がったところに死刑台…もとい、丸い座布団が二枚。

 まぁ予想通りこの部屋の主人が座って居た。
 本日は白いコットンシャツの上から黒色のカーディガンを羽織り、チノパンといったスタイルだった。
 ……神様は洗濯はどうしているんだろうか。
 ちゃんと洗濯に出す時シャツとかパンツひっくり返して出しているんだろうか?洗濯ネットにカーディガンはちゃんと入れてるんだろうか?

 ……はっ!!

 ついつい洗濯事情が気になってしまって一瞬呆けてしまった。
 というかまだ扉開けて一歩入ったところだった。
 それに何より挨拶もまだだったわ!!

 「お、お久しぶりです!お、お邪魔しますっ!!」
 
 と、キョドりながら挨拶をした後、私は慌てて後ろを向き、開きっぱなしだった扉をそっと閉めた。
 そして草履を脱ぎ、死刑台…じゃなかった、座布団へ向かう。

 多神さんの向かいの位置に行き、腰を下ろした。あっ!もちろん正座ね☆
 多神さんを正面に見据えて座ると多神さんはなんとも言えない表情をしていた。……洗濯の声漏れてた?いや、まさかね⁇

 「…コホンッ!よく来たな。」
 
 と、なんともわざとらしい咳払いを一つして多神さんは出迎えてくれた。
 私も改めて挨拶を返す。

 「約一週間ぶりですね、お邪魔します」

 本当はこんなに早く再会する予定はなかった。
 というかもう早々会うことも無いだろうと思っていた。

 なのに…それもこれもあーちの所為だ!!

 思わず多神さんの前なのにあーちに対する思い出しイライラが募って下を向いてしまう。……くっ、前を向け実々!
 前回とは違った意味で重い頭を無理矢理上げて、多神さんに向き合う。よし、言うぞっ!

 「あ、あのっ!多神さ……あ、違った!神様!!あーちが本当にすみませんでしたっ!」

 ここは誠意を見せて土下座だ。
 今回の件に関しては土下座に対する抵抗とか全然ない。だってちゃんと謝らないとだし。
 ここでは母に代わって私があーちの保護者だから…。
 そして数秒の後、ゆっくり頭を上げる。
 そして改めて多神さんの表情を窺う……何とも言えない表情をしていた。困ったような、笑いを堪えているような、そして僅かに同情されているような。

 まぁ、早々に謝罪&土下座が来たらそうなるか。
 私は姿勢を改めて整え、謝罪の理由を説明することにした。

 「えっと、先ず…あっ、生活費と図書カードありがとうございました。大事に使わせて頂きます」
 「…うむ」
 「その…、先週あーちが神様に『参考文献は文字数に入りますか?って聞こうとしたら先に神様にダメって言われたの』って言ってきました。そしてそのまま、『もしかして盗聴されてる?』なんて失礼なことを。それにその前にはジダン…じゃなかった、頭突きまでしてしまった…と。ほ、本当にすみませんでしたっ!!」

 無意識に上げていた頭がまた下がった。
 今改めて思い出してもあーちが100%失礼だし、100%悪かった。
 普通第三者の聞き手は話し手の話からそっちの味方になるパターンが多いけど、今回の話ではあーちの味方にはなれなかった。…ジダンはダメだ。リトル実々もレッドカードを出している。
 多神さんはその時を思い出したのか少し遠い目をしていた。
 しかし、この場に私が居ることを思い出したのか一瞬でこちらの世界に帰ってきて、慌てるように、

 「あ…あれなっ、あれに関しては汝が気に止むことはない。頭突きに関しても不幸な事故だった。だからその、な?そんなに頭を低くしないで良い」

と、仰ってくれた。
 な、なんて心が広いんだろう。頭突きされて倒れたのに赦せるなんてっ!!

 「ほ、本当にすみませんでした、許してくれてありがとうございます!!」

 私は特に信心深くはないが、今この時ばかりはこの神様を凄く信仰したいと思った。
 取り敢えず謝罪は済んだ。
 次は質問タイムだ。私は再び土下座に近い姿勢を正して、多神さんに視線を合わせた。

 「えっと…質問しても良いでしょうか」
 「うむ。…余が答えられる範囲でなら構わないぞ」

 よし、多神さんからOKが出た。
 よし、
 よし、
 よし、
 聞くぞ。行けっ自分!!

 「わ、『わたし日本史まとめるし』ってタイトルとあーちの纏め方は神様的には問題ありませんか?」

 き、聞けた!聞けたよ!でかした自分っ!
 リトル実々も片手で紙吹雪、もう片方の手でパフパフ音が鳴るやつを器用に鳴らして褒めてくれている。…あ、ありがとう。
 多神さんの返答を頭の中でパーリィしながら待っていたら『苦笑』『苦悶』『苦渋』というような苦い顔でおもむろに口を開いた。

 「…まぁ、表題に思うところが無いと言えば嘘になる。が、纏め方に関しては麻来に一任している。内容自体は脱線しているわけでもなく、ちゃんと史実に基いて纏めてあるからまぁ……良いだろう」

 何とも大人な返答だった。
 でも『良いだろう』の言葉の前に微妙に間があったのは何かを堪えていたんだろうか?

 「…なら、良かったです。次に、私のあーちの纏めに対する質問って必要ですかね?」

 私個人としては一般人代表として読んでみて、疑問に思ったことをあーちに尋ねて、答えを貰ってまた内容の理解を深めるっていう流れは悪く無いけど、多神さん的には『要らなくね?』ってなってたらまた何か考えたいと思うし……。
 と、一人で改めて考えていたら、

 「先ほども言った通り、纏めは麻来に一任している。麻来は其方の娘の花奏が歴史を理解出来るようにと作っているのだろう?ただの読み物なら教科書で十分だ。そして先ほど其方が思っていた通り、読むと理解するでは大きく違う。其方が質問することでまた纏めが深くなっているのなら必要なのではないか?」

 おおぅ…学校の先生のような回答がきた。
 私もあーちの纏めに貢献出来ているのならそれは嬉しい。心から良かったと素直に思えた。

 「はい、ありがとうございます!!」

 思わず笑顔が溢れてしまった。
 多神さんも優しく頷いてくれて、本当に先生みたいだった。…これからはそっと心の中で『先生』と仰ごう。
 最後に私的にはどうでも良いが、でもどこか気になる疑問を解決して貰ってこの場を去ろう。

 「えっと、最後に一つ良いでしょうか?」

 先ずは先生に許可を貰う。

 「うむ。言ってみろ」

 よし、許可が降りた。

 「えっと…まな板の豚の傷は直りますか?」
 「…は?」

 これぞキョトン顔!という顔で先生、もとい多神さんは固まってしまった。

 「あーちがこの間、包丁で豚の形をしたまな板を殺っちゃったんです。後ろ足の付け根のところに深い傷が出来てしまって…直りますかね?」

 私はまな板が豚のシルエットをしていることで、切った食材が溢れやすいあのまな板が好きではない。
 なぜ四角じゃないのか?という疑問があのまな板を見る度に過ぎる。
 しかし、あのまな板に罪はない。
 あーちに殺られた被害者…もとい、被害豚だ。普通に可哀想…。生活傷どころじゃない、あれは立派な殺豚だった。
 1年後に元の世界に戻ったときにあの豚が殺されたままなのは、とてもじゃないが心が痛む。
 多神さんの方を伺うと……フリーズしていた。
 そして実際は数秒だが、体感としては数分の沈黙の後……

 「だ、大丈夫だ。その…豚のまな板は元の世界に戻るときには以前に使っていた状態に戻る。他の家具とか食器もな。……これで良いか?」

と、理想の答えをくれた。

 おおっ!なんと便利な世界でしょう…。
 たまに食器をほんのちょっぴり欠いちゃったり、掃除機が思わぬアタックをして壁を傷付けたり、という不幸な傷も元どおりなんて!
 そして何よりも、良かったな!まな板の豚ちゃんよ!君は一年後に蘇るぞ!
 …おっといけない、多神さんに返事を忘れるところだった☆

 「ありがとうございます!これでモヤモヤがスッキリ晴れました」
と、お礼の気持ちを込めて笑顔で返したら多神さんからは、

 「…そうか」
 
と、どこか曇ったような返事が来た。
 最後に全然関係ない質問しちゃったからかな?
 でも聞きたいことがあるなら聞けって言ってたのは多神さんだから気にしない。

 「今日のところは以上です。長々とありがとうございました。また今後ともあーち共々宜しくお願い致します」

 頭を最後に深く一つ下げて伝える。
 多神さんから一つ頷いたような気配を感じたので頭を上げる。
 そして軽く頭を下げて立ち上がり、玄関へ向かう。

 草履を履いている時に、ふと思い出した。
 あ、そうだ!聞きたいことがあと一つあったんだった!

 「あ、神様!この世界で友達とか知り合いが出来たらどうなるんですか?つい先日、一日で素敵なおじ様と、天使のような司書さんと知り合えたんです!やっぱり元の世界に戻ったら他人になっちゃいますか?」

 天ちゃんやおじ様と縁が切れるのは寂しいなぁ…と思い、多神さんの方を見……

 「…ガッハッ!ゴホッゴッホ!」

…る前からめっちゃ咳き込んでいた。
 急に持病でも発症したのか?ってくらいのヤバさ加減で思わず履いた草履を急いで脱いで多神さんに駆け寄り、背中をさすってあげた。

 「だ、大丈夫ですか!?いや、大丈夫じゃないのは見てわかるんですけど…」
 「ゴホッゴッホ…ゲホッ!」

 あばばばば、どうしちゃったんだ多神さんは!?
 ちっとも治らない…。
 心なしかなんか涙目になってるし、なんかお水とかないのかなぁ?と、辺りを見回すが本だらけだった。
 唯一水気があるのは硯に溜まっていた墨汁くらい…。

 ……墨汁は流石にダメだわ。

 どうしよう、どうしようと考えつつ多神さんの背中をさすり続ける。
 すると徐々に視界が白く染まっていき…

 多神さんの背中をさすっていた手の感覚も次第に薄れ…

 靄がかかるように意識が遠のいていくのを感じた。


 意識がなくなる最後の瞬間まで多神さんの咳が止まることはなかった。


 シャララララ~ラ…もぞっ…プチッ。

 「ええーっ……!?…咳込んで終わり?」



*****

11月25日(日)  晴れ


 「今日は何の日だったでしょう?」

 朝食のあんバタートーストをパクついていたらあーちが急に質問をぶち込んできた。
 …出たな、彼女もどき。
 しかし私は焦らない。
 片手でパンを持ち、もう片方の手でスマホを開き、日付を確認する。
 1年前の今日の自分は何をしていたか記憶の引き出しから探して取り出していく。
 …あ、これかな?

 「えぇー…?お姉さんとかなちゃんと3人で出掛けた日?」

 あーちが入院して行けなくなった替わりに、紅茶が安く買えて、尚且つ試飲し放題のイベントにお姉さんとかなちゃんと3人で出掛けた日だ。
 どうどう?合ってるでしょ?と期待を込めつつあーちを見ると、

 「うぅーっ……そうだけど違うっ!『うちが退院した日』って言うのが模範解答でしょー」

と、悔しそうに言ってきた。
 …合ってるやん。
 あーちの退院日よりも、お茶のイベントの方が私が関わってるから覚えてるの仕方なくない?
というか、

 「…あれ?お見舞いの翌日に退院だったっけ?」

 私、前日にお見舞い行ってるよね?

 「そうだよ」

 あれ?お見舞いの意味…?

 「あと、気を失いたいって本気でうちが思った日だよ」

 あーちが急に一年前を懐かしむように遠い目をしだした。

 「どしたよ……」

 どしたよ…?思わず冷ややかな視線を送ってしまった。
 しかし、あーちの口は止まらなかった。

 「あれは、お昼に帰って来てすぐの事じゃった……」
 「なんで語り口がババァ……」

 思わず『ババァ』って咄嗟にツッコミしたけど、『じゃった』って今どきのお婆ちゃんは言うんだろうか?
 取り敢えず田舎の祖父母は言ってなかったな。
 そしてそのまま退院した日に起きた事件を朗々と語り出した。
 …パンの続き食べよう。


 ………………。[麻来の小話]


 「思い出した?」
 「うん……カオスだったよね」

 あー、あれは本当に笑えた。
 『お名前なんですか?』を『お前なんですか?』にどうしてもなっちゃうかなちゃん。
 悪気がないから怒れないしね…ププッ。それであーちが笑いを堪え切れずに絶叫するっていう…(笑)
 もうあれから一年経ってるのかぁ、としみじみ思っていたらあーちが、
 「退院1周年記念なんで、夕飯は醤油ラーメンでお願いします」
と、リクエストを打ち込んできたが、

 「1周年ってか、まさにその日に戻ってるじゃん」

 今日、退院おめでとうの日ですよ?お・ま・え・さん☆

 「はっ!」

 あーちは自分の馬鹿さ加減に自分でビックリしていた。
 しかしそこで食い下がらないのがあーち。
 情に訴える作戦に出てきた。

 「うぅー…ラーメン食べたいよう。みーちの分も作るからー」

 まぁ、たまには夜に麺類も良いか。
 お昼にお米食べよう。

 「私のは味噌で」

 醤油も良いけど、やっぱり味噌が好き♡

 「良いの!?バターも付けるねっ♪」

 …バターは別に要らない。
 あーちはよっぽど夕飯のラーメンが嬉しかったのか、そこからニコニコが凄まじかった。
 そして朝食を終え、立ち上がりながら、

 「では、各々方持ち場へ参りましょう」

と、言ってきた。

 「なんで語り口が女武将風なの?」

 この陣営、二人しか居ませんけど…?
 そんな 変な空気で各々の午前が始まりを迎えるのだった。


*****

夕方

 「しゃしゃしゃしゃしゃーっ!」

 …なんか急に『しゃしゃしゃしゃ』聞こえてきた。
 音のする方へ視線を向けてみると、あーちがアスリートが勝利を全身で表しているかのように両手でガッツポーズをキメていた。
 思わず眉毛を中心に寄せながらあーちを見てしまうのは自然の摂理だろう。

 「難しかったわー。戦いの記録を見ておくれ」
 「見ないとずっとしつこいから見るよ」
 
 はいはい、といつものようにあーちの方へ行き、キンちゃんの前に腰掛ける。
 確か今日で縄文が最後って言ってたよね?
 あーちが私の横で何か表情で訴えてきていた気がするが、無視してキンちゃんに映された文字を読んでいく。
 どれどれ~?


 ……………………。[わたにほの内容]


 (強制的に抜歯されるとかイヤだな……。)
 (ん?中国最古の王朝が殷王朝?)
 (おっ!ついにお米が作られ始めたのね。) 

 ……………………。

 「超大作でしたな」
 「詰め込んだね……」
 
 おつおつー。
 なかなか良く纏められてるんじゃない?

 …だけど、これだけは言わせて!

 「質問はー……あーちは王朝の存在を信じて無いの?」
 「はへ?」

 あーちは急に何の話?と言った感じでフリーズした。
 おいおい、夏王朝について触れないと中国の方々に反感買っちゃうかもよ?
 私は『あったのかもね~』くらいだけど、大学の教授は『あったに違いない!』くらいの熱量だったから触れておかないときっとマズイ。
 あーちを真顔で見つめること数秒、あーちのフリーズが解け、口を開いた。

 「そもそも夏王朝はいつの話なの?」
 
 まぁ、そうなるよね。
 ならば、お答えしましょう!
 
 「紀元前2070年頃だよ」
 「へ?……殷王朝が最古の王朝ってなっているのにその前なの?」
 「そう。伝説の王朝なの」

 殷王朝が最初ってなると説明できない文明の後とかが遺ってるらしい。
 そもそも王朝ってよく考えたら凄いよね。
 それまで割と皆平等に暮らしていたんだろうに、ある日急にヒエラルキーが出来て、偉い人とそうじゃない人って出来るんだから。
 なんか神みたいな不思議な力を持つ人とかが生まれてそれを崇めているうちに身分制度とかが出来たのかなぁ?
 日本も天皇が『人間宣言』するまで神様みたいな扱いだったし。
 信仰が世の中の規律とか仕組みを作っていったのかしら?と、考えが横道に逸れていきそうになっていたらあーちが、

 「他の質問は?」

と、質問を催促してきた。
 (他の質問は実は決まってるんだなぁ~)と、思いつつあーちを正面に見据え口を開く。

 「縄文人の平均寿命は何歳だったの?」

 旧石器のときに答えて貰えなかった問題を縄文で改めて聞こう!

 「みーてぃは何歳くらいだったって思ってるの?」

 …まさかの質問返し!
 戦国時代で60歳まで生きたら凄い長生き!ってなってたことを考えると…

 「んー…28歳くらいかな?」

 縄文だったら私たちはもう死んでるね。

 「正解は平均寿命は31歳位。で、寿命は約40歳だって」
 「ニヤピンだ」

 結局もう間も無く死ぬところだったっていう。
 あーちは私からの質問がもうないことを悟ってか、逆にクイズを出してきた。

 「縄文人は虫歯が多かったんですが、それは何故でしょー?」

 うーん、木の実ばっかり食べてたって書いてあったから~……

 「果糖を沢山摂ってたから?」
 「ぐうぅっ!……正解!炭水化物の木の実は口の中で糖になるから虫歯になったの」
 
 いえーい☆当たった♪
 あーちの悔しそうな顔頂きました!

 「でさ、これはクイズじゃなくて確認なんだけど、家庭科で幼児期にアニミズムが出てくるってやったよね?それで花奏ちゃんはその幼児なわけなんだけど、アニミズム要素皆無だよね?」

 アニミズムね~、物にも魂が宿ってるよってやつか。

 「なんかそんな事を習った気はする。でも、かなちゃんはリアリストだから……」

 思わず自分の娘に想いを馳せる…。
 『アニミズム?何それ美味しいの?』って言いそうだな。

 「あっ……うん」

 あーちも何を思い出したのかわからないが、言葉を詰まらせていた。

***

少し前になるが、かなちゃんが散らかした積み木を踏ん付けてたから私は思わず、

 「積み木さん、かなちゃんに踏まれて『痛い!』って言ってるよ?」
と、言ったらかなちゃんは冷めた表情で、

 「積み木は喋らないよ?」と、返してきた。

 …ちげぇよ!
 遠回しに片付けろって言ってるの!と心の中で沢山ツッコミを入れてしまった。

 「積み木が傷付くし、踏んだらかなちゃんも積み木が尖ってて痛いから片付けて?」と、言い直したら、

 「あ、わかった~、でもママも一緒にお片付けしよ?」

と返ってきた。
 アニミズムはこの子にはないのか?
 しかし、たまにぬいぐるみをかなちゃんが自分で喋らせたりもするので、ごく稀に命が宿るパターンなのかもしれない…。


*****

 「じゃ、終わったしラーメンを作りますかー」
 「よろしくー」

 変な空気を変えるべく私たちは夕食へと気持ちを切り替えるのだった。



11月25日(日)

 今日は夢で多神さんと会って、ずっと言えなかったことと聞けなかったことを話すことが出来た。
 でもおじ様と天ちゃんのことの返事は聞けないままだった。あの咳は大丈夫だったのだろうか?
 心の中で無事を祈ることにする。

 夜の味噌ラーメンはワカメが多かった。上に乗ってるワカメが邪魔で最初はなかなか麺を食べることが出来なかった。

                  End...
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