上 下
1 / 3

一 イキナリ=イラナイコ宣言

しおりを挟む
「――あー、もう良いからとりあえず君はもういらないからね、お疲れさん」

 は?

 ……失敬、率然そつぜん余りの一句に図らずも頓狂とんきょうな声が漏れてしまいました。
 イラナイ? お役御免? まさかの居場所ロスト!?

 突如とした一語に私の脳髄のうずいたちまち情報の渋滞を来してしまいます。
 どう言う事でしょうか?
 先ずは先に大雑把ながら必要な情報データを洗いざらい掻き集めてみましょう。

 最初にイキナリ=イラナイコ宣言を受けてしまった私の名前は「ネモフィラ」。
 透き通るような白髪の、大きさ事態はそこそこ控えめなヴィクトリーローズに海色かいしょくあわまるい、大きな瞳がトレードマーク。

 そして今は此処、私立ポーチュラカ学園の白と青を基調とした、ワンピース調の大変、可愛らしい制服を着用しています。
 そう、私はまだまだ混沌たる社会の渦を知らない、醇朴じゅんぼくな女子学生なのです。
 そこへたった今、あたかも退学処分を匂わせるかのような一言をつきつけられたのです!

 酷い!

 そんな私を唐突に失脚へと追い込もうとしている、ゆるされ難き横暴をしでかしたヤツは今、目前で足を組み適当にあしらおうとしている男性教師。
 名は覚えるまでもありません、ですが利便上「カエル頭」とでも呼称しておきましょうか。

 この窓際教師は言うに事欠いて、私を頭痛の種としてきたのです。
 何故なら彼の担当する教科は「魔法」で、片や私は上手にその魔法が使えないのです。
 だから目障りなのか何時も私を親の敵みたく、授業中は毎度、私を引き立て役に用いてくるのです。

 今の今まで散々、良いようにコキ使ってきてからのこの仕打ちは一体なんなんですか!
 権力の前に全くの無力さに端無はたなくも虫酸が走ります。
 そして私が今、このタイミングで授業から追放されては魔法科の単位が取れません。

 この世界に於いて魔法科の単位は必要不可欠なのに、そんな事由で取得出来なかったら全く洒落しゃれになりません。
 今後のため、将来の揺るがぬ固定された約束されしレールのためにも、私はしかめっ面でもって断固講義を唱えます!

 しかしかのカエル頭野郎は首を横に振って、決して縦には振ってくれませんでした。
 確かに魔法はダメダメな私ですが唯一、座学だけは得意です。
 特に語学は大の得意で体育の実技意外なら基本、成績は常に主席をキープしています。

 ですがその成績を言い訳にしてもあのカエル頭野郎は一向にして、首を縦へは振ってくれませんでした。
 でも猶予ゆうよれました!
 およそ一ヶ月の猶予です。

 ……ってたったの一月ひとつきでどう、新たなる魔法を取得しろと言うのでしょうか!?
 うぅ……非常に困りました。
 卒業を目前とした絶体絶命の危機です。
しおりを挟む

処理中です...