そんな時は上を向くのさ。

安芸 瑞葉

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三 魔法について

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 ――それから一心、気合いを入れた私たちは今、何故か誰も居ない昼下がりの講義室の中にいます。
 あれ? 実技の方はしないのでしょうか?
 カルミアが「すわれ」と言うので、教わる側の私は一先ず反駁はんばくせずにもの大人しく最前列の、両側へ誰もいないド真ん中の席へとしとやかに着きます。
 そして一体、私は何をすれば良いのでしょうか?
 皆目検討が着きません。

 カルミアは得意げに教鞭きょうべんります。
 片や席へと着く私は現状、終始キョトンとしています。
 そして私の目前には魔法に関する教科書一式が机の上へズラり、と置かれています。

 これでは丸で座学もとい授業のいち風景ではありませんか。

 タン、タン、と教壇きょうだん護謨ゴム製のむちで叩いてからカルミアは淡々たんたんと教科書片手に述べ上げます。

「良いか、先ず実技へと入る前に予習がてら魔法に関する復習だ。先ず、魔法とは身体のエネルギーを恣意的しいてき顕現化けんげんかした、概念がいねん的総称だ。これを打ち出すには脳が神経を通じて『魔法よ出ろ!』と強く想う事で具現化する。それも事前に産まれてくる時に定められた、個体差のはげしい”魔力”と呼ばれる物の範疇内……でな」
「基本中の基本、基礎中の基礎な座学ね」
「ああ……だがネモフィラの場合は先ずこの基盤からクリアしていかねぇと意味がねぇんだ」
「……と言いますと?」
「ネモフィラ、先ず、一旦、声高らかに”魔法の杖”を持って〈来たれ火よ!〉と強く念じてみろ」
「……此処で、ですか?」
「ああ、此処で、だ」

 下手をすると火事になりませんか? と変に勘繰かんぐってしまう私。
 何せこの講義室は左右上下、何処を見渡しても自然のかおりが漂う木造なのです。
 謂わば可燃物もとい火にとっては重要なる火種でして……はたして、此処でぶっ放して良いものか、としばしの間、うちで思考を逡巡しゅんじゅんとさせます。

 まぁ、燃えたら燃えたで、カルミアが「やれ」と言ったからやりました、と弁明すれば事無きを得ましょうか?
 しかし実際にぶっ放すの、私なんですよね。
 仮に弁明したとしても正直、苦し紛れの詭弁きべんになりかねないのですが……ともかく今は、後を深く考えずにカルミアの言う通り、魔法が放てる、魔法の杖を持って強く念じます。

 そして、

「――来たれ火よっ!」

 と一喝いっかつを力一杯に入れるのですが、魔法の杖から出た物はボワッ、とした蠟燭ろうそくよりも小さき、炎らしき火の玉がちょろっと出ただけに終わってしまいました。
 ……あれ? この魔法の杖、やっぱり不良品か何かじゃあないですか?
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