皇女様の女騎士 番外編集

ねむりまき

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予想外の相談事 - ラドルフのひとりごと2(94話関連)

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本編「94.覚醒への期待」で出てきたアルフリードとラドルフの話。
******

「ラドルフさんお疲れ様です。お先に失礼します」

 本来の職場である、帝国図書館の資料課の仕事部屋。
 ここ連日は皇太子と皇女の側近業務と、合間を見て俺にしかできない資料課の仕事を並行させている日々が続いていたが、結局こっちの仕事は遅い時間まで処理できずに誰もが帰宅する中、一人きりで取り組むのが常になっていた。

 皇帝と公爵がふざけた名前の海産物 (リルリル)の毒牙に倒れ、次は皇太子の側近と化していたキャルン国の第2王女が過労で倒れ、今度はナディクスの王子が死んだって知らせで皇女が倒れ……

 こんなに要人がバタバタ倒れて、この国、大丈夫なのか?
 そのおかげでこんなに忙しい目に合わされて、次に倒れる候補の1人に俺まで含まれちまってる。

 それにしたって、あれからもう2年が経ったのか……
 つい先日はエミリアの16の誕生日だった。

 その日も残業で遅い時間に帰ったが、イリスと母上の話ではヘイゼルの子息と帝都の貸切レストランで食事しに行って、思い詰めたみたいな顔して帰ってきたと思ったら部屋にこもったきり出てこなかったらしい。

 あの男も、皇女が倒れてなんだかそれしか目に入ってないような素振りをしていたが、さすがにこの日の事は忘れてなかったか。
 エミリアもそんな特別な日を自分1人の胸に収めようと、家族にも共有しないで部屋でその時の記憶を何度もリフレインしていたに違いない。

 エミリアが他所の家に嫁入りするなんてな……
 2年前はそんな事、想像もできなかったがついにその時が来てしまったのか。

 トン トン トン

 そんな感慨に耽りながら残ってる仕事を片付けていると、ドアをノックする音がした。

 誰だ……? こんな遅い時間に、この図書館の役人しか入れない部屋に入ってくる輩もそうそういない。

 仕事仲間が忘れ物でもして取りに来たか?

 若干、不審に思いながらも、おかしな奴だったら24時間、正面口で見張りしてる騎士に止められてるはずだからと、思い直して扉を開いた。

 すると、そこに立っていたのは、まるで想定外の人物。

「兄上、お仕事中すみません……今お時間よろしいですか?」

 いつもの妙にキラキラしてやがる雰囲気が完全に消えて、思い詰めている、という表現そのままの顔をしたヘイゼルの子息だった……

「はあ? プロポーズを断られた?」

 自分の席の隣にヤツを座らせて話を聞くと、つい今しがた聞いた言葉を復唱していた。

「はい……これまでの僕の振る舞いで、何かいけなかった事があるのでしょうか? いくら考えても、全く見当もつかなくて……こんな事を相談できるのは、兄上しかいないのです」

 ヤツはうなだれて、こっちまで伝染してきそうな鬱々とした苦悶の表情を浮かべていた。

 つまり……エミリアがコイツと出掛けた誕生日の日、帰宅すると同時に思い詰めた顔して部屋にこもってたというのは、プロポーズを受け入れ現実を自分1人で噛み締めるためではなく、そんな苦々しい出来事が起こったからってことなのか?

 俺としては、大事なエミリアがコイツの手の内に収められるのは歯がゆい思いもあるにはあったが、エミリア自身を見ている限り、コイツの事を嫌ってる風には思えなかったけどな。

 いや、むしろあのワガママ王女の女騎士をやってる時でさえ、王女の目を盗んでヘイゼル邸に出入りしては、屋敷の修復作業やらなんやらに精を出してて、あの家の住人になるのを今や今やと待ち侘びてるようにしか見えなかったんだが……

 いや、待て。急に心変わりしたんじゃないのか?
 特に最近のコイツの振る舞い……考えられるとしたら、それしか無いだろ。

 コイツとは縁戚関係になりつつあるといっても、これまで深入りするのは避けていたが、俺もこの件に関しては誰か本人に分からしてやった方がいいんじゃないか? と思っていたからな、仕方ない。ガツンと言ってやるか。

「本当に何も分かっていないのか?」

 ヤツは一瞬、目を見開くと、足と腕を組んでいる俺の方を徐々に見上げた。

「皇女に対するお前の態度、エミリアと皇女と一体、どちらが大事なんだ?」

 ヤツは何を言われたのか分からない、といった顔つきで固まると、戸惑うように口を開いた。

「そんな……ソフィアナは僕のあるじでもあるのです。倒れた彼女を気に留めない訳にもいかないし、同じように彼女の下についているエミリアだって、それくらい分かって……」

「その考えが間違いだって言ってるんだよ。エミリアは分かってない。だから申し出を断ったんだ」

 ヤツは分かりかねる……と言わんばかりに、眉をひそめて俺から顔を背け下の方を見ていた。

 まぁ、こういう反応になるのも仕方ないだろうな。
 コイツと皇女は、生まれた時からほぼ一緒に過ごしていた訳だ。

 お互いの存在が近すぎるんだよ。
 普段はサバサバした関係のように見えるが、今回みたいなことがあれば何を差し置いても皇女のことをまず第一に考える。
 例え、フィアンセの目の前だとしても……

 それを自覚できていなかった訳だから、エミリアの判断はコイツにとってはいい薬になったんじゃないのか?

 ヤツはしばらく黙り込んで、1人考えていたようだが、おもむろに立ち上がった。

「僕の態度が、そんな誤解を与えていたという事なのですね……」

 そうして俺に向かって一礼すると、

「やっぱり、兄上に相談して良かった。もう一度、考えてみます。考えてエミリアに……告白します」

 若干、いつものに戻ったような笑みを浮かべて仕事部屋を後にしていった。

 まあ、これでヤツが皇女との件をエミリアに納得させる事ができたとして……
 他にプロポーズを断った理由は思いつかないが、もし違っていて再び断ったとしたら、どうなる?

 俺の頭の中では、侯爵家の令嬢にたかり出す虫みたいな連中が一気に押し寄せてくる光景が繰り広げられていた。

 もし1人だけ、1人だけエミリアの相手を選ぶしかないっていうんだったら……

 一応そう思って、後でエミリアにも釘を刺しておいた。


 しかし……

「ラドルフ様。こちらがヘイゼル邸に潜り込ませている、うちのスパイからの報告書です」

 ヤエリゼから頼んでおいた件の報告書を受け取った俺の瞳からは、不覚にも涙が出てきた。

 あの男が皇女との過去を話して、最も大事なのはエミリアだと語ったこと。

 それなのに……エミリアはその想いを完全に踏みにじり、口で言うだけではなく、目の前で婚約証を破り捨てて視覚的にもヤツに考えられないほどのダメージを植え付けた。

「こんなの、いくらなんでも可哀想すぎるだろ……」

 どうして、こんな事ができるんだ?
 皇女の女騎士になりたいからって……

 こうなったのには俺も無関係では無いだろう。
 ずっと家から一歩も出さずに、一生を過ごさせようとした。
 そのために、エミリアの精神は常人では無くなってしまったんだ。
 こんなのサイコパスとしか考えられない……

 それからすぐの事。
 予想通りにエミリアには、そこら中の虫がたかるようになり、そして……

 次に倒れることになったのは俺では無く、公爵子息に他ならなかった。
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