3 / 11
◈◈忌み子の少年◈◈
森の焼滅
しおりを挟む
少年はふと目を開けた。何故か胸がもやもやするのだ。
周りを見回すが、特に変わったことはない。ここには、ボロボロになった古びた木のイスと小さな机、今包まっている毛布にゴミを捨てたりトイレをしたりするための蓋付きの穴しかない。
かすかに音が聞こえた気がした。少年は音の聞こえた方に耳をすました。
間違いない。確かに音がする。
少年は今まで音も匂いも何も無いところで過ごしていたためか、感覚が優れていた。
上からパラパラと埃や砂が落ちてくる。はっとした少年が急いで上を見ると、微かに塔が揺れているのが分かった。
と、次の瞬間。
ゴオォォォォッッッ
外から何かがぶつかる音がして、塔がぐらりと揺れ、天井が崩れた。
∵∴✿∴∵❀∵∴✿∴∵
時は少し遡る。
少年が眠ってまだそれほど経っていない頃のことだ。森の外れに一人の人影があった。
この森には、強力な結界が張ってある。王宮魔導師や魔導騎士団の者達だって、そう簡単に破れないであろう結界が。その森に人影があったのだから、誰にだっておかしいということは分かるだろう。
人影は、手に何かを持っていた。油だ。それを森に撒き散らし、人影は魔法の詠唱を始めた。
「こ、こうするしかないんだ……こうするしか……!!」
よく見れば、腕が震えていることに気づいただろうが、幸いと言っていいのか、当たり前だがまわりには誰もいなかった。覚悟が決まったのか、バッと手を振り火をつけて人影は森の外へと逃走した。
油についた火はどんどんと広がり、ついに木に燃え移った。冬の乾いた木は火が広がるのも速かった。木から隣の木へ、また隣の木へ、そのまた隣の木へと火は燃え移っていった。森全体が燃えてしまうのも時間の問題だろう。
火は炎となって、中央にある塔近くまで迫っていた。炎は塔を囲い込み、塔の隣に立っていた大きな木に燃え移った。木は塔よりも高く、樹齢300年は経っているだろう、そんな木だった。
老木は根本が燃えて脆くなったのか、ぐらりと傾き塔に倒れた。
自分より大きい木になすすべもなく、塔は屋根を崩した。塔には魔法を封じ込める力があり、他の普通の塔より頑丈に造られていたはずだが、なにしろこの塔は300年以上前に建てられたもの。急いで造られたということもあるのだろうが、脆くなっていた塔はすぐに崩れたのだった。
∵∴✿∴∵❀∵∴✿∴∵
塔が崩れてどれほど経っただろうか。森中に広がっていた火は消え、あとには木や生物の死骸が広がるばかりだった。
ガラッ
ふと塔の残骸が動いた。塔の瓦礫の下から誰かが出てきた。あの少年だ。軌跡的に少年は瓦礫に当たらずにすみ、瓦礫と瓦礫の隙間に入ったのだった。
少年は服についた砂と埃を払い、瓦礫の中から出た。ふいに塔が気になったのか、後ろを振り返る。塔は完全に崩れ落ち、塔だった形跡は欠片もなかった。
少年はぐるりとまわりを見た。塔から出たことのなかった少年にとって、外に出るのははじめてのことだった。外がはじめての少年からすれば、ここが森だということも、その森が燃えて、周りに広がっているものが燃えた残骸だということも分からないのだが。
少年はもう一度瓦礫を見た。この瓦礫が自分の住んでいたところだと、なんとなくだったが分かったのだ。ボーッと相変わらず感情のない目でそれを見ていた少年だったが、ふと考え込んだ。
この塔が崩れたのならば、どこに住めばいいのだろうか、と。
しばらくの間考え込んでいた少年だったが、瓦礫の中に穴が空いていることに気づいた。老木のおかげで瓦礫が来ず、穴ができたのだ。少年は瓦礫から毛布を引きずり出し、穴に潜り込み毛布に包まった。毛布は瓦礫に挟まっていたからか、さらにボロボロになり、ところどころ穴が空いていたり、破れたりしていた。
周りを見回すが、特に変わったことはない。ここには、ボロボロになった古びた木のイスと小さな机、今包まっている毛布にゴミを捨てたりトイレをしたりするための蓋付きの穴しかない。
かすかに音が聞こえた気がした。少年は音の聞こえた方に耳をすました。
間違いない。確かに音がする。
少年は今まで音も匂いも何も無いところで過ごしていたためか、感覚が優れていた。
上からパラパラと埃や砂が落ちてくる。はっとした少年が急いで上を見ると、微かに塔が揺れているのが分かった。
と、次の瞬間。
ゴオォォォォッッッ
外から何かがぶつかる音がして、塔がぐらりと揺れ、天井が崩れた。
∵∴✿∴∵❀∵∴✿∴∵
時は少し遡る。
少年が眠ってまだそれほど経っていない頃のことだ。森の外れに一人の人影があった。
この森には、強力な結界が張ってある。王宮魔導師や魔導騎士団の者達だって、そう簡単に破れないであろう結界が。その森に人影があったのだから、誰にだっておかしいということは分かるだろう。
人影は、手に何かを持っていた。油だ。それを森に撒き散らし、人影は魔法の詠唱を始めた。
「こ、こうするしかないんだ……こうするしか……!!」
よく見れば、腕が震えていることに気づいただろうが、幸いと言っていいのか、当たり前だがまわりには誰もいなかった。覚悟が決まったのか、バッと手を振り火をつけて人影は森の外へと逃走した。
油についた火はどんどんと広がり、ついに木に燃え移った。冬の乾いた木は火が広がるのも速かった。木から隣の木へ、また隣の木へ、そのまた隣の木へと火は燃え移っていった。森全体が燃えてしまうのも時間の問題だろう。
火は炎となって、中央にある塔近くまで迫っていた。炎は塔を囲い込み、塔の隣に立っていた大きな木に燃え移った。木は塔よりも高く、樹齢300年は経っているだろう、そんな木だった。
老木は根本が燃えて脆くなったのか、ぐらりと傾き塔に倒れた。
自分より大きい木になすすべもなく、塔は屋根を崩した。塔には魔法を封じ込める力があり、他の普通の塔より頑丈に造られていたはずだが、なにしろこの塔は300年以上前に建てられたもの。急いで造られたということもあるのだろうが、脆くなっていた塔はすぐに崩れたのだった。
∵∴✿∴∵❀∵∴✿∴∵
塔が崩れてどれほど経っただろうか。森中に広がっていた火は消え、あとには木や生物の死骸が広がるばかりだった。
ガラッ
ふと塔の残骸が動いた。塔の瓦礫の下から誰かが出てきた。あの少年だ。軌跡的に少年は瓦礫に当たらずにすみ、瓦礫と瓦礫の隙間に入ったのだった。
少年は服についた砂と埃を払い、瓦礫の中から出た。ふいに塔が気になったのか、後ろを振り返る。塔は完全に崩れ落ち、塔だった形跡は欠片もなかった。
少年はぐるりとまわりを見た。塔から出たことのなかった少年にとって、外に出るのははじめてのことだった。外がはじめての少年からすれば、ここが森だということも、その森が燃えて、周りに広がっているものが燃えた残骸だということも分からないのだが。
少年はもう一度瓦礫を見た。この瓦礫が自分の住んでいたところだと、なんとなくだったが分かったのだ。ボーッと相変わらず感情のない目でそれを見ていた少年だったが、ふと考え込んだ。
この塔が崩れたのならば、どこに住めばいいのだろうか、と。
しばらくの間考え込んでいた少年だったが、瓦礫の中に穴が空いていることに気づいた。老木のおかげで瓦礫が来ず、穴ができたのだ。少年は瓦礫から毛布を引きずり出し、穴に潜り込み毛布に包まった。毛布は瓦礫に挟まっていたからか、さらにボロボロになり、ところどころ穴が空いていたり、破れたりしていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
13
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる