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✽第一幕 妖狐転生✽

1話 転生したようじゃ

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 ……なんだかうるさいのぅ。静かに眠れんではないか。何かあったのか?

 目をゆっくりと開ける。

 ……ぬ?なんじゃ、この記憶は。妾ではないのに何故だかしっくりくる。

 ……ふむ、前世の記憶みたいじゃな。どうやら前世で言うところの“異世界転生”らしいの。

 ……まぁ、そんなことはどうでもよい。妾は静かに眠りたいんじゃが。そういえば、さっきまでうるそうてうるそうてたまらんかったのに、なんだかえらく静かじゃのぅ。仕方ない。目を開けてやるか。

 眩しさで目をやられてはいけぬから、ゆっくりと目を開ける。

 ……何か、周りを囲まれておるぞ。な、なんじゃ。妾が何かしたのか?眠っておるうちにいたずらでもかしたのか?

 なんだか怖くなった妾は、耳を伏せ、尻尾に顔を突っ込み、体を小さく丸めてプルプルと震えた。

「ほらほら、怖がっているじゃありませんか。だから、周りに群がってはダメだとあれほど言ったのです。目を少し離しただけでこうなるんですから……。
 もう大丈夫ですよ。怖かったですね。母はちゃんとここにいますよ。」

 ひょいと身体が浮き上がった。何事かと思うたが、どうやらこの女子おなごが妾を持ち上げたようじゃ。

 女子おなごは黒く艶のある長い髪と、同じく黒い瞳を持っておった。特に髪は見事で、こういうのを濡れ羽色というのじゃろうな。その頭には白い狐の耳がついておった。白いふわふわな尻尾もついておる。ふむ、だいたい17、18くらいかの。笑うと花のような雰囲気を持つ美少女じゃ。

「大丈夫ですよ。母が側についておりますからね。」

 妾をゆらゆらと揺らす。言ってることからして、妾の母のようじゃな。これは妾の容姿も期待していいかもしれん。

 そんなことを考えていると、うとうととしてきた。

 ……考えるのはあとにして、今はこの揺れにのって眠るとするか。

 そう決めたら、急激に眠気が襲ってきて深い眠りへと落ちていった。
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