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✽第一幕 妖狐転生✽

5話 喜ばれることは嬉しいのぅ

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 トントンッ

水葱なぎ、入りますよ」

 スーッと障子を開けて母上様が入ってくる。今日は髪をポニーテールにし、着物は梅の刺繍が散った、下に向かって濃くなるグラデーションじゃ。上が一重梅ひとえうめ色、下が梅重うめがさね色じゃな。母上様の優しい雰囲気に良く似合っておる。

 妾はキュンキュンと鼻を鳴らし、挨拶をする。

 母上様が近づいてきたところで……

「ぁ……は…ひゃ………」

 口を開け、一生懸命声を出す。今までの練習の成果を出す番じゃ!!実は、今まで母上様達を驚かすために密かに喋る練習をしていたのじゃ。

「あら、どうしたのですか?」
「ひゃ……ん~っ……はひゃ…うえ、しゃま……‼」
「……!!」

 い、言えたぞ!!ぬ、言えてないと?か、噛んでなぞないぞ!!き、気のせいじゃ……!!

水葱なぎ、あなた今……!!」
「はひゃ、うえ…しゃま……?」
「はい……!母はここですよ!!」

 母上様が妾を抱き上げた。

 やはり、どうしても噛んでしまうな……はっ、噛んでない、噛んでないぞ‼
 クッ…………か、噛んだぞ。悪いか!!

「こうしてはおられません。旦那様にお知らせしなければ……!!」

 母上様はそっと妾を布団の上に降ろし、いそいそと父上様のところに向かう。

 ちなみに、妖狐族は長寿で、寿命は約2500歳らしい。と言っても、この世界は魔力の多さで寿命が変わるらしいがの。父上様と母上様はまだ若く、今年で、父上様は25歳歳、母上様は22歳歳になるという。妖狐族は30歳程までは人と同じように成長するはずなのじゃが……。ちと、見た目と年齢が違う気がするのぅ。あ、成人は15歳じゃ。

 そんなことを考えていると、廊下が少し騒がしくなってきた。

水葱なぎ、喋ったと聞いたが本当か!!」
「「水葱なぎ~!!」」

 バーンッと障子が勢いよく開けられた。
 どうやら父上様と母上様だけでなく、兄上様、姉上様も来たようじゃ。

「旦那様、枸杞くこ胡蝶こちょう‼廊下は走らないで下さいといつも言ってるではありませんか!!」
「母様、私は走ってません!」
「確かに見た感じ走ってはいませんでしたが、廊下からバタバタと音が聞こえたのですが」
「うっ……」
「そ、それより、水葱なぎが喋ったとは本当か!!」
「はい。ほら、水葱なぎ。旦那様達が来てくれましたよ。」

 父上様達がキラキラとした目で妾を見つめてくる。む、これは期待に応えないとな!

「ち…ちう、え……しゃま!!」
「お、おぉ……!!今、水葱なぎが俺を……!?」
「あ~!!父上ずるい!!
 水葱なぎ、僕も僕も!!」
「兄様、抜け駆けですか!!
 水葱なぎ、姉様ですよ、姉様。」

 兄上様と姉上様が、我先にと妾に顔を近づける。

「あに…うえ……しゃま!!
 あ、ね……う、え…しゃま!!」

 ふぅ、これでどうじゃ。兄上様も姉上様も文句あるまい。

「父上、母上!!水葱なぎが僕を呼んだ!!」
「母様、水葱なぎが姉上様って……!!」
「えぇ、ちゃんと聞いておりましたよ。良かったですね」

 何も、呼ばれただけでこんなにはしゃがなくとも……。妾に呼ばれてそんなに嬉しいのか?練習したかいがあったというものだのぅ。
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