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✽第一幕 妖狐転生✽

7話 自己紹介は大切なコミュニケーションじゃな

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「あの二人は放っておきましょう。」

 言い合う二人を見ていると、朝顔が言った。

 それもそうじゃの。あいつらを待っていたら時間がなくなってしまう。

「侍女のことなんですが、本当はあと2人いまして。ちょっと、山を越えた向こうの街まで買い物に行っているため、働くのはもう少し後となると思います。」

 ふむ、どうやら侍女は朝顔だけじゃなかったらしいのぅ。

 ……それにしても、まだ終わらんのか。少し鬱陶しくなってきたな。

曙升麻あけぼのしょうま殿、山査子さんざし殿。そのくらいにしてくださいませ!!水葱なぎ様の御前なのですよ。」

 朝顔も同じことを思っておったのか、ショウマと山査子さんざしに注意をした。

「も、申し訳ございません、水葱なぎ姫様!!ほら、しょうも謝れ!!」
「ごめんねぇ~、姫」
「ちゃんと謝れ!!」
「お二人共!!」

 また喧嘩をしそうになる2人に、朝顔が怒る。また縮こまるショウマと山査子さんざしに、妾は少しサービスをしてやることにした。

「しょーま、さんしゃし!!」

 か、噛んてでなぞおらぬ、おらぬからな!!……前にも同じようなことをした気がするのは気のせいじゃろうか。

「!!」
「い、今名前呼んだ!!呼んだよね!!」

 あぁ、もう。うるさいのぅ。呼ばないほうが良かっただろうか。

 ふと視線を感じて隣を見ると、朝顔が目をキラキラとさせて妾を見ていた。

 な、なんじゃ。そんなにうずうずとして……あ、そうか。

「あしゃ、がお!!」
「~~~~ッ!!!!」

 朝顔が顔の下半分を抑えた。あ、鼻血。

 ……まぁ、妾は可愛いからの。妾は寛大なのじゃ。心も器も広いのじゃ。このくらい、多めに見るのじゃ。オーホッホッホッホッ!!

 ……むぅ、なんか違う気がする。なんじゃ。どこがいけなかったのじゃ。

「それよりも、朝顔って呼んでいい?俺のこともショウマでいいからさ!!」
「俺のことも山査子さんざしでいい」
「では、ショウマさんと山査子さんざしさんで。」

 うむうむ。どうやら、使用人同士仲良くなれたようじゃの。同じ主を仰ぎ、同じ職場で働くならば、嫌い気まずかったり、仲良くないよりは、仲が良いほうが良いからの。

「それじゃあ、ここで自己紹介ターイム!!」
「「「は?」」」

 いきなり、何を言い出すんじゃ。

「おい、いきなり何を言ってるんだ。」
「え~、だって俺とサンちゃんだけならともかく、朝顔とは今日会ったばかりで何も知らないじゃん」
「そうですね……では質問形式でいきましょう」

 朝顔はパンと手を合わせた。

「それじゃあ、俺からしつもーん!!朝顔の趣味は?」
「趣味ですか?そうですね、お茶でしょうか。紅茶緑茶と何でも好きで、休日は新しいお茶っ葉を探したり、そのお茶っ葉を淹れたりしてます」

 ほぅ、大きくなったらぜひ飲ませてもらいたいのぅ。

「そういうショウマさんと山査子さんざしさんの趣味はなんですか?」
「俺は体を動かることなら何でも好きだよ。特に剣は体を動かせるし、鍛えられるし、強くなれるし、もういい事だらけだよねぇ」
「俺は読書だな。もちろん体を動かすことも好きだが、本を読んでいるとリラックスできる。色々な本があって、この後どうなるのかとか想像を膨らませることもできるし、イメージ力もつく」
「えぇ……よく読書でリラックスできるね……」
「読書は大事だぞ。色々なことを知れる。イメージ力があれば、作戦を練るときも役に立つし、何か予想外のことがあってもすぐに対応できたりするからな」

 嫌そうに言うショウマの言葉に、山査子さんざしがズバッと言った。朝顔は、ウグッ……と胸をおさえこむショウマを冷たい目で一瞥し、妾へと向き直る。

「それでは、私はこれで失礼いたします。何ぶん初日ですので、部屋の片付けや明日の仕事の確認、整理などがありますので……。できるだけ早く慣れるように努めさせていただく所存です」

 そうじゃの。朝顔は女子おなごだし、余計に荷物も多いじゃろうしのぅ。

「あ、水葱なぎ姫様。それでしたら私もよろしいでしょうか。」
「サンちゃんも帰るの?だったら俺も今日はこれで終わりにしようかな。それじゃ、お疲れ~……グェッ!!」
「お前は何勝手に行こうとしている!!お前はこれから俺と一緒に部屋の片付けだ!!」
「俺はこの後予定が~……」
「どうせ予定といっても、遊ぶことしか考えてないだろう!!」
「ヤダ~!!俺はまだ死にたくない~!!」
「駄々をこねるな!!ほら、行くぞ!!」

 駄々っ子ショウマは山査子さんざしお母さんに連れ去られて行った。
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