34 / 80
-友達-
34 あたしが進んでいく道
しおりを挟む「陽葵、誕生日ってやっぱり空けられないんだっけ?」
教室で紗奈に声を掛けられると、その内容はもう何度かあたしから伝えていた事だった。
「うん、ちょっと用事あるからムリなんだよね」
本当は用事がない時から断っていたんだけど、今は実際に用事が出来てしまった。
雪があたしの誕生日を祝ってくれると言ってくれているのに、それを無視する事は出来ない。
薄情かもしれないけど、あたしの中での優先順位は明らかだった。
どんどんと比重が増していく雪の存在に、少し戸惑いも感じるけど。
その流れを自分から変えるのは難しかった。
「まぁ、それなら仕方ないんだけどさ。でも、もうちょっと立ち回り考えた方がいいかもよ?」
「……どういうこと?」
紗奈がぽん、とあたしの席の上に座る。
彼女の横顔は鼻筋がすっと通っていて、軽く足を振りながらこっちを見る。
「最近は登下校もお昼休みもずっと白凪さん、遊びの出席率も低め、誕生日もムリ……これって皆どう感じると思う?」
紗奈が言いたい事はすぐに分かった。
少しずつ、皆にノリが悪いと思われているのだろう。
紗奈はその空気を感じて、あたしに注意してくれているみたいだ。
だけど、それは難しい相談だった。
「でも仕方ないよね、あたしだって色々あるんだし」
「……それだよ、それ」
「どれ?」
紗奈が呆れたような、疲れたような声を出す。
あたしのこの答えすらも見透かしていたように。
「一番問題なのは、陽葵のその淡泊な反応だと思うよ。もうちょっとでいいから、皆に申し訳なさそうな態度を見せてたら印象変わると思うけど」
あたしが雪との時間を過ごす中で、それ以外の人達といたいと思う気持ちは確実に薄れている。
その執着のなさとか、割り切ってしまっているあたしの姿勢が伝わって、友達とのズレが生じ始めている。
それが問題だと紗奈は言いたいらしい。
紗奈が言う通り、人間関係を円滑に過ごす上手なやり方はあるんだと思う。
取り繕うような言葉や態度を使いながら、やむを得ない事情だと伝えれば印象も変わるだろう。
でもあたしはそれらをせずに、用件すら明かさずに、雪との時間を優先するようになっている。
そんな不透明な人間が孤立していくのは当たり前で、むしろまだ繋がっている今の状況の方が特殊なのかもしれない。
「正直、陽葵じゃなかったらもっと辛辣な空気になってると思うよ」
「それは……困ったね」
でも、それでもいいと思い始めているあたしもいる。
このまま皆が離れて行くのは寂しいとも思うけど、この煩わしさからも解放されると期待している自分も同時にいた。
ほんの少し雪の事を優先したいと思い始めただけで、人間関係という名の天秤はグラグラと揺れ始めている。
この誰かとの間を行き来する時に、どこかに気を遣わないといけない空気感はあまり好きじゃない。
目に見えないはずなのに、そこに重さや軽さがあるような、その空気の張りすらも感じるような繊細さはあたしの性には合わないのかもしれない。
「そう言いながら、あんまり困ってなさそーなのがこれまた困るんだよなぁ」
紗奈は頭をもたげていた。
彼女も彼女なりに、その人間関係の天秤に揺らされているのかもしれない。
「紗奈は困らないでしょ」
「どーせだったら皆で平和でいたいでしょ、どっちも悪気ないのにバラバラになるのは何だか歯がゆいし」
そうやって紗奈は自分以外の誰かの事を気にして、思い悩んでいる。
あたしは自分の事だからいいんだけど、紗奈はどうしてそこまで自分の事以外に気を配るのだろうか。
いや、ありがたいんだけどね。
ただ単純な疑問として思うだけ。
「紗奈はどうしてそんなにあたしの事まで気を遣ってくれるわけ? 嬉しいけど、そこまで思い悩まなくても、あたしは大丈夫だから」
どこまで行っても、あたしの事はあたしの事だ。
自分でケジメはつけられる。
でも紗奈は自分じゃなくて、他人の事を心配してしまっている。
他人の事なんて自分でどうする事も出来ないのだから、そりゃ思い悩んでしまえば止まらないだろう。
「いや、それは……」
紗奈があたしを見ながら言葉を詰まらせる。
いつも流暢に話す彼女のそういう姿は結構珍しい。
「あー、ごめんごめん。皆の平和が紗奈の平和なんだもんね」
自分の身の回りの幸せが、結果的に自分の幸せ。
だから紗奈も自分のためにやっているという事で。
ただ、その範囲が広いだけ。
あたしはその範囲がどんどん狭くなって行って、気付けば雪だけになりそうだから。
その差が、今のあたし達のすれ違いを引き起こしているのかもしれない。
「いや、それとこれとは微妙に違うんだけど……」
それでもどこか言葉を濁す紗奈。
ニュアンスが違っただろうか。
「なんか変なこと言った?」
「や、うん……何でもない。それはそうだしね」
自己解決したのか、うんうんと紗奈は大きく頷く。
それと一緒に足の振り幅も大きくなっていて、いつもの彼女らしくない子供っぽさを感じさせた。
まぁ、普段の紗奈が大人っぽすぎるだけなんだけど。
それともあたしがガキすぎるのか?
「ちなみにさ、陽葵の誕生日の予定って聞いたらダメなの?」
「……あー」
その質問の返事は悩む。
「何も教えてくれないからさ、こっちは隠されてるって思っちゃうのは仕方ないよね」
……白状するなら、あたしは雪が誕生日を祝ってくれるんじゃないかと期待していた。
だから最初は予定がないのに断ってたから言えなくて。
今は雪との予定が入ってしまったから言えなくなっている。
結局は、雪と一緒にいたいから断っているわけで。
こんな事、言ってしまえば距離が開いていくのは当然で。
かと言って、黙っていても距離は開いていくわけで。
どうしたって、あたしの進む道は外れていくしかなさそうだ。
その外れた道の先に、雪がいればいいなと願いながら。
「白凪さん?」
「……えっと」
紗奈の目があまりに真っ直ぐで、確信めいたものを宿していたから。
あたしは中途半端な声を上げるしかできなかった。
どちらに転んでも良い結末に辿り着かないであろう選択肢を選ぶのは、こんなにも難しいのかと感じる。
「ほんと分かりやすいよね」
「いや、あたし何も言ってないけど」
「目は口ほどに物を言う、ってね」
それは今まさに紗奈から感じたことなんだけど。
いや、だからこそ紗奈もあたしから感じたのか。
「言わないから安心してよ、逆にそれっぽい理由作っとこうか?」
「……んー」
きっと紗奈に頼めば上手くやってくれるのだろう。
次に会う時はもっと和やかな空気になっているとも思う。
だから素直にお願いした方が楽にはなれるんだろうけど。
「いや、このままでいいかな」
でも、それって結局あたしじゃない。
紗奈が作り上げた虚像がそこにいるだけだ。
そんなのいつか壊れてしまうだろうし、壊れないようにあたしが虚像に引っ張られるのも違うと思う。
あたしはあたしのままで、それで崩れてしまう関係性があったなら、それがあたしなんだと思う。
「……そっか。そんな感じなんだ」
納得してくれたのか、それとも呆れられたのか。
どっちともつかない息を吐いていた。
パタパタと揺れていた足も、今はその動きを止めている。
「ま、どうにかなるでしょ」
「……どうなってもいい、の間違いじゃない?」
ある意味はそうで、ある意味ではそうじゃない。
あたしが失ったら困るのは、きっと雪の方だから。
だから雪といる為に崩れてしまうものがあったなら。
そっちを切り捨てる覚悟があるだけで。
「どうなっても、あたしはあたしだよ」
だから、後悔だけはしない道を進んで行きたい。
10
あなたにおすすめの小説
ハナノカオリ
桜庭かなめ
恋愛
女子高に進学した坂井遥香は入学式当日、校舎の中で迷っているところをクラスメイトの原田絢に助けられ一目惚れをする。ただ、絢は「王子様」と称されるほどの人気者であり、彼女に恋をする生徒は数知れず。
そんな絢とまずはどうにか接したいと思った遥香は、絢に入学式の日に助けてくれたお礼のクッキーを渡す。絢が人気者であるため、遥香は2人きりの場で絢との交流を深めていく。そして、遥香は絢からの誘いで初めてのデートをすることに。
しかし、デートの直前、遥香の元に絢が「悪魔」であると告発する手紙と見知らぬ女の子の写真が届く。
絢が「悪魔」と称されてしまう理由は何なのか。写真の女の子とは誰か。そして、遥香の想いは成就するのか。
女子高に通う女の子達を中心に繰り広げられる青春ガールズラブストーリーシリーズ! 泣いたり。笑ったり。そして、恋をしたり。彼女達の物語をお楽しみください。
※全話公開しました(2020.12.21)
※Fragranceは本編で、Short Fragranceは短編です。Short Fragranceについては読まなくても本編を読むのに支障を来さないようにしています。
※Fragrance 8-タビノカオリ-は『ルピナス』という作品の主要キャラクターが登場しております。
※お気に入り登録や感想お待ちしています。
久しぶりに帰省したら私のことが大好きな従妹と姫はじめしちゃった件
楠富 つかさ
恋愛
久しぶりに帰省したら私のことが大好きな従妹と姫はじめしちゃうし、なんなら恋人にもなるし、果てには彼女のために職場まで変える。まぁ、愛の力って偉大だよね。
※この物語はフィクションであり実在の地名は登場しますが、人物・団体とは関係ありません。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」
三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。
クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。
中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。
※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。
12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。
身体だけの関係です 原田巴について
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789
作者ツイッター: twitter/minori_sui
せんせいとおばさん
悠生ゆう
恋愛
創作百合
樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。
※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。
小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話
穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる