17 / 50
本編
17 パートナー
しおりを挟む「ふぅー、すずしー」
最寄りのスーパーに入ると、冷房が利いてるおかげもあって外との気温差を感じた。
隣にいるハルは、その涼しさを文字通り肌で感じていた。
「ハルってもしかして暑がりなの?」
「もしかしなくてもそうだよ。見りゃ分かるでしょ」
「見た目で、誰かの暑がりが分かった経験はないわ」
「いや、そーじゃなくてあたしの恰好いつも見てんだから分かるでしょって」
ハルの恰好……?
制服はともかく、家の恰好は部屋着と言ってもバリエーション豊かで特に統一性も感じていない。
強いて言うのなら、いつもショートパンツで素肌を露出している……って、ああ、そういう事か。
「暑いからいつも素肌を出しているの?」
「まー、そゆこと」
「その観点はなかったわ」
「いつもエロい目で見てるから気づかないんだろ」
平然と、公共の場でそんな事を口にする。
いつもそういう事を言うものだから、私も何となく慣れてきてしまっているのが驚きだ。
ダメだろ慣れたら。
「私じゃないにしても、そういう目線で見られる事は多いって言ってたわね」
「ああ、さっきすれちがったおっさんも見てたぜ」
なんか生々しすぎて反応に困る。
「……嫌にならないの? そんな目線で人から見られるって」
自分で想像してみると、それはかなり不快感がありそうだ。
知りもしない人に情欲を抱かれるなんて、どう考えても気持ちが良いものではない。
私がそんな経験をする日が来ないことは、重々承知しているけれど。
「良いも嫌もないな、気付けばそんな奴ばっかりだったから」
「……そういうものかしら」
それすらも人は慣れてしまうのだろうか。
だけど、それはどちらかと言うと麻痺に近いような気もする。
「ああ、でも澪からの視線は悪くない。むしろ好きだね」
またハルは意味が分からない事を言っている。
「私はハルをそんな目で見ていないわ」
「無自覚ってこわいな」
仮に、仮にだ。
私がハルをそういう情欲の対象として見ていたとしよう。
だとして、その先に何がある。
女性同士で、姉妹同士で。
超えてはならない壁がそこにはある。
だから、そんな事は意識すべきではない。
いや、そもそもしてないのだけど。
「スーパーでするような話じゃないわ」
「家に帰ってじっくりするかい?」
「あんまりしつこいと野菜のみの夕食にするわよ」
「あー、ウソウソ。それだけはムリ」
ようやく浮わついた話が終わりを迎える。
ハルはすぐにおかしな方向に話を持っていくから、注意しなければならない。
「何か食べたい物はあるの?」
「肉」
……参考にならない。
献立を考える苦労を考えてくれないだろうか。
「というかハルが料理をしてくれてもいいのよ」
精肉コーナーに向かいつつ、ハルに問いかける。
「ムリだって、やったことないし、やる気もないし」
「将来どうするつもりよ」
「将来?」
「ほら結婚した時か」
“女性が料理を作るべき”、なんて時代錯誤な考えはないけれど。
でも傾向としては、きっとそういう形が多いと思う。
そんな日が来るとき、ハルはどうするつもりでいるのだろう。
「パートナーに任せる」
他力本願だった。
「……素敵な旦那さんが見つかるといいわね」
案外こういう子は社会に出た方が輝くのかもしれない。
ハルにとって、学校は堅苦しすぎるような気もしている。
「旦那かどうかは分かんないけどねぇ」
「……はい?」
「奥さんかもしれないだろ?」
常識知らずとは思っていたが、ここまでとは。
性別すら、この子は理解していないのか。
いや、さすがにそこまで残念なわけないか……。
「自分が何を言ってるのか分かってる?」
「当たり前だろ、澪の方こそ意味わかってる?」
「……分からないわね」
「じゃあ、説明してあげようか」
「遠慮しておくわ」
「なんだよ、つめた」
“ちぇっ”とハルは唇を尖らせて、陳列されている精肉コーナーを眺める。
ハルの発言の意味を理解して、理解した先に、何が待っているのだろう。
どうすればいいのかよく分からない。
だから、知ろうともしない。
私はきっとずるいんだと思う。
「……でも意外ね」
「なにが?」
「ハルと一緒にスーパーで買い物する日が来るとは思わなかったわ」
「夫婦みたいだな?」
……やっぱり、無視し続けるのは難しいのかもしれない。
「ハルは夫か妻で言うと、どちらになるのかしら?」
「どっちかで言うとあたしは夫だろ」
「……ちゃんと働きなさいよ」
「あたしのこと馬鹿にしすぎ。そこまでダメ人間じゃねーから」
お互い軽口を叩いて、少し笑う。
ハルの会話は軽口で冗談だ。
本気にするような会話ではない、そう思っていいはずだ。
きっと私は意識し過ぎなのだ。
「いつも肉肉言ってるけど、何の肉が好きなの?」
いつも、よく分からず料理を用意していた。
「何でも」
「……本当にハルってテキトーなのね」
「好き嫌いがないって言ってくれ」
「野菜を毛嫌いしてる時点でそれはないわ」
うん、でもそれはそれで楽だ。
好きに作ってしまえばいいのだから。
「生姜焼きでいいわね」
「あ、いんじゃねー」
こだわりがあるのかないのか、ハルはやはりよく分からない。
「キャベツも買っていきましょう」
「それはいらない」
「食べなさい」
“うげぇ”と舌を出していた。
せめて言葉を発して欲しい。
「たまには料理を作るの手伝ってみたら?」
毎回一人で作る大変さをハルも体験すべきだ。
「花嫁修業?」
お前は夫なのか妻なのか、どっちなんだ。
いや、ハルの発言なんてテキトーなのは分かっているのだけれど。
私が真面目に考えてしまった分、肩透かしを食らう。
「まあ、そういう名目でもいいかもしれないわね」
「澪が作ってくれるんだから、それでいいだろ」
それが現在の関係を意味していると分かっていても。
さっきの会話のせいで未来の話も含まれているのかと、変な事を考えてしまう。
「……そう、ね」
私は現在だけを肯定する。
未来の事なんて、とても想像すらつかない。
だってハルとスーパーに来る未来さえ、数か月前の私は描けなかったのだから。
2
あなたにおすすめの小説
学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった
白藍まこと
恋愛
主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。
クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。
明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。
しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。
そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。
三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。
※他サイトでも掲載中です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」
三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。
クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。
中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。
※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。
12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。
身体だけの関係です 原田巴について
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789
作者ツイッター: twitter/minori_sui
放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~
楠富 つかさ
恋愛
中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。
佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。
「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」
放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。
――けれど、佑奈は思う。
「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」
特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。
放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。
4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。
小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話
穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。
【完結】【ママ友百合】ラテアートにハートをのせて
千鶴田ルト
恋愛
専業主婦の優菜は、夫・拓馬と娘の結と共に平穏な暮らしを送っていた。
そんな彼女の前に現れた、カフェ店員の千春。
夫婦仲は良好。別れる理由なんてどこにもない。
それでも――千春との時間は、日常の中でそっと息を潜め、やがて大きな存在へと変わっていく。
ちょっと変わったママ友不倫百合ほのぼのガールズラブ物語です。
ハッピーエンドになるのでご安心ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる